アラート
男子の二日目が始まった。
シードのオレたちは昨日の初日は試合はなかった。
予選のないオープン大会とあって出場高校は男女合わせて900校を軽く超える。
前回優勝校であるオレたちはもちろんシードで出場するがそれでも、8回勝たないと優勝はできない。
そもそも高校剣道は完全に九州勢が中心だった。
東京の高校が優勝することがそもそも異例でとんでもないこと。
ましてそれが三連覇を目指すなんてほんの数年前までは考えられないハプニングだ。
メディアとは別の意味で、剣道界もこれには驚き注目をしている。
あとはどのタイミングでアラートが鳴るのかだけだな。
試合中だけは勘弁してほしいところだ。
試合時間に合わせて練習用のスペースに移動する。
所狭しと剣道部員たちが竹刀を振りながらアップをするさまはこの競技を知らない人には驚かれる光景だ。
軽く身体を動かしてからアリーナに向かう。
一礼をして会場に入るとオレに気づいた観客からほんの少しざわめきが起こり、それが静かに広がっていく。
それはやがて大きな歓声へと変わっていく。
まあ、ぶっちゃけちょっと気持ちいいです。
アリーナには何面も試合会場が作られており、同時進行で試合が行われている。
オレの試合会場の周辺はすでに満席で立ち見もできないほどの混雑になっている。
観客全体がこちら側に寄ってきた感じだ。
オレは大将なのでおそらく今日は出番がない。
それでもひと目観ようとしてくれるのはありがたい限りだ。
初戦(2回戦)と3回戦を先鋒と次鋒で勝ち抜き、試合を決めた私はそのまま会場を後にする。
観客は少し残念がっているものの、さすがにそれも予想通りなのでそこまで変な空気にはならない。
(アラートはなかったな)
(お、袋の中に届いたぞ。ナツくん念話を完璧に覚えたね♪)
(コツは掴んだよ)
その時。
大きなアラートが鳴り響いた。
「きたっ!」
突然声を上げたことでチームメイトや周りの人が反応する。
すぐに時間停止をかけて自身に認識阻害をかけてから、ナビィを呼び出すために時間を再開した。
(ナビィ!)
(はいはーい。慌てずによく対応したよ♪)
ナビィが袋から飛び出してきたのと同時にマップを開くが、このエリアには反応がない。
(ここじゃない!)
(気が早いよー♪ モンモニは鳴ってない。アラートが鳴ったのならそれはきっとナツくんの【予知】だね♪)
今のは脳内アラートか。
慣れなきゃわかんないな。
そもそもモンモニのアラート音を知らないしな。
すると今度は腕時計からバイブレーション。
すぐに特殊なアラート音が鳴った。
(今度こそ来た! えーっと……ここから北西に2キロって表示されてる! あと1時間後だ!)
(一回現場を見に行こうか♪)
(了解だ)
再度時間停止。
モノクロの世界を駆け抜けてアリーナの外へ。
覚えたばかりの【飛行】で空に舞い上がり、時間を再始動する。
「これ気持ちいいんだよなー!」
「夢だったんだもんねー♪」
「男の子はみんなそうだろ」
練習で一番楽しかったのがこれだ。
すぐに自由自在に空を飛べるようになった。
高速飛行で出現予測のポイント上空へ。
そこは埋め立て地のハズレ、もろにオレたちの宿舎の敷地内だった。
「ここにモンスターが出るっていうのは本当に言葉そのままだったんだな」
宿舎から少し離れたグラウンドのあたりにモンスターが出るようだ。
現れるのは……ゾンビだった。
「やっぱりかよ」
「ほらね」
「数は……なんだよめちゃくちゃ多くね?」
マップには無数の赤い光点が点滅している。
「数もわかるはずだよ」
「えーと、あ、これかな?」
文字情報をスクロールすると数が表示された。
点滅数字は100だ。
「100だって。なんでピッタリなんだよ」
「不思議よねー♪」
「そんな数、どうやって一人でやるんだよ!」
「マッピング覚えたじゃない♪」
「そんなに一度に撃てるのか!?」
「魔法は?」
「……イメージ」
「ビビってたら撃てるもんも撃てないよー♪」
とりあえずまだ時間はあるな。
一度アリーナに戻ってうまく抜け出すか。
会場に戻り、元の場所へ。
時間を止めようとしたらナビィがストップをかけた。
「時間どれくらい止められるか調べておこうか♪」
「なるほど。でも魔力大丈夫なのかな」
「ナツくんの魔力無限大だから」
「あーね」
それからしばらく放置してみたが一向に時間が動き出す気配はない。
時間が止まっているので調べようがないけれど、戻ってから体感1時間近くは過ぎたように感じる。
時間を再始動してナビィを呼ぶ。
「なあ、これ全然大丈夫そうなんだけど。一時間とか余裕だぞ」
「エグいわー。普通は数分とかだよ♪」
「こんだけ止められるならいろいろ使えそうだな」
「体調にもよるし、強い相手には時間停止が効かないやつもいるわよ♪」
「え! そうなの?」
「といってもナツくんより強いモンスターなんて居ないと思うけど♪」
なんだよそれ。
でもまあロールプレイングゲームでも「逃げる」が効かないモンスターいるもんな。
弱いモンスターすぎて戦う時間を惜しんだら逃げるの失敗するのはあるあるだわ。
とりあえずは安心材料程度に考えておこう。
とりあえずは試合後のミーティングへ。
想定通りの展開だったので怒られることもなくすぐにミーティングは終了となった。
このあとは強豪校の試合観戦まではフリータイムとなる。
「ナツー。どうする? 今のうちにメシでも行っとくか?」
「あー、悪い。ちょっと知り合いと会ってくるわ(ゾンビだけどな)」
篠田たちからの誘いをうまく断り、会場を出ようとしたらアキに捕まった。
「ナツ先輩! 一緒にごはん行きましょうよ!」
「ごめん、ちょっと人に会う用事があるんだわ」
「なんだ。じゃああとで一緒に試合観ましょうね」
「オレたちが一緒だと目立つぞ。また変な噂にされても困るだろ」
「全然。チームメイトが一緒にいて何がダメなんですか」
「まあそうだけど。じゃ戻ったら合流するよ。見つけられたらな」
「はい! いってらっしゃい!」
アキに見送られながら我ながらちょっとおかしくなって笑ってしまった。
「なに笑ってんのよ♪」
「いやまさかオレがゾンビと待ち合わせとは思わないだろうなって」
「確かに。ウケるわ♪」
認識阻害を今度は強めにかけ直し、ロッカールームへ。
誰もいないのを見計らって、覚えたての【転移】で歪みの起きるポイントへ飛ぶ。
「よし、大丈夫だな」
アリーナでもこまめに試していたのだが、認識阻害を強めにかけるとまず存在がバレないことがわかった。
あんまりお行儀のよくない追っかけのファンやルールを守らない記者さんたち相手に使ってみたら面白いほどにみんながオレを見失った。
露骨に消えるのではなく、なんとなく見失うのだ。
これはかなり使える。
写真や動画には映るようなのだが、見られてはいけないシーン……飛んでいたり収納からモノを出しているところを写されなければ問題ない。
ゆえに転移には認識阻害(強)が基本スタイルになりそうだ。
「さて。あと15分か」
マップの光点は相変わらず歪みの中心から放射状に広がって点滅をしている。
ざっと100メートルくらいか。
どうにか一度のマッピングでイケそうだな。
さあ、いよいよか。
やるしかねえ!




