最後の国王
イザール国王は走ってきてくれた。
「初めまして。このたびは突然の訪問、誠にご迷惑をおかけしました。冒険者のナツと申します」
「魔国国王のイザールです。神獣さま、イザナミ国王、そしてハイガさんもようこそお越しくださいました」
「うむ」
「宜しくお願いします」
「お願いします」
「皆様が世界の危機を救ってくださったそうですね」
「はい。なにか心当たりがありましたか?」
「不穏な兆候は確かにありました。草木は枯れ、地震や噴火も起きていて、何かが起きているという不安を抱えていたのです」
「とにかく間に合ってよかったです。もう堕神も倒したので大丈夫だと思います」
「本当にありがとうございます」
そして本命の相談だ。
「イザール国王。私が今回ここに来たのは本来は別のトラブルのためでした。その件についてお話しさせていただけますか?」
「もちろんです。場所を移しましょう」
イザール国王の案内でオレたちは宮殿に案内された。
大きな広間に通されてテーブルにつく。
「改めて魔国へようこそ。早速ですが別件というのは?」
「私は異世界人だとお伝えしました。この世界と私の世界がまもなく融合します」
「え?!」
「神からの啓示がありました」
「なんと……」
「そのことを伝えに私はこの世界にきています。ジャポネーゼのウート国王、獣人国のウララ国王、ドワーフのガント国王、エルフのエイリル国王にはそのことを伝えて協力を取り付けました」
「そうなのですね」
「私は争うことなく両世界がその時を笑顔で迎えることを望んでいます」
「………」
「どうでしょうか。近く両世界のリーダーを一同に会した顔合わせをするのですが、イザール国王にもご参加願えませんか?」
しばらくの熟慮の上、イザールは笑って手を差し伸べた。
「ナツ殿を信じましょう。目の前にすでに種族や立場を超えた仲間をお持ちの方だ。あなたなら信じられます」
「イザール国王、ありがとうございます。さっそくみんなを集める準備に入ります。その日をお待ちください」
私たちは固い握手を交わしたのだった。
――――――――――
「よっしゃあ!」
「やったな主」
「お見事です」
「よかったね」
まずはエイリル国王の元へ。
無事の解決を報告してから世界樹の様子を見に行くことにする。
エイリルをイメージして転移すると、そこは世界樹の前だった。
そこにはエイリル国王を含めて大勢のエルフたちが待っていてくれたのだ。
「おかえりなさいナツ様」
「「「「「おかえりなさい!」」」」」
「ただいま戻りました。危機は脱しましたよ。世界樹の様子はどうですか?」
「みるみる元気になっているのがわかります。本当にありがとうございました」
「よかった!」
エルフのみんなもヒョウたちのもとへ駆け寄り、みんなにお礼を伝えていた。
ハイガも嬉しそうにしている。
よかった!
エルフの人たちとも仲良くなれそうだ。
オレは世界樹のもとに近づき、幹に手を当てる。
「よかったな」
すると世界樹がざわざわとその枝を揺すりだした。
〈ありがとう。これはナツへのお礼だよ。受け取ってね〉
世界樹のそびえる上空から何かが落ちてくる。
手を差し伸べるとそれはオレの手のなかに自然と収まった。
神々しく美しい金色に輝く実だ。
「エイリル、なんか世界樹がくれたんですけど、これが何かわかりますか?」
その実を差し出すとエイリルたちが涙を流して震えだした。
「それは世界樹の実です! 1000年に一度、ひとつだけ落とすと言われる貴重なものです」
「へえ! それはすごい!」
「実についている1枚の葉は死者を蘇生するといわれています。またその実を食べるととてつもない癒しの能力が手に入るとも。さすがナツ様ですね。そんなものを手に入れてしまわれるとは」
「でも1000年に一度ですよね? なんか申し訳ないな。横取りしたみたいだ」
「先ほどの声は私にも聴こえました。これはナツ様への世界樹からのお礼です」
オレは世界樹に再び手を当てる。
「ありがとう。だったら遠慮なく受け取るよ。きっとオレたちに必要なものなんだろう。二つの世界をいい形で結んでみせるよ。また報告にくるからな」
〈うん。待っているよ〉
世界樹は最後にうっすらと仄かな光を浮かべてから元の大樹へと戻っていった。
エイリル国王にもこれからのことを伝えておく。
「世界の国王たち、そしてナツ様の世界の皆さまと会えるのを楽しみにしています」
「ありがとう!」
「エルフの里に戻れる秘具をお受け取りください」
「あ、エイリル。そのことなんだけどさ。行きに道を通ったらその術式が解析できちゃったみたいなんだ。転移も使えるみたいだし、その宝物は貰わなくて大丈夫だよ」
「そういえば確かに。嬉しくて気が付きませんでしたが普通に転移して戻りましたよね。ナツ様、すごい」
「なんかすみません。また来たいからこれからも使わせてもらえたら嬉しいです」
「もちろんです。でもそうすると代わりに差し上げるものが……」
「いいんですよ。世界のためにこれからも力を貸してください」
「なんて方でしょう。………ナツ様、私を受け取っていただけませんか?」
「へ?」
「お慕い申しております」
「えええええ!!!!」
とんでもないことになった。
周りのエルフも大騒ぎだ。
みんなが喜び踊りだしてるぞ。
「主、どうするのだ」
「ナツ殿、こちらでは何人も娶るのが普通ですよ」
「いや、無理だって!」
慌ててエイリルのそばに行き、頭を下げる。
「エイリル、その気持ちは本当に嬉しいんだけどさ、オレにはもう許婚がいるんだ」
「そうなのですね。その方にもご挨拶しなければいけませんね」
「いや違う。オレの世界では妻は一人だと決まってるんだよ」
「へえ、そうなのですね。わかりました」
「良かった」
「私は国王ですからこの国を離れられません。ナツ様がこちらにいらしたときの伴侶として尽くさせていただければ良いのです」
「え?」
「この世界では男性が多くの女性を養うのはむしろ美徳です」
「なんそれ」
ヤバい。えらいことになった。
「エイリル、それがこの世界の常識でもオレの世界は違うし、オレも受け入れられないんだ」
「そうですか……ならばいつかこの世界の常識をご理解されたその時には、私を妻として娶ってくださいまし」
「あ、そんな時がくるとお約束はできませんが、それでよければここは収めていただけますか? なんかもうみんな踊っちゃってるし」
「わかりました」
そう答えるとエイリルは皆に向かって声を上げる。
「みんな、聞いて。ナツ様には許婚がいて、ナツ様の世界では妻は一人というのが神との約束なのだそうです」
みんなは踊りをやめて愕然とした。
「なので私はこの世界の妻を目指します。その日が来ることを願いましょう。ナツ様もそのことはお約束してくださいました」
「「「うわあぁぁぁ!!」」」
みんなはまた踊りだした。
「エイリル、その言い方じゃあ!」
「このくらいは顔を立てさせてくださいな」
「いや……でもなあ」
「いつかその日が来るのを楽しみにしています」
「わ、わかりました」
大丈夫なのかこれは。
エルフ、大騒ぎしてるけど。
「主……」
「なあ、これ婚約した感じになってないか?」
「なってますよ」
「だ、だよね」
「主、アキに殺されるぞ」
「間違いないです」
「ナツはモテモテなんだね」
やめくれ……。




