計測不能(二体目)
計測不能は渋谷だ。
すでに都内の主要エリアは住民の避難は済んでいる。
ここ渋谷もすでに無人エリアだ。
歪みの中心はスクランブル交差点。
果たしてどんなモンスターが現れるのだろう。
アキは結局付いてきた。
「計測不能に同行しないと思うのがおかしい」そうだ。
「とはいえ、大丈夫なのはもうなんとなく分かってるんだけどさ」
「なら信用してくれればいいのに」
「でもそれで何かあったら? 私は一生自分を許せないと思うよ。ナツくんなら私を放置できる?」
「無理」
「そういうことだよ」
やがて時間が訪れる。
空間が歪み、濃霧が溢れる。
そのモヤが晴れた時、そこにいたのは馬に跨った一体の騎士だった。
「デュラハンだ♪」
「有名だよな」
「く、首がないよ!?」
そう。
デュラハンには首がないモンスターだ。
諸説あるがアイルランド発祥の伝説だとか。
乗っている大きな黒馬もまた、首がない。
「剣を持つ相手ならちゃんと向き合いたいんだけどな」
「でもモンスターだよ?」
「まあ話してみるよ。危ないからアキはなるべく下がっててね」
さあこいつはどうだろうか。
ほかのモンスターとは違い、いきなり襲ってくるような気配はない。
「オレは江之島ナツだ。あなたの名前を教えてくれないか?」
デュラハンは反応しない。
まあ首ないし。
答えが返ってくるとは思ってなかったけどさ。
「ならちょっと軽く打ち合ってみようか」
オレは収納から聖剣(木刀)を取り出す。
剣を持つと同時にデュラハンも剣を抜いて構えた。
「待っててくれるなんて紳士じゃんか。じゃあ語ろうか……剣で」
オレが中段で構えると、デュラハンはなんと馬を降りて同じく中段で構えてきた。
「……へえ。馬上の利を捨てて戦うんだな」
うん。やっぱりちょっと違うよな。
期待してるぞ。
剣先でお互いの気配を探り合う。
次の瞬間、デュラハンがとんでもない速さで突きを放ってきた。
だがオレは微動だにせず剣先でその突きを払い、そのまま返し胴を放つ。
デュラハンはたまらず吹き飛んだ。
「……斬ってない」
アキの呟きに答える。
「こいつは普通のモンスターじゃないよ。剣を交えてわかった」
デュラハンは立ち上がり、もう一度構え直す。
次は下段に構えている。
高度な守りの型だ。
「すごいな。でもオレを相手にその構えは悪手だと思うぞ」
オレはまた中段に構える。
再び、剣先が交わろうとした瞬間、今度はオレが動く。
目にも留まらぬ飛び込み面が決まって、デュラハンは地面に叩きつけられていた。
三度立ち上がるデュラハン。
しかしその後も同じことが続く。
やがてようやくスタンダードな中段に構えてきた。
オレも同じく中段に構えて――そこから剣を高く掲げた。
「……ナツくんが……上段?!」
もともとオレは左ききだからな。
やらないだけで上段は嫌いじゃない。
攻撃の型だからむしろ本来は性にあってるとは思うよ。
この構えのメリットは左手一本で放つ遠い間合いからの打ち下ろし。
デュラハンと向き合ったのはほんの刹那――直後には打ち下ろしの面が決まりデュラハンは地に打ち倒された。
デュラハンは立ち上がり、そして剣を柄に収めた。
「?」
そのまま両ひざをつき、両手を地につける。
そしてそこにはない頭を差し出すかのように身体を深く前に倒してきた。
「………」
オレも蹲踞の姿勢を取り、剣をしまう所作を取る。
立ち上がり一礼。
数歩前に進み、改めて剣を斜め上段に構える。
そしてデュラハンの首を落とすかのように斜めに切り下げる。
そう、落とす「かのように」。
これでオレの勝ちだ。
きっとそういうことだ。
デュラハンは剣を抜き自身の胸にあてる。
そのままおそらくは魔核に剣を突き刺し自ら命を絶とうとしたのだが、それはオレに制止される。
させるはずがない。
こいつはすごいやつだ。
「あなたは気高い剣士だよ。その呪いを解かせてくれ」
オレの言葉に動きを止めるデュラハン。
「かの者の呪いを解き、我の前に真の姿をみせよ。……リリース!」
詠唱ともにデュラハンの身体を白い光が包み込み、眩しく輝く。
数秒後、光が収まったときにそこにいたのは日本人の剣士だった。
「なんと。まさかまたこの姿に戻れる日が来るとは」
「……私は江之島ナツです。あなたのお名前をお聞かせ願えますか?」
剣士は驚いた顔をしてから正座をしてこちらに向き直り、頭を下げる。
「私はイザナミ。魔王にあのような姿にされ1000年を過ごした身です。ナツ殿にはお救いいただいたこと、心より御礼申し上げる」
なんだって? 1000年!? 魔王!?
「驚きました。その歳月にもですが、まさか同じ人間だったなんて」
「魔王に敗れ呪いを受けてあのような姿となったのです。延々と望まぬ敵と戦い続ける苦しい1000年でした。全力を尽くして負けた時のみ死ぬことを許される宿命だったのです」
そういうことだったのか。
「なにかの呪いを受けているのは感じましたが、まさかそんなものだったとは」
「それにしても素晴らしい技でしたな」
「いや、イザナミさん……あれがイザナミさんの実力ではありませんよね」
「……呪いで我が剣は封じられておりましたゆえな」
「日を改めて稽古をお願いします。イザナミさんの本来の剣でご指導いただきたいです」
「願ってもないことです」
まずは休んでもらおう。
「私の家にいらっしゃってください。遠慮は無用です。これは私の許婚のアキです。それからこれは友だちのナビィです」
「アキです! これから宜しくお願いします!」
「ナビィだよー♪」
「イザナミです。こちらこそ宜しくお願い申し上げます」
みんなで転移をして新天地へ。
少し休んでもらっている間に各地の状況を確認する。
「ナツです。遅くなりました。測定不能のモンスターは保護しました。詳しくは後ほど。各地の状況は?」
「家町だ。心配したぞ。こちらは順調。まもなく全エリアの対処完了の見込みだ」
「よかった!」
「終わり次第、新天地に転移する。話を聞かせてくれ」
「了解しました」
今日も無事に上手くいったようだ。
―――――――
「――というわけで、こちらイザナミさんです」
主要メンバーをひと通り紹介していく。
「なんと……魔王なんて。それに1000年ですか」
「平安時代か? 神話のイザナミとは違うんだな」
「いや、異世界の方ですから」
「そうだった。見るからに日本人だからつい」
そうじゃん!
自分で言いながらうっかりしてた。
イザナミさんは異世界人だ!
となれば聞くことが山ほどある!
「呪われていた1000年は記憶はあるんですよね?」
「ええ。それより異世界というのは……?」
「ここはイザナミさんがいた世界ではありません。別世界なんです」
「!?」
「私と会う前におかしなことはありませんでしたか?」
「……魔王に指示された場所に行きました。不思議な霧に覆われたことは覚えています」
わかったことはまず二つだ。
魔王が実在する。
そして魔王は歪みを使ってこちらにモンスターを送り込んでいる。
家町総理がため息をつきながら悲壮な表情をしている。
「まさか魔王とは」
「お互いに事故じゃなく魔王の侵略か」
「いや、神様が噓をつくとは思えません」
「どういうことだ?」
「歪みは自然現象で、それに魔王が乗っかってるっていうのがわかりやすい」
「「「なるほど」」」
三賢者もその見立てに納得している。
「毎回数が適当じゃないのも、魔王の意図だというならわかりやすい。おそらく転移の上限数が100なのかもしれないな」
「ゾンビをしつこく送ってくるのも魔素がこっちの世界にも欲しい魔王の意図か」
「歪みを作ることができないのはまず本決まりだな。コントロールできるならもっと嫌らしい作戦でくるだろう」
イザナミさんが会話に加わる。
「魔王は低級モンスターなら自由に招聘できるし動かせます」
「そういうことか」
「これまでのイレギュラーはヒョウとイザナミさんで、どちらも従属させて派遣してる」
「せこい魔王だな。なんで自分で来ないんだ?」
師匠はご立腹だ。
「あとはなぜ一方通行なのか」
「そこは最初から謎です。わかりやすいのは歪みで相互に人がハグレるのが普通な気がしますが、ここまでは完全に一方通行です」
「おそらくは……向こうがこっちに吸収される形ってことか?」
「そうなのかもしれませんね」
今日は一旦ここまでとした。
イザナミさんには明日もヒアリングに協力してもらうようお願いして解散となったのだった。
そのあとオレはヒョウと話をしていた。
「ヒョウを呪ったのは堕神じゃなくて魔王なのか?」
「ありえぬな。魔王ごときに遅れは取らぬ」
「へ? 魔王知ってんの?」
「あんなもの雑魚だ。相手にもしておらん」
「えー、魔王だぞ? 強そうだけどな」
「名前だけだ。秒殺できる」
あれ? 魔王って弱いのか??




