獣人国
飛び込み参加だったが、獣人国へのプレゼンは結果的に成功だった。
もともと国柄として異種族への抵抗は少ないらしく、人間はもちろんモンスターに対しての偏見も他に比べれば少なく、テイマーになるものも多いそうだ。
「だからといってまさか神獣とハイオーガを引き連れて飛び込んでくるとは驚いたがな!」
ウララ国王は酒を飲みながら大笑いしている。
今は懇親会が始まり、大きな宴会場で食事をごちそうに生っている。
「いや本当にすみません。まさか謁見中だとは知らずに」
「まあよい。話が早くてよかったぞ」
「ありがとうございます」
「ウララ、力を貸してもらえて助かるよ」
「ウートからまさか協力要請とはな。てっきりまた試合の申し込みかと思ったぞ」
「は?」
「それもいいなら是非頼む」
「そういうのはいいからさ。やれ敬語禁止とか考え方がヤバいんだよ」
「ガハハハ! よくわかっておるなナツ!」
本当に豪快な人だな。
良縁を知らせるサインが鳴りっぱなしだ。
「そういえばもう一人の御仁の紹介が途中であったな」
たしかに!
神獣騒ぎでイザナミさんの紹介ができていなかったな。
オレは立ち上がって大きな声でみんなに説明をする。
「お食事の途中にすみません! まだ一人の仲間のご紹介ができておりませんでした。こちらの世界の方でイザナミさんと言います」
途端に会場がフリーズする。
「イザナミ!?」
「イザナミってあの!?」
「確かに! 肖像画と同じ顔だ!」
「そんなまさか!」
ざわめきは止まらずどんどん広がっていく。
ありゃ?
もしかして有名人なのか?
イザナミさんの方を見ると、明らかにしまったという顔をしている。
「あれ、まずかったのかな」
「イザナミ様、あなた様は……あのイザナミ王でいらっしゃるのですか?」
イザナミさんは覚悟を決めたように答える。
「はい。初代……といっても一代限りですが、この世界の王をしていました」
それにはオレが驚く。
「え? 世界の王? 国王でもなくて? この世界全体の王ってこと!?!?」
「もう1000年前のことなのでまさかまだ覚えていただけているとは思いませんでした」
なんとイザナミはこの世界の王だったらしい。
オレの仲間はどうなってるんだ!?
――――――――――
これはその時に聞いた話だ。
かつてこの世界は一度大きな危機を迎えたことがある。
ドラゴンの一族が突如として世界を襲い始めたのだ。
これまで聖なる象徴として世界に君臨していたはずのドラゴンが気が触れたかのように暴れ、世界は大混乱に陥った。
その時にドラゴンの王を倒してドラゴン族を鎮めたのが人間族の王であったイザナミである。
以来、イザナミは世界を救った英雄として崇められ、その後、種族を超えた王として認められるようになった。
これまで種族ごとにしかまとまっていなかったこの世界に、初めて共和国という概念が芽生え、その初代の王としてイザナミが選ばれたのだという。
その後、10年は平和そのものだった。
新しい時代に世界が希望を持ち、イザナミは平和な世界を築いていった。
だがそこに新たな厄災が世界を襲う。
神界戦争に敗れた堕神たちがその力を取り戻したのだ。
堕神たちに率いられた魔王軍が共和国を強襲した。
堕神は魔王軍に真っ先に民衆を襲わせて人質に取り、イザナミを無力化して拘束した。
そこで希望の灯は途絶えた。
築きあげた平和は音を立てて崩れ去り、共和国は崩壊していく。
世界は元の種族ごとに別れていき、今に至る。
しかし人質となった民衆のためにその力を振るうことなく魔王に囚われてしまった英雄への賞賛は失われなかった。
その後もイザナミへの賛辞は1000年の時を超えて世界へ語り継がれているのだという。
――――――――――
とんでもない歴史だった。
客観的に聞けば、そもそもドラゴンが狂った理由にも何かしらの悪意を感じる。
おそらくは力を取り戻す前の堕神による策略なのだと思う。
その後、力を取り戻した堕神たちが世界を襲ったと見るのが普通だろう。
この世界もそれが分かっているから永きに渡りイザナミを讃え続けたのだと思う。
「イザナミ様。無事のご帰還、心よりお慶び申し上げます」
深く頭を下げるウララ国王たちにイザナミが告げる。
「だが私はあのあと魔物に転位させられ1000年もの間、魔王たちに操られたのだ。明確な記憶はないが私に殺められた者もいるはずだ」
「操られた上でのことなればそれはイザナミ様の意思ではありません。どうかこれ以上ご自身を戒めるのはお止めください」
イザナミは静かに涙する。
獣人たちも同じくだ。
「ありがとう。皆の気持ちには心より感謝する。ならば頼む。1000年の呪いを解き、私に新しい希望を吹き込み、今またこの世界を救わんとしているナツ殿にその想いを託してくれまいか」
ウララ国王は立ち上がり声を上げた。
「ハッ! 我ら獣人族、イザナミ様の命に従い、命を賭してナツ殿にお使えします!」
獣人たちは全員が立ち上がり敬礼をする。
ちょっと大変なことになりました……。




