大会へ
なにやらとんでもない剣が出来てしまった。
「聖剣作るってめちゃくちゃだよ!」
「いやこれ元はただの木刀なんだけど」
「世界最強の剣に名前入ってるし」
「魔法はイメージだって言ったじゃん」
「才能ヤバいわよ♪」
「あ」
「なに?」
「クリエイト取れたぞ」
「嘘でしょ。なに一晩で伝説の魔法ゲットしてんのよ」
クリエイトは多分最後まで取れないだろうなと思っていたスキルだ。
素材なしに無から想像したものを創造できる。
その対象は魔法にも当てはまるらしい。
だったら。
なんかほかのスキルも取れそうな気がしてきたぞ。
残っているのは【転移/転送】【コピー】【タイムリープ】【譲渡】【支援】【飛行】だ。
転移転送はネコ型ロボットっぽく「どこでも転移〜」と唱えたら出来た。
その調子で未来の秘密道具をイメージしたら全部取れた。
「なに半日でコンプリートしちゃってんの!」
「ラッキーだな」
「あー。豪運待ってたねー♪」
伝説の前任者を超える記録らしい。
まあ剣道って集中力ハンパないしな。
心を研ぎ澄ませるのは得意だぜ。
「まあ武器はこれで大丈夫だな。アイテムボックスに入れておけばいつでも取り出せるんだろ」
「そうだよー♪」
さて。
あとはいつモンモニが起動するかだな。
「試合出ても大丈夫かなあ」
「まあ時間停止もあるしなんとかなるんじゃないの」
「あーね。確かに」
とりま朝メシだな。
やべ。そろそろ集合時間だ。
道着をコインランドリーに放り込んで食堂へ急ぐ。
危ねえ、遅刻ギリギリだ。
ウチは遅刻すると跳躍素振り1000本だからな。
「集まったな。ナツ!」
「はい!」
監督に呼ばれて立ち上がり朝会を仕切る。
「おはようございます!」
「「「おはようございます!」」」
「女子のみんな、改めて君たちの勇気には力をもらった。優勝校を一番追い詰めたのは間違いなく君たちだ。誰が試合に出たとか誰が勝ったとかはそれはそれ。君たちが作り上げたチームがいい試合をしたという事実を誇りに思ってほしい」
「「「はいっ!」」」
女子が嬉しそうに声をあげる。
「さあ今日はオレたちの初戦だ。ひとつだけ伝えておく。………常に冷静に。これが全てだ。何が起きてもこの言葉をまず復唱しろ。そしてオレたちは最強の剣道家であることを自覚しろ。女子に分けてもらった勇気を見せよう。三連覇を賭けた挑戦を楽しむぞ!」
「「「はいっ!」」」
「それでは! いただきます!」
「「「いただきます!!」」」
みんなは試合展開のことを思い浮かべてこの話を聞いたのだろう。
願わくばせめて試合が終わったあとに歪みが起きますように。
さらにはこの騒動を表に出すことなく収拾したいと願う。
その後はみんなで賑やかな朝食を楽しむのだった。
―――――――
マイクロバスに乗って会場入りをする。
そこに待ち構えているマスコミを見て部員たちが騒ぐ。
「うわ、ナツ、すげーな。マスコミめちゃくちゃいるぞ」
こいつは剣道部の親友、篠田。
副将を務めるウチのナンバー2だ。
派手なオレに隠れてはいるが、間違いなく全国トップクラスの実力者だ。
インターハイの後の国体にはオレと一緒に篠田も選出されている。
ただ剣道が強いだけのオレをいつもサポートしてくれていたのが篠田だ。
人をまとめるのはまた別の才能で、シノがいなければこのチームはここまでまとまらなかった。
「ありがたいことだよ」
「なんせ久しぶりに現れた剣道界のスーパースターだからな」
監督があとに続いた。
「全剣連からもナツには積極的なPRを頼まれてる。試合前だが動じるお前じゃないだろ。ここは剣道界のためにしっかり盛り上げてくれ」
「はい!」
まあ実際、世界剣道にも招聘されることが内定している最強の高校生って触れ込みだからな。
1年目から大将を任され、無敗。
勝ち抜き戦であるこの大会ではオレが負けさえしなければそれはつまり優勝ってことになる。
決勝では4人抜きされたあとの5人抜きで一年生がチームを優勝に導いた。
どこかのメディアがそこに187センチの高身長と整った容姿を褒めちぎってくれたおかげでオレはまたたく間に話題の人になった。
そこからはやれCMだの芸能界入りだの色んな話が舞い込んだのだがそこにはまるで興味がなかったのですべてをお断りしてきた。
全剣連から頼まれたポスターのモデルなんかは仕方なく引き受けたけど、そこがまた希少価値を生んでしまったようで、大会になると公式取材ができるということでこのようにメディアが注目してくれるのだ。
なお、全くなびかないオレに変わって目をつけられたのが一ノ瀬アキだったりする。
そこらのタレントにも負けない容姿を持ち合わせ、それでいて剣道も強い。
こちらもすぐにメディアの目にとまってすぐにスターになってしまった。
本人はオレと同じくそっちの方には全く興味が無かったようで、芸能界入り含めて浮いた話はすべてお断りしたそうだ。
剣道界はほかの競技よりも敷居が高い。
噂ではオリンピック競技じゃないのも、「なれない」のではなく「なろうとしてない」からだという。
別に人気がないからとか海外の競技人口が少ないわけでもない。
単に「勝ち負けが全てではない」という特異な競技体質による。
「生涯をかけて鍛錬する」という言葉に嘘偽りはなくその変わらないスタンスが今の状況に繋がっているのだ。
そんな中でも、来年は12年ぶりに東京で「世界剣道選手権大会」が開催されるとあって剣道界でも「もっと剣道をPRすべきだ」という意見が目立ってきた。
競技人口は柔道よりも圧倒的に多いのにいわば自らの意思でその門を閉じていたのが、ここにきて少し風向きが変わってきたのは事実のようだ。
オレとしても剣道が注目されるのは嬉しいので極端に無下にするわけでもない。
きちんと手順を踏んで連盟の許可を得た取材には笑顔で応える。
というわけで、バスを降りたらあっという間に囲み会見のような状況になってしまった。
長年にわたりこの大会をスポンサードしてきたのが新聞社であることもあって、ほかの公式戦よりはこの王龍旗は少し敷居が下がる。
ほかの大会では試合前に囲みなんて絶対にあり得ないがそこはこの大会ならでは。
オープン参加が可能で最も派手な大会だからであろう。
剣道における甲子園と呼ばれるだけのことはある。
新聞社の仕切りで私と一ノ瀬アキが記者の前に立つ。
ひとことだけでいいので抱負を語ってほしいというのが事前に聞いていたオーダーだった。
「まずは江之島ナツ選手。いよいよ三連覇のかかった大会です。ここまで中学高校と個人戦では無敗という驚異的な成績を残されていますが、今日の意気込みを聞かせてください」
「はい。チームのみんなとの絆があってこそです。ひとつずつ丁寧に鍛錬の成果を出していけばその先に優勝が見えてくると思ってます。頑張ります」
「期待してます!」
「ありがとうございます」
おー、ちゃんとひとことで済ませてくれた。
こういうところは剣道をよく知ってる新聞社ならではだな。
「続けて一ノ瀬アキ選手。今回は惜しくもベスト8でしたが、優勝校をあそこまで追い詰めたのは見事でした。試合の感想と今日の江之島ナツ選手へのエールをお願いします」
「はい。応援ありがとうございました。江之島先輩からも今回の結果は誇りに思っていいと褒めていただけたので私としては満足しています。江之島先輩は私の憧れの選手です。きっと素晴らしい試合を見せてもらえると信じてます」
おっと。ちょっとサービスしすぎだろ。
憧れの選手ってのは切り取られそうだな。
一気にヒートアップしたほかのメディアが口々に質問を投げ込んできたが、連盟がうまく逃してくれた。
「アキ、言い過ぎだろ」
「えー。ひとつも嘘なんてついてませんよ」
「いやそういうことじゃなくてな」
「応援してます! いつも! ずーっと!」
ちょっと嬉しいぞ。
聞かれてたら大変だけどな。
後を確認しながらアキにはバレないようにニヤけてしまうのだった。




