触れ合う
そこにハイオーガが一人こちらに歩いてきた。
あれは何度か接触をしたことのあるやつだな。
一人だけ物怖じせずいつも近くまで来る個体だ。
オーガ独特のツノが他のやつより一回り大きいからきっとリーダーなのだと思うんだが。
今日は特に様子が違うな。
手には武器を持っていない。
オレはハイオーガに向かって両手を挙げて敵意のないことを示してみる。
向こうも両手を挙げてきた。
コミュニケーションが取れている。
これは……チャンスか?
オレはみんなに「そのまま」というハンドサインを送って、一人笑顔でハイオーガの方へと歩いていく。
すぐそばまで来た。
「やあ、とうしたんだ?」
「………」
「まだ言葉は話せないんだな。オレはナツだ。ナツ。わかるか? ナツ」
自分を指差してナツ、と何度が伝えてみた。
「………ナツ」
「すごいじゃないか!」
「………ナツスゴ」
「いやオレじゃなくて……名前は? オレ、ナツ。お前は?」
自分を指してナツ、を繰り返してからハイオーガを指差す。
ハイオーガは首を振る。
「名前がないのか。それは不便だな」
オレはハイオーガを手招きしてまず自分から地面に座った。
手招きをするとハイオーガも向かいに座ってくれた。
肉じゃなくていいんだよな。
とりあえずお菓子かね。
収納から例の京都のまんじゅうを出す。
一口食べてから残りをハイオーガに渡す。
(どうだ? 受け取ってくれるか)
ハイオーガは少し躊躇しながらも手を出してくれた。
まんじゅうを受け取ったハイオーガは少しそれを眺めたあと、パクリと食べてくれた!
「どうだ? 美味いだろ!」
ハイオーガは驚いた表情をしたままフリーズしている。
でも口のモグモグは止まらない。
これは来た!
もう一つ出してみるとハイオーガの目はそれに釘付けだ。
差し出すとすぐに受け取りそのまま食べる。
もう一つ。食べる。
もう一つ。食べる。
オレは何も持ってない手を差し出す。
ハイオーガは戸惑いながらその手を掴んでくれた。
握手した手をブンブン振りながらオレはハイオーガを抱きしめた。
ハイオーガは抵抗せずそのままだ。
ハイオーガの肩を抱いて振り返ると、イザナミさん、アキ、ヒョウ、ナビィがフリーズしていた。
そりゃそうだよ。
オレも驚いてる。
―――――――
ハイオーガとはその後もお菓子を食べながら会話をしてみた。
途中からはアキ、イザナミさん、ナビィも隣に座って一緒に過ごしてみたが何の問題もなかった。
まだ言葉は真似しかできないが、名前の意味はわかったようだ。
アキ、イザ、ナミーと多少の間違いはありつつ、呼び分けができている。
何か話してくれれば【神眼】や【語学】で何とかなりそうなものなんだが。
ここまで仲良くなったのだからやっぱり名前は欲しいよな。
このくらいではいきなり絆とはならないだろう。
「よし、あだ名をつけてやろう。名付けじゃないからな!」
何がいいかな。
ハイオーガだろ。
おがっちは……アキに怒られるな。
なら……ハイガだな。
「オレはハイガと呼ぶからな」
ハイガを指差して、「ハイガ」「ハイガ」と繰り返す。
するとハイガは自分を指差して嬉しそうに「ハイガ」と応えてくれた。
途端に白い光がオレたちを包み込む。
呆気なく絆が結ばれてしまった。
「マジで?」
「き、絆!? 初めて見ました」
「あー、やっぱりなあ」
「主、さすがである」
「なんで? 早くない? なんかこう物語が足りないだろ!」
「絆はお互いの気持ちだから♪」
結ばれてしまったものは仕方ない。
ハイオーガと仲間たちで楽しく過ごすのだった。
ひとしきり話すとハイオーガは立ち上がった。
仲間を指差してそちらに歩き出した。
途中振り返ったので手を挙げたら、彼も手を挙げてくれた。
これは偉大な一歩だぜ。
モンスターは友だちになれるんだ!
ハイオーガで時間を使ったので、さらに離れたところにいるミノタウロスとサイクロプスは次回の視察にした。
「驚きました。向こうではあり得ないことですよ」
「たまたまなのかもしれないからいきなり同じ生活圏内ってのはまあナシだろうな」
「でしょうね」
魔狼は特殊例だとして、ほかのモンスターは群れ単位で大人しくしているのだから果樹園が効いてるのはおそらく間違いない。
いや、魔素の薄さが活性化を防いでいる可能性もあるか。
どちらにしても今のところはエリアを区切っての棲み分け前提っていうのは変更なしだな。
イザナミさんとの視察結果は家町総理たちにも伝えて、新天地の拡充はこのままの方向性で進めていくことにした。
稽古、歪み、新天地のサイクルだな。
頑張りましょう。
―――――――――
ついにゾンビが現れなくなった。
瞬殺してきたとはいえいよいよ魔素が十分に拡散したということだ。
そしてXデーまで残り10日となった。
数日前から今日の歪みに特殊な兆候が
出ていたのだが、どうも要領を得ない。
「強いやつが来る時の測定不能とも違うんだよね♪」
「何が来るんだろう」
「異世界人?」
「それなら反応が出るのよね♪」
「なにか特殊なモンスターってところだよな。いずれにせよオレが単騎で行くよ」
「私は付いていくからね」
「無論、我も離れん」
「まあ他はレギュラーだし仕方ないよな。アキとヒョウと出るよ」
歪みの場所は富士山頂。
真冬の富士山なんてまともな気温じゃないのて全員完全防寒スタイルだ。
「ヒョウ。お前よく平気だな」
「我は氷狼だぞ?」
「そうだった」
「ナツくん、体温調整の魔法作って」
「ずっとクリエイトしようとしてたんだけど、なんか暖房とかクーラーとかしかイメージが湧かないんだよ」
残り時間は30分もある。
少し暖まっておこうと、平坦な場所を探してコンテナハウスを出すことにした。
ここは常夏モードにしてあるので快適そのもの。
やっとまともな呼吸もできる。
さっきまでは寒すぎた!
「体温調整はあると便利だから欲しいんだけどね」
「どんなイメージだろうね」
「こだわりが強すぎー♪ 変なところで引っかかるんだよねえ♪」
「そうなんだよ。イメージさえできたら何でもできるのにな」
いつでも一定温度に保てるものってなんだ?
エアコン、カイロ、ハンディファン、恒温変温……あれこれ考えてもどうもしっくりこないのだ。
「バリアを加工するとか?」
「あー! それ!」
身体ひとつでなんとかしようとするからダメなんだ。
コンテナハウスだろうが、広い豪邸だろうが常夏にできるんだから、それを思いっきり狭くすればいいんだ。
薄い膜のようなバリアで覆う感じ。
その中が常夏………。
「出来た!……エアコンバリア!」
オレとアキをそれぞれ無色のバリアが覆う。
「わあ、常夏!」
「これで外に出られるな」
「主、我にも」
「ヒョウ大丈夫なんだろ」
「大丈夫なだけで我にも暑い寒いはあるぞ」
「まあそうか。エアコンバリア」
「おお、これはいい!」
3人で外に出てみたが全く問題なし!
出しておいたコンテナも収納しておく。
お、ちょうどもうすぐ時間だな。
「二人は少し離れたところに。オレは空で構えておく」
「りょーかい! 気をつけてね!」
「承知した」
三人が配置につく。
そして時間が来た。
いつものように空間が歪む。
白いモヤが出てくる……と思ったその時、突然眩しい光が辺りを覆った。
「っ!?」
思わず目を閉じ、次に目を開けて驚く。
―――そこは鬱蒼としたジャングルだった。
慌てて辺りを見渡すがそこにはアキもヒョウもいない。
「ナビィ!」
反応がない。
これはどういうことだ?
まさかとは思うがここはもしかして。
それにこの気配。
ちょっとヤバくないか?
カラーーーーーーーン
そこに突如、あの鐘の音が鳴り響く。
これは……神様!?




