達人
次の日の歪みは夕方だった。
今日はミノタウロスとサイクロプスを新天地に送り、これで20体ずつ集めることができた。
彼らは生態数が少ないのか、一回の歪みでいつも5体ほどしか出てこない。
そして今回はイザナミさんも参加してくれた。
イザナミさんが参戦した伊豆の山奥の歪みは5分もかけずに終了した。
戦い方は師匠と同じで、高速移動での殲滅だ。
オレが転移した時には最後の一人を吹き飛ばしていた。
「さすがに早すぎませんか」
「なにをおっしゃる。ナツ殿は秒でしょうに」
「オレは魔法ですよ? 白兵戦で5分は尋常じゃないですよ」
片腕がまだ万全でもないのにヤバすぎてしょ。
逃げるハイオーガなんて初めて見たよ。
歪みの対処を終えてみんなで家に戻りメシの時間となった。
ちなみに食事の時のイザナミさんは、とてもかわいい。
こちらの食事がとにかく美味しいそうで、立派な武人をよそおいながらもワクワクが隠せないのだ。
「お待たせしました。前菜です!」
ひかりさんが運んできたのはイタリアンだ。
大皿で運ばれた最初の品は生ハム、カプレーゼ、カルパッチョ、サラダ、トリッパと品数も豊富だ。
続いてアキも大皿をワゴンに乗せて運んでくる。
バスタはボロネーゼ、海鮮のクリームパスタ、アラビアータ。
そこにトマトソースの海鮮リゾットが並んでいる。
メインはまさかの師匠担当!
美味そうな牛肉のステーキをスライスしたもの、そして豚肉のローストだ。
「師匠、料理できたんですね!」
「焼き物だけな。これは自信作だ!」
みんなでワイワイ食事を楽しむ。
これは美味い!!!
みんな大喜びで取り合いになりそうだな!
あ、イザナミさん、泣いてませんか……。
「アキもひかりさんもすごいな!」
「なんとなくイザナミさんの地元料理が西洋っぽいなと思ったんだ」
「アキちゃんと相談して歓迎会だから張り切っちゃいました」
デザートはティラミスだった。
イザナミさんはもう隠すことなく号泣してたよ。
「これはすごいものをごちそうになってしまった」
赤い目をしたイザナミさんが頭を下げて感謝を伝える。
「歓迎会ですからね!」
「いつもはもっと簡単だったでしょ」
「肉を食えばもう治っただろ。今晩のうちに立ち合えるんじゃねえか」
「ダメですよ師匠!」
イザナミさんが立ち上がりみんなの顔を見ながら話し出す。
「1000年の呪いを解いてもらい、このように温かく迎えてくれた。皆様方には本当に感謝をしています」
全員が優しく頷く。
「このような歓待を受けては名残惜しいが、明日、師匠殿との立ち合いを終えたらここを発とうと思います」
「!?」
「えー!」
「は?」
「なんでです?」
「何言ってんだ」
「いや、いきなり迷い込んでいつまでもここにお世話になるわけにはいかぬと……」
「何言ってるんですか」
「どこにいくのよ」
「行くとこないだろ」
「そうよ、ここにいればいい」
「……………良いのですか?」
「「「「「「当たり前だ」」」」」」
「もうイザナミさんの部屋を作っちゃいましたよ。このままオレたちを鍛えながら、お互いの世界の融合が無事に進むように手伝ってください。オレたちにはあなたが必要だ」
またも涙するイザナミさん。
「よろしく……お願いいたします」
仲間が増えた!
てかとっくに増えたつもりでいたけど、ちゃんとここにいてくださいって伝えなきゃダメだったな。
――――――――
次の朝。
師匠待望の立ち合いが行われた。
結果は―――引き分けだ。
どちらも有効打を与えられず時間切れとなった。
「とんでもないものを観たな」
「ああ。これはすごい」
オレも強くなったから判る。
あらゆる動きに無駄がなくすべての動作が布石になっていた。
あんな高度な立ち合いなんて初めて見た。
達人同士の技の応酬。
言葉にすればそれだけだが、技の前に行われていた駆け引き、技の一つ一つ、呼吸ひとつの持つ意味、大切さ。
あらゆるものが次元を超えていた。
オレがこれまでやっていたのは競技としての剣道だった。
「剣の道」は全くの別物だ。
「すごいものを見せていただきました。これでオレもひとつ上に上がれる気がしています」
二人に頭を下げて心からの感謝を伝える。
看取り稽古とはよく言ったものだ。
これは素晴らしいものを頂いた。
―――――――――
翌朝、イザナミさんを連れて新天地の視察に向かう。
モンスターの生息地を見てもらい、ここに異世界人が居住するのなら何が足りず何が問題なのかを聞きたかったのだ。
「まさかここまで広いとは」
「イザナミさんはお部屋リゾートの辺りしか見てなかったですもんね」
「これだけ広げればかなりの住民が入れますね」
「そこはまだ広げられます。じゃあまず住人にどんな家が必要か教えてください」
そう言ってオレはストックしてある家を収納から出していく。
並べたのは、マンションタイプ(大・中・小)、一軒家(和・洋)、コンテナハウスなどだ。
「こんなに収納できるんですか!?」
「無限に入るらしいです」
「よくこんな魔力を維持できますね」
「なんか魔力も無限らしくて」
「めちゃくちゃじゃないですか」
電力などは提供できると伝えたが、マンションなどは勝手が違いすぎて無理があり、使いこなせないだろうということだった。
今のところ、2階建ての一軒家とコンテナハウスを候補として残すことにする。
次にモンスターの様子を見に行く。
まず最初に魔狼たちの国だ。
「ここはイレギュラーです。ヒョウが魔狼の王なのでそもそもが味方スタートですから」
魔狼たちが私たちに気づいて駆け寄ってくる。
アキたちが魔狼たちと仲良く会話をしているのを見てイザナミさんは驚きを隠せない。
「こんなことがあるんですね」
「?」
「魔狼といえば群れで行動するかなり手強いモンスターです」
「しかも彼らは規格外ですから。ここまで出てきてるモンスターで一番強いサイクロプスなんて一対一で圧倒しますよ」
それを聞いてさらに絶句するイザナミさん。
「ここにいる魔狼は全員が言葉を使えるようになりました。人間と共存して、自らの国も運営してます」
「まったく。理解を超えてますよ」
魔狼たちと別れてほかのエリアを視察していく。
コボルト、オーク、オーガ、コカトリス、ゴーレム、ハイオーク、ハイオーガ。
ミノタウロス、サイクロプスはかなり凶暴なのでさらに離れたエリアに放してある。
すべての種族に共通しているのは意外とおとなしいという点だ。
私たちが来ても別に騒ぐことなくこちらを伺うだけだ。
イザナミさんに聞いてもこんなことはあり得ないという。
「普通なら人間を見た途端に襲うはずです」
「なんかここの果物やキノコを食べると凶暴性を抑えるみたいです」
「そのうち仲良くできそうな気もするんだよね」
「そんなことができたら奇跡だよ」
と、そこに一人のハイオーガがこちらに歩いてきた。
これはもしかしたら。
オレは期待をせずにはいられなかった。




