練習
その後もスキルのテストと魔力トレーニングを続けた。
能力解放をしなければ暴発も防げることに気づいたので、攻撃魔法の練習も解禁。
威力を抑えた初歩的な攻撃魔法はひと通り使いこなせるようになった。
あとは慣れに合わせたタイミングで、能力解放をほんの少しすつ上げて慣らしていけばなんとかなりそうだ。
「飲み込み早ーい♪ っていうか前の人にも能力制限させたら良かったんじゃん!」
「盲点だったな」
「盲点すぎだよ♪ あんなに苦労したのに♪」
ま、能力解放をカットしようとはなかなか思わないよな。
「悪いことしたなー。今度謝ろうっと♪」
「前の人って違う世界線なんだろ? 会えるのか?」
「ナビィはアイテムボックス間なら移動できるんだ♪」
「え、すごくね?」
「異世界移動は自分だけじゃ無理だけどね。それと神界経由以外で世界を跨ぐとしばらくフリーズしちゃうんだ♪」
ちょっと待て。
「情報量がすごいぞ。異世界移動の仕方も気になるけどさ、それよりなに神界って」
「神様がいるんだから神界だってあるわよ♪」
「いやまあそう言われればそうだけどさ」
「異世界転移装置を作っちゃった人もいるからね。いつかもらってあげるよー♪」
「マジで!? そりゃ楽しみだ!」
よくよく聞けばその世界も、似たような異世界接続のトラブルで世界崩壊の危機に陥ったそうだ。
オレと同じく神様に選ばれた救世主が苦心してどうにか危機を脱したらしい。
そんな話を聞きながらトレーニングしていたらいつの間にか夜明けが近くなっていた。
「マズイな。大会当日に徹夜か」
「大丈夫でしょ。前任者たちは寝なくても平気だって言ってたわよ♪」
「……確かに。全く眠くないってか全然疲れてないぞ」
「半神だからねー♪」
便利といえば便利だけど、なんか微妙。
突然想像を超えたこの展開だもんな。
色んなものをむりやり飲み込んでる感じだ。
どこか麻痺してんのかな。
さて、そろそろ切り上げるか。
身支度を整えなからふと大事なことを聞いてないことを思い出した。
「そういやモンスターって何が出てくるんだろうな」
「たぶんゾンビだよ♪」
「は? なんて言った?」
「ゾンビ♪」
「嘘でしょ。なに明るく言ってんだよ。ゾンビ!? 無理無理!」
「なにビビってんのー♪」
「この世界でゾンビはかなりヤバい扱いなんだよ」
「向こうじゃ全然だよ♪」
「……まさか走らないよな?」
「走るのもいるよー♪」
「絶対無理!」
偶発的な接続事故においてはその限りではないが、今回のような世界融合レベルの接続初期に向こうから来るのは高確率でゾンビだそうだ。
過去の異世界遭遇の時もしばらくはゾンビが続いたそうで、ナビィが知る限りは初戦はゾンビ確定だとのこと。
「なんか魔素が関係あるみたいだよー♪」
「なんだよそれ」
ゾンビは魔素を振りまく性質があるとか。
モンスターの活動には魔素が必要なので、まず大量のゾンビが送り込まれてこの世界の魔素を増やす役目があるらしい。
「魔素なんて振りまかれて大丈夫なのか?」
「この世界にもほんの少しはあるものだからね。人体にはなんの影響もないってー♪」
「魔素あんのかよ!」
「向こうとは濃さが違うだけ。むしろ身体にはいいらしいよー♪ こっちでも魔法使える人が増えるんだよ♪」
「いやだから情報量多いんだよ。魔素が身体にいいとか魔法使えるとか!」
「そうなんだもん♪」
「とにかくあんなの保護すんの嫌だよ」
「ゾンビは保護対象じゃなかったよー♪」
「そうなの?」
「前任者たちは知性の有無と人間への攻撃性で判断してたよ♪」
だよな。
初戦は駆除確定か。
「あんなのチョロいよねー♪」
「おいおい。噛まれたらゾンビになるんだぞ?」
「ナツくんに触れるモンスターなんていないって♪ てかナツくんなら噛まれまくってもゾンビ化なんてしないし♪」
「だとしてもさ。巻き込まれた人がゾンビになっちゃうだろ」
「初期段階ならホーリーで治せるわ♪」
「おいそれ大事だろ! そんなの練習してねえぞ」
日の出までに慌ててホーリーの練習をしたのだった。
「ナビィ肝心なところ抜けてんな」
「ちょっと忘れてただけ♪」
「まだなんかいい忘れてないか?」
「ないよー♪ ………たぶんだけど」
「………」
「思い出したらちゃんと言うよ♪」
「怪しいな」
完全に世が明けてしまったので一度部屋に戻ることにした。
身体は不眠不休に耐えられるとしても心は別だ。
ちょっといろんなことが起きすぎて一旦落ち着きたい。
屋上の扉を開けたら下から階段を上がってくる足音がした。
げ、誰か来るな。
いや、まあオレが必ず朝練すんのはみんな周知だ。
ちょっと早いくらいだろ。
ほどなく姿を現したのは、女子剣道部の一年生、一ノ瀬アキだった。




