最下層
扉の奥にいたのはとてつもなく大きな黒い犬。
その目は燃えるような爛々とした赤だ。
神眼には「ヘルハウンド」と出た。
「ヘルハウンドだって」
「ほう」
「難攻不落のダンジョンのラスボスにはちと弱いな。まだ階層は続くのかもしれんな」
ウートのその言葉を理解したのか、ヘルハウンドは唸り声をあげた。
「ほう。ワシに挑むのか?」
「いいだろう。ここは弟子に譲ろう」
「ありがたいです、師匠」
「じゃあウート、任せるよ」
「がんばってね」
「いけー♪」
オレたちが後ろに引くとヘルハウンドはさらに舐められたと思ったのがさらに唸り声を強く発した。
「そんなもんだろ。お前からはなにも感じぬ。仲間の評価は正しいぞ」
怒り狂ったヘルハウンドはいきなり口から業火を放つ。
それをウートは「殴り返し」た。
「マジか。そんなことできるんだ」
「すごい」
「ふむ。良いな」
驚くヘルハウンド。
そこにスルッとまるで時間が止まったかのような動きでウートが滑り込む。
そのまま拳でラッシュをかける。
左、左、右フック、アッパー、最後に右ストレート。
ほぼ同じタイミングでラッシュを打ち込まれてヘルハウンドはそのまま消滅した。
「うむ。雑魚い!」
宝箱が出現し、部屋の奥に扉が浮かぶ。
「あれ、ここが最下層だったのか」
まず宝箱を開ける。
中にはなにやら青い透明の布が入っていた。
「水の羽衣だって。炎のダメージをゼロにしてくれるってさ」
「クリア報酬じゃ遅いだろ!」
「これは運営アカンやつ」
「まあボスがあんなもんだったしな」
「環境がキツかっただけか」
「魔王は?」
「おかしいな。予知の反応は何だったんだ?」
次にウートが奥の扉を開けようとした時に、オレの予知が強く反応した。
「待て! ウート!」
「ん?」
「何か変だ」
神眼を強く意識すると、扉に細工があることに気付く。
「みんな、オレの後ろに下がって」
素早く全員がその指示に従う。
壁際まで下がってバリアを前方に集中。
離れたまま、魔法で扉を解錠する。
「アンロック」
途端にまばゆい閃光が走る。
扉の奥から、また上下左右から激しい魔法が撃ち込まれた。
ご丁寧に属性違いの魔法だ。
しぱらく爆音が続き、ようやく衝撃も収まった。
「ククク。さすがのパケモノもこれで終わりだな」
姿を現したのは、魔王だ。
全身黒い服、頭には大きなツノが生えており、背中には大きな羽根がついている。
笑えるほどに「The魔王」である。
背後には4人の男が控えている。
なお、この時点でオレは一旦時間停止をかけており、全員に強い認識阻害を施しておいた。
オレがみんなに向けて唇に人差し指を立てると、全員が頷いた。
「跡形もなく消し飛んでしまったのか。……でもこれで大丈夫だ。この世界が崩壊しても向こうで魔王として生き残れる」
「魔王殿、仕方がなかったのです」
「ほかに生き残る方法はなかったんです」
「それにしても国王まで消えてしまうとは」
「本当だ。アレをどうするかが難問だったが同時解決してしまった」
この世界が崩壊?
融合じゃないのか?
それにこいつらは明らかに誰かに使われている立場だ。
その黒幕がなにか手を加えてるな。
「どうやら向こうの魔素も整ったようだ。そろそろ向こうに行くか」
「次の歪みは明後日、19時とのことです」
「時空変換はうまくいくのか?」
「そうだぞ。そのまま飛んでは一年ズレてしまう」
「どうなのだホワイト」
「お任せください。次の歪みにセットしておきます」
これはデカいな。
向こうに戻る時の時差を解消する手段をこいつらは持ってる。
ならここで捕らえるのはどうなんだ?
捕まえて尋問すれば吐くのか?
ここにいるのは魔王と四天王。
時空変換とやらを扱うのはホワイトと呼ばれた男だ。
「魔王殿、これからはどう動かれますか」
「とりあえずホームに戻ろう」
「「「「はっ」」」」
魔王と四天王がこの場を去ろうとしている。
ヒョウとウートがこちらを窺うがここはステイだ。
オレは片手を下にさげて待機を命じる。
転移だと追跡は困難だ。
頼むぞ。
魔王たちは羽根を伸ばして空へ舞った。
よし!
「いいのか!?」
「明らかに小物だ。泳がす。時空変換装置が欲しい」
「オレたちは認識阻害でこのまま空から追う。ヒョウは下から頼む」
「任せよ」
ランクル改を出して認識阻害を強くかける。
彼らよりさらに上空から追尾する。
ヒョウも認識阻害をかけて走って追尾だ。
オレたちを倒したと思い込んでいる魔王たちはさして周りに気を配ることもなく空を舞っている。
やがて彼らは大きな湖へと降りていった。
そして何かの呪文を唱えてそのまま水中へと潜っていった。
ランクルを地面に下ろすとヒョウが合流する。
「こんなところにアジトがあったのか」
「ウート、ここは?」
「かつての魔王との大戦争でできた爆心地だ。そのまま湖になった。まさか奴らの墓場とも言えるここに潜んでいたとはな」
「魔法で出来た大穴なのか」
「父が命と引き換えに唱えた爆裂魔法の跡だ。それが決め手となって魔王軍は撤退した」
湖はオレたちの世界でいうと皇居ほどの広さがある。
湖の中心がかなりの深度のようなので、すべてが爆心地の跡ということではなく周りは溜まった水が広がった感じなのだろう。
それにしてもかなりの大きさだ。
「追うか?」
「いや、アジトがわかったならそれでいい。ここを見張る」
「それで大丈夫か?」
「時空変換装置をセットしたら仕留める」
「わかった」
とりあえずは湖の周囲を一周するように拡張世界を張り巡らせる。
ここで思いついたことをテストしてみた。
それを逆に縮めるイメージをしてみたのだ。
結果は大成功。
実際は湖を囲んでいるのに、拠点は広い平屋程度に収めることができた。
「すごい♪」
「逆の発想だ。うまくいった」
「これで監視も楽になるね」
「ウートとヒョウはここまでだ。今日は奴らも浮かれたから魔力を探ることをしなかったけど二人の魔力はデカすぎる。オレたちみたいに能力カットができないからさ」
「確かにな。主と離れるのは意に反するがやむを得ん」
「ヒョウが我慢するのにオレがワガママは言えんな。わかった」
「拡張を繋ぐから一旦城に戻ってくれ。念のためこのことは一切外に出すな」
「カズは構わんよな」
「もちろんだ。でもそこまでだ」
魔王たちの動向を見張りつつ、作戦を考えよう。




