異世界
辺りの景色がモノクロに変わる。
残響が止むと静かな声が聞こえた。
「やあナツ」
「神様! これは?」
「異世界に飛ばされたんだ」
やはりそうか。
最悪の予想が当たったな。
「これは私にも想定外でね。急いで会いに来た」
「アキは? ヒョウも! ナビィも出てこないんだ」
「二人もここに来ているよ。但し全く別の場所だ」
「どこですか! 無事なんですか!?」
「ヒョウはもともとここの神獣だ。心配はいらない。アキはここから遠く離れたところに飛ばされたがこのあと強制転移で呼び出せば大丈夫だ」
「魔法は使えるんですね」
「もちろん。ここでもナツは無敵だよ」
「よかった」
ナビィは意図しない強制次元転移のフリーズってやつか。
確か時間が立てば再起動できるって言ってたよな。
「その通りだ。急だったので時間がない。ポイントだけ伝える」
「はい」
「まず一番大事な向こうに帰る方法だ。歪みに飛び込んでもいいが、時間の流れが少し違うからそれだとナツ世界のXデーが終わっている」
「えええ!」
「なので違う方法を探せ。ナツのクリエイトなら見つけられるはずだ」
「そんな!」
「あと一つ。時間が再始動したらすぐにマップを出すように。これは魔王のトラップだ。外にはとんでもない数のモンスターが放たれている」
「! アキたちは!?」
「狙いはナツだ。アキは普通にハグレただけだよ」
「よかった」
「すまないが時間だ。急なことで準備も整わず、タブーもいくつか犯してしまった。Xデーに会うつもりだったのだがどうなるかわからない。ナツなら大丈夫だ。魔王のあとにはヒョウを呪った存在との対決もある。この世界を頼ん―――」
そこで世界が戻る。
めちゃくちゃ大事なところでタイムアップか。
でもこれで成すべきことは見えた。
「おっとマップだよな」
すぐさまマップを広げて、絶句した。
辺り一面が赤点で埋め尽くされている。
その数は、100 万。
「魔王、やってくれるじゃねえか」
ここにアキは呼べない。
不安だろうが少し我慢してくれ。
その怒りはこいつらにぶつけるよ。
まずはマッピングから一斉選択。
周囲のモンスターを殲滅する。
そして収納から剣を取り出す。
左手に持つ剣には炎を纏わせて、右手には魔力を漲らせる。
遠慮はいらない。
能力解放は5%にセット。
さて。殺ろうか!
――――――――
その頃。
氷狼のヒョウは平原にいた。
突如転移してきたヒョウを、この地を支配していたモンスターたちが襲ってきたがそのすべてを瞬殺した。
今はこの平原一帯がヒョウの支配下に収まっていた。
「主と逸れるとはなんたる不覚。なんとしても主の元へ辿り着かねばならぬ」
無闇矢鱈に動いても無駄。
ヒョウはひたすら感覚を研ぎ澄まし、主の魔力を探ることに集中していた。
そこにとてつもない魔力の奔流が巻き起こる。
遥か彼方から感じるその爆発的な魔力は間違いなく主のものだ。
ヒョウはすぐにその方向へ向かって駆け出すのだった。
――――――――
そして同じ頃。
アキはまた別の平原に飛ばされていた。
「何が起きたの!?」
辺りを見渡してもナツくんもヒョウもいない。
察するにここは異世界。
きっと私たちは別々に転移させられたんだ。
(どうしたら!?)
(どうにかしてナツくんと合流しないと)
(歪みは一方通行のはず)
(なのに飛ばされたってことは……)
(明らかにナツくんを狙った魔王の罠だ!)
見渡す限り何もない草原だ。
マップを広げてみるが反応はモンスターを示す赤点がまばらにあるだけ。
気持ちは焦るばかり。
アキはナツを想う。
「落ち着け。常に冷静に」
ナツくんの言葉を思い出す。
深呼吸を一つ。
「そこまでヤバいヤツもいなそう。でも一応帯剣しておいた方がいいよね」
収納からナツに仕立ててもらった剣を出す。
少し気持ちが落ち着いた。
ナツくんの作った剣だからだというのと同時に、やはり根っからの剣士なのだと思う。
「私はナツくんを信じてる。きっと強制転移で呼んでくれるはずだ」
それまでここで彼を待つ。
遠くからモンスターの赤点が近づいているようだがこんなものは怖くもない。
一番怖いのはこのままナツくんと会えないことだ。
負けてなるものか。
――――――――
10万程のモンスターを倒したようだ。
出し惜しみはなし。
ひたすらに剣を振るい、魔法を放つ。
円を描くように走り抜けて敵を葬り去っていく。
「多いな! 終わらねえ!」
魔法を使わず剣で倒すだけなら能力解放しても問題ないよな。
その方が早いかもしれない。
よし、魔力解放30%くらいで肉弾戦にしてみるか!
「魔力解放30%!!」
同時にとてつもない魔力が周囲に放出される。
その途端、マップに残っていた90万ほどのモンスターの反応が消失した。
オレの殺意を込めた魔力解放で全員その場で絶命したのだった。
「マジか……」
魔法使わなくてよかったな。
間違いなくこの世界を吹き飛ばしていた。
とにかくまずはアキだ。
居場所がわからないがきっと呼べる。
魔法はイメージだ。
――目を閉じてアキを想う。
「来い! アキ!」
目を開けるとそこにはアキ。
アキもオレを見て涙が溢れそうになっている。
二人は抱き合い、お互いの無事を喜びあうのだった。




