アキ
屋上にやってきたのは一ノ瀬アキだった。
それなりの強豪校であるにも関わらず、一年生にして団体戦の5人に選ばれるほどの実力者だ。
人懐っこい性格でオレのことを慕ってくれていることもあり、目をかけている後輩だ。
なによりとんでもなくかわいいってのもある。
……いや。本当はそこです。
めちゃくちゃかわいいんだよ!
ぶっちゃけ、大好きだ。
剣道やっててよかったとアキを見るたび思ってます。
「ナツ先輩!! おはようございます!!」
「お、おう、アキ、おはよう」
「ナツ先輩いつもにまして早いですね! もう素振り終わっちゃったんですか?」
「なんか早起きしちゃってな」
「なんだー。一緒に朝練したくて早起きしたのに!」
ぐ。
さらっと勘違いしそうな事を言う。
自覚なしだから手に負えない。
そうやってキミは世の中の男子を沼にはめてるんだぞ。
アキは自由奔放で思ったことはそのまま口にする。
その異次元のかわいさは他校にも知れ渡っておりファンクラブもあると聞いたことがある。
他校を巻き込むほどの男子からのモテっぷりをベースに、その奔放すぎる性格で女子からのウケはすこぶる悪かった。
で、部外の先輩女子からイジメの対象にされていたのだった。
ある時、アキへの露骨なイジメを目にしたことがあり、その場でオレがブチギレたことがある。
その後、アキへのイジメはなくなった。
一見、本人は全く気にしていないようだったが、実際はそんなはずもなく。
部活終わりに御礼を言いに来たのだが、帰り道に話すうちに大号泣してしまうことがあった。
本当の胸の内を吐露したのはおそらくあれが初めてだったのだろう。
その日以来、アキは全力でオレを慕うようになった。
オレもそれをきっかけに、単なるかわいすぎる後輩から、大切で特別な大好きな後輩になったのを覚えている。
ゆえにこのポジションは失いたくない。
勘違いでその気になってはいけなんだ。
「女子の試合が終わったばかりなのに熱心だな」
「優勝が目標だったのに負けちゃいましたからね」
「アキは負けてないだろ」
「引き分けは負けに等しいですよ」
「結果的に優勝したチーム相手に3人も抜いといて何言ってんだよ」
女子は男子に先行した日程で試合が行われる。
ウチの女子はベスト8止まりだった。
先鋒を任されたアキは5人抜きを2回もする活躍を見せて、優秀選手賞をもらっていた。
「えー、朝練もう一回やりましょうよ!」
「試合当日だぞ。2回も朝練やんないよ」
「むう。なら練習見てほしいです」
ぐぐぐ。
むうってなんだよ!
異世界転移もゾンビ問題も吹き飛ぶかわいさだな。
もちろんOKである。
「……ちょっとだけならな」
「うわーい、ありがとう!」
そう言ってアキは嬉しそうにオレの道着の裾をつまんで嬉しそうにブンブン振っている。
あかん、ブンブンされてる。
かわいすぎてあかん。
異世界転移が起きる日にオレはなにときめいちゃってんだよ。
―――――――
朝陽に照らされながらポニーテールを揺らして素振りをするアキの姿を見つめる。
かわいさを通り越してもはや神々しい。
(ねえねえ、すっごい美人だねぇ♪)
ナビィの声! これが念話か。
なんかイメージ理解できたな。
(ナビィ、念話ってこれで大丈夫?)
(出来てる出来てる♪)
(よっしゃ!)
(でさ、アキちゃんはナツくんの彼女なの?)
(違うよ。そんなんじゃない)
(そうなのー? 絶対そうだと思ったけどな♪)
その後もアキに見惚れ……いや、練習を見守る。
「ナツ先輩! どうですか?」
「うん。悪くないんじゃないか」
「アドバイスください!」
「んー。あえていうなら……始動するときに手元がブレるクセが直ってない。あとは肩甲骨の動きを意識しながら振ればもっと剣先が走るぞ」
「! ありがとうございます!」
アキは感覚を確かめるようにしばらく素振りを繰り返している。
お、良くなったか。
「なんか分かった気がします! なるほど! こういうことか!」
「飲み込みが早いな。さすがだ」
「ナツ先輩の教え方がいいからです!」
「それはそうだな!」
「あははは」
いやいや、なに青春してんだよ。
今日は異世界転移あるから!
このあとゾンビくるから!
「さ、オレはもう引き上げるからな」
「ありがとうございました!……あと東京に帰ったら約束ですよ」
「ん?」
「頑張ったらご褒美をくれる約束でした」
恥ずかしそうにそう言ってオレを見上げてくる。
ド真ん中を撃ち抜かれる。
「んあ、ああ」
なんか変な声でたぞ。
「練習休みなんてめったにないし。……こはんに連れていってほしいです」
「……わかったよ」
「本当に? やった! 約束ですからね!」
アキは顔を真っ赤にして走って階段を駆け下りていった。
「ねえ、やっぱりあの子ナツくんのこと大好きじゃん♪」
「いや違うだろ。なんかこう身近な……兄弟みたいな感じなんだろ」
「いやいや間違いなさすぎ♪」
「あの子は尋常じゃなくモテるんだよ」
「だからなによ。ナツくんもモテるでしょ♪ かっこいいし背は高いし剣道も強いんでしょ♪」
まあモテなくはない。
てかめちゃくちゃモテるけど。
「でもアキは別格なんだよ。オレなんかに本気になるような子じゃないよ。たまたまイジメから守ったから感謝してるだけだ」
「どんだけ自信ないのよ♪ 神眼で見てみなよ♪」
「え、そんな使い方できんの??」
「真偽なんて秒で見分けるよー♪」
「なんですと!……いやいやそれはダメだろ! この話は終わり。ちょっと落ち着きたいから部屋に戻るぞ」
神眼は気になるけれど、アキの本当の気持ちなんて知ったら……落ち込むに決まってる。
気持ちを切り替えてゾンビ対策だ。
―――――――
部屋に帰るとまずはシャワーで汗を流す。
さっぱりしたあとは武器の調整だ。
素振り用の重たい木刀を取り出して眺める。
「こういうときは【クリエイト】とかなんだろうけどまだ解放できてないからな」
「クリエイトは伝説のスキルだからねー♪」
「そうなんだ」
「神界でも使いこなしてる人はいないよ♪ 前任者で数人だけかな」
「よし、いつか解放してやる」
さて。
魔法はイメージ。
この木刀を硬く固く堅く。
ひたすら硬化して絶対に折れないようにする。
全力で叩いても跳ね返されることなく。
全力で叩いても折れることなく。
この世で最も強い武器とする。
「うん。なんか掴んだ気がするな」
さらに願う。
木刀でもありながら、こちらの意思によっては真剣のようにすべてを斬ることもできるような両面を持ち合わせる。
剣道家であるオレ……いや剣神のスキルを持ってるオレに相応しい剣となれ。
目の前の木刀がうっすら光を帯びた。
やがてその光は収束していく。
「出来た」
赤茶色かった木刀は漆黒の黒刀になっていた。
「ちょ、ちょっと!」
「ん?」
「ナツくんそれヤバいよ! 神眼でみてごらん」
「神眼なんてまだ使えないよ」
そういいながら心の中で神眼と唱えながら木刀を見つめると……。
【ナツノツルギ】
聖剣。決して折れることなく、この世に斬れぬものはない。意思に準じて斬る、叩くは自在。世界最強の剣。
なんかすごいの出来た。




