魔王
世界の融合が起きるのなら、その日、魔王がやってくることになる。
魔王という言葉が加わったことで、Xデーはむしろ分かりやすくなったかもしれない。
まず、魔王を倒せば一つ面倒はなくなる。
本当にナビィの言うとおりなら、魔王はオレが簡単に倒せるので問題ないということになる。
極論、モンスターについては今の世界と同じで、ある意味、ライオンや熊と同じだと思えばいい。
突然ハグレてくるのは困るが、完全に融合すればそれもなくなるはずだし、それなら猛獣たちと同じように棲み分ければいいだけのことだ。
一番の問題は向こうの文明との迎合において何が起きるか。
共存できるのか、戦争になるのか。
向こうは魔法文化。
こちらは科学文化。
願わくば共存したいが、向こうは世界の融合をどう捉えているのか。
この世界でも好戦的な国もあれば、そうではない国もある。
異世界にも同じようなことがあるのかもしれないよな。
てか、向こうはどこまで理解してるんだ?
そしておそらくは魔王だけで事は終わらないのだろう。
ヒョウを呪いにかけた相手こそが真の敵なのは間違いがない。
そいつが魔王を使って仕掛けているとは思えない。
ヒョウを操れる相手がこんな姑息な手段を取るとは思えない。
きっともっと別の存在か?
これは大きな問題ではあるけれど、とりあえずは魔王に集中するしかないかな。
イザナミさんも交えてコアメンバーでそれらの点について話し合う。
「こっちは神様の存在は伏せているものの、ファンタジーのモンスターが現実世界に紛れ込んでくることは開示してます。そちらはどうなんでしょう」
「1000年モンスターになっていたのでね。人間とは関わってないのだ」
「そりゃそうか」
「お役に立てず申し訳ない」
「あっちにはあっちの救世主がいるのかなあ」
「勇者と呼ばれる存在は確かにいますね。節目ごとに現れるそうですから今回も誕生しているかもしれません」
「だとしたらその人の考え方ひとつでいろいろ変わりそうだな」
そのあたりが肝になりそうだ。
異世界のことをもって知っておかないとな。
―――――――
イザナミさんにこちらの文明を見せてみることにした。
オレとアキ(もれなくヒョウとナビィ)でドライブに出かけたのだ。
「こ、これは!?」
イザナミさんはまずクルマに驚いた。
「馬もなしに走ってる! これは動力は魔力ですか?」
「馬車はあるんですね。似たものですが、馬の代わりに魔力ではなくある燃料を使ってるんです」
「なんと……」
その後も街並みを見てイザナミの驚きは続く。
そびえ立つビル、多くの人とクルマ、見るものすべてがイザナミさんの想像を超えたものばかりだった。
「ここまで文明が違うとは思いませんでした」
「代わりに魔法は使えませんけどね」
異世界はどのような町なんだろう。
田舎に行けば似てるのだろうか。
「イザナミさんの住んでたのってどんなところなんですか?」
アキがいろいろ尋ねてみたところ、イザナミさんは海のそばの街に住んでいたようだ。
「田舎の海か。どこもピンと来ないよな」
「北海道とか。襟裳岬に行ってみたかったんだけどどう?」
「いいかもな。そこにしよう」
認識阻害を強くかけてから襟裳岬に転移した。
「……ここは私の国に似ています」
「そうですか」
「はい。私の世界はほとんどがこんな感じですよ。都市は栄えてますがこの世界の都市とは比べものにはなりません。王都ですらナツ殿の家の周りにも劣ります。人数こそ1000万はいますが、住んでいる家はよくて石造り、ほとんどが木材の家です」
「文化が違いますからね。良い悪いではないと思います」
聞けば食の面でもこちらが圧倒しているようだ。
なんとなく向こうは江戸時代みたいな感じなのかなと想像した。
冷蔵庫にも驚いていたし、電子レンジなど意味がわからないと言っていた。
代わりに栄えているのは魔法だ。
小さな子どもでも簡単な生活魔法は使えるらしい。
大人ならちょっとした攻撃魔法も使える人はいるそうだ。
但し魔道士と呼ばれる人以外は大掛かりな魔法は使えない。
「ナツ殿は異常です。魔王でもそのクラスの魔法をそうは簡単に連続使用できません」
「でしょー♪」
「やっぱり規格外だったんだ」
魔王と本当にまともに戦えるか不安だったので、ハグレとの戦いに同行してもらい、一連の作業を見せてみたらこんな反応が返ってきた。
広範囲の攻撃はできてもピンポイントでの一斉攻撃などは聞いたこともないそうだ。
100体にも及ぶモンスターの一斉強制転移、攻撃魔法にサイレントの加工、そして何よりクリエイトで作り出した新天地などは「神の御業」としかいいようがないとのこと。
なんか本当に大丈夫っぽいな。
ヒョウの言うとおり、魔王はチョロい気がしてきてしまった。
「ただ搦手にはご注意を。魔王が魔王たる所以はそこにあります。正面からやりあえば私とて簡単に負けないと思います。ですが仲間を人質に取られて私は負けました」
つまり小狡いんだな。
ちっちゃいなあ魔王。
「わかりました。ありがとうございます」
そこでオレは相談をする。
「私と私の師匠に剣の稽古をつけてほしいんです」
「それはもちろん。こちらがお二人の胸を借りる立場ですけどね」
「ご謙遜でしょ。立ち振る舞いから実力は分かります。ご指導お願いします」
「まあそこは後ほど」
「あと、新天地を向こうの住民用に作り直したいんです。アドバイスをもらえませんか」
「もちろんです。お任せください!」
そして家に戻ってそのことを師匠に伝えたらさっそく稽古をすることになった。
そりゃ師匠が我慢できるはずがない。
竹刀と防具をイザナミさんの身体と希望に沿ってアジャストしていく。
「これは理にかなうものですね。ケガをすることなく鍛錬ができる」
準備が完成してまずはオレから立ち合うことになった。
竹刀を構えて向き合うだけで改めて判った。
イザナミさんはめちゃくちゃ強い。
こちらの剣道の作法など関係ないから、一旦ルールは忘れたほうがいいな。
能力解放はカットしてる。
ヘタをすると秒殺もあり得る。
オレの中段に対して向こうも中段。
剣先を合わせた瞬間、イザナミさんが飛び込んできた。
「!」
打ち込みを逸らして返しの面を打つ。
が、その時には後ろに間合いが外されてしまう。
再び間合いを測りながら剣先を合わせにいく……と同時に飛び込み面を放つ。
もらった!と思ったその時、下から肘で打ち込んだ竹刀を跳ね上げられる。
「やべっ!」
と思ったときには胴を決められていた。
「参りました。お見事です」
「一つ間違えば私がやられてます。ナツ殿は強い」
「一本取られたのなんて何年ぶりだろ」
「作法が違うようですね。ルールを知らぬもので申し訳ない」
「いやそのつもりで立ち合いましたから」
「でも隠してますよね、力」
「あれは神様にもらった能力ですから。オレの力じゃない」
「それも使いこなさないと。次からは解放していいですからね」
「それにしてもまさかあれを肘で返されるとは思わなかった」
「折れましたけどね」
「えええ!!」
笑いながらイザナミさんはヒールで肘を治す。
すごいなこの人!!!
「もう待てん! イザナミさん、やろう!」
「いやさすがにこの肘では。しばらくすれば完治しますからもう1日2日ほどお待ちいただけますか?」
「ぐわあぁぁ!」
師匠が悶えてるぞ。
そりゃこんな達人とやれる機会なんてないからな。
イザナミさんも化け物なら師匠も立派な化け物だ。
二人の立ち合いが楽しみすぎる!




