迷いの森
魔人たちは北の大陸、エルフは南の森に国を持っているそうだ。
どちらの国も他の種族とは交友を持たず、鎖国状態らしい。
面会は困難だろうというのがウートたちの意見だった。
「少なくとも私たちはいないほうがいい」と揃って言うのでオレたちだけで訪問することにした。
仲良くなれたら今度はオレがみんなと繋いであげよう。
ランクル改を走らせていると、ハイガが窓の外に顔を出して気持ちよさそうにしているのが目に入った。
「ハイガ、嬉しそうだな」
「うん。懐かしい感じがするんだ」
「ハイガはこの辺に住んでたのか?」
「最後はウートの国にいたけど、子どもの頃にエルフの森の近くにいたことがあるよ」
「そうなのか!」
ハイガはこんな話し方だけどもう100歳を超えている。
言葉を教えてくれたのが魔狼の子どもだったらしく、こんな言葉遣いになったようだ。
でも不思議と話し方で幼く見えるもんで、オレも弟のような感覚でいる。
「ハイガが住んでいたのか。なら先にエルフの森に行こう!」
「いいの!?」
「もちろんだ!」
「やったー!」
かわいいぞ。
見た目は激怖のハイオーガだけどな!
ハイガは毎晩ヒョウの特訓を受けている。
真面目な性格でオレにも剣道の稽古も志願してきたから毎朝一緒に素振りもする。
その関係もあって魔力もどんどん伸びており、ハイオーガのランクはもう遥かに超えた実力を持っている。
イザナミさんからも手ほどきを受けているというから剣士になりたいのかもな。
「なあハイガ。ハイガは剣士になりたいのか?」
「……うん。無理かな?」
「とんでもない!ハイガには剣道は合ってると思うぞ」
「本当に?」
「ああ。剣道は才能だけがすべてじゃない。一番大事なのは毎日の努力の積み重ねなんだ」
「うん!」
「ハイガがどんなに頑張ってるかは毎日一緒に稽古をしているオレがよく分かる」
「そっか!」
「ハイガの仲間にはとんでもなく強い剣士がたくさんいるからな! イザナミさんだけじゃなく師匠もバケモノだぞ。アキやひかりさん、篠田にだって教わることはまだまだたくさんあるはずだ」
「たくさん先生がいるんだもんね。ぼくもっと頑張るよ!」
「そうだ。その意気だ! あ、ちょっと待ってろ」
オレは練習用にいつも使っているハイガの木刀を取り出して改めてクリエイトした。
(どうかハイガの努力が実りますように。いつもハイガのそばにいて、その力を伸ばしてやってください)
オレの願いを込めたクリエイトに、木刀は青く輝く。
まるでその言葉に応えてくれたような感覚がある。
「お待たせ。ハイガ専用の木刀だ」
神眼で見てみると――「愛弟子の剣」と出た。
「絶対に折れず斬れないものはない」というのはもういつもの触れ込みだ。
驚いたのはその恩恵。
「稽古の経験値二倍」
「師と仰ぐ者との練習で得る経験値三倍」
「剣を使った戦闘時の経験値五倍」
エグくないかこれ。
あ、さっきのクリエイトか!
大喜びするハイガ。
こりゃ取り上げるわけにはいかないか。
すまん篠田。
ハイガは近いうちにお前を超えるよ。
――――――――――
「そろそろ見つけたいよな」
「そう簡単にはいかないですね」
「同じところに見えるね」
エルフの森と呼ばれるゾーンにたどりついてから二日。
いまだに迷いの森を抜けられる気配がない。
「こりゃ偶然抜けられるっていうものでもないんだろうな」
「条件があるとかですか」
「だろうな」
「なら闇雲に走っても意味ないね」
川沿いに少し開けた場所を見つけたのでオレたちはそこでキャンプをすることにした。
いつもバーベキューじゃ芸がないよな。
香辛料もたくさん手に入れたしここはキャンプの定番、カレーだな!
オレのカレーは鶏も豚も牛も使う。
どれかに絞るなんて勿体ないと思うんだけどオレだけなのかなあ。
チキンは骨付き、ポークは脂の甘み重視、ビーフはスジと、肉の部位にはこだわりはあるんだけどね。
野菜は基本のものにカボチャとナスは必須で、願わくばズッキーニ。
湘南で食べた珊瑚礁スタイルでレタスも脇に添えるのがいつものナツカレーだ!
ぐつぐつコトコト煮込む。
静かな森にそぐわないカレーの香りが漂う。
誰もいないしいいよねー。
ウチの者たちは早くもテーブルに座って今か今かと完成を待ちわびている。
「ナツ! まだなのか!?」
「黄龍、主のカレーはこだわり満載だ。急かしても無駄だぞ」
「もうちょいな! ナツカレーは隠し味に手間をかけるから!」
カレーのいいところはそこ。
ソース各種、焼肉のタレ、ハチミツ、バター、醤油、味噌などなど、冷蔵庫にあるいろんなあれこれをちょびっとずつ足していくのが楽しいのだ!
そんな感じで仕上げを楽しんでいると、森の奥からヒソヒソ声が聴こえてきた。
(ねえ、どうする?)
(いやさすがにマズイわよ。龍に神獣までいるのよ)
(でもあれ絶対美味しいよ)
(確かに)
(でもなー。王様に怒られちゃうよね)
(我慢できる気がしないわ)
なんか釣れたな。
エルフが二人かな。
カレー凄いな。
「なあ、よかったら一緒に食べようぜ」
「「ひゃっ」」
驚いたエルフが草むらから転げ出た。
うわ、めちゃくちゃ美少女だよ。
エルフが美人って本当なんだな。
二人とも緑のふんわりしたワンピースを着ていて………ありゃ、転んだ拍子に見えてはいけないものが見えてるな。
ありがとうございます。
下着履かないんだね。
「主! 減るではないか!」
「ナツ、甘やかすでない」
「おなかすいたよー」
「おなかが空きました」
ちょうど米も炊けたな。
「こっちにおいで。用意しておくからね」
とりあえずウチの食いしん坊たちを大人しくするか。
どうせめちゃくちゃ食べるんだろうから大量コピーもしておこう。
「え?」
「数が増えた!」
「ヒョウと黄龍はミニサイズになっとけよ」
「「はい!」」
「ドラゴンと神獣を躾けてるわよ?」
「ありえるの!?」
よーし。
準備完了。
トドメはヤツらの実食レポートで仕上げだな。
「ほら、どうぞ」
三人にカレーを配膳すると途端に夢中になってがっつく。
「どひゃあ〜〜!!!!」
「なんじゃあこれはーーー!!!」
「辛〜い! でも美味しい〜!」
「主! 今回も奥行きありすぎだ!」
「ナツ! ワシはもう一生離れんからな!」
どんだけだよ。
ほんと君たちチョロいな。
と、いつの間にかエルフの美少女コンビが席に着いていた。
「「お願いします!」」
うむ。食リポ大成功だ。




