絶望の果てにあるもの
まず中国がキレた。
置いてきぼりにされた大国はそのプライドをズタズタにされた。
とはいえ、情報は届けていたし、それをバカげたデマだとして無視をし続けたのは自分たちだ。
相手構わずキレまくった挙句、日本とアメリカ、ロシアにまで制裁として輸入出の全面停止を宣言してきた。
事実を伝えてきてあげたのになにが制裁なのかよくわからないが、当然、そんなものには何の効果もない。
何を止められたとて、もはや何のダメージもないからだ。
こちらには魔法という彼らには太刀打ちできない理解を超えた武器がある。
世界のバランスを大事にしてきたからしてこなかっただけで、レアアースだろうがなんでもコピーで増やせるしクリエイトでも作れるからもはや価値などない。
ましてや中国産の怪しい激安商品などに手を出す必要もない。
そんなものにはそもそもなんの価値もないからな。
表立って正論を言おうが拗れるばかりなのでそのまま放置することが決まった。
みんなもちろん全くのノーダメージだった。
むしろ困るのは中国の方だった。
魔法世界から完全に置いていかれた大失態を犯した中国の現体制はそのまま崩壊したのだった。
そして次に北朝鮮が暴発する。
大国の混乱に窮したこの国は核をチラつかせながら遅れを取り戻さんと日米露を交渉のテーブルに着かせようとした。
だがそんな交渉に乗るメリットなど何もない。
相手にされないことを悟った北朝鮮は日本に向けて弾道テストを盛んに行うことにした。
だがその全ては予知で察知できるので、尽くをリフレクトで跳ね返してやった。
ミサイルを撃てばミサイル基地に跳ね返されてしまうのだ。
弾頭のないミサイルとはいえダメージは大きい。
しびれを切らせた北朝鮮は、日本に宣戦布告をしたのだった。
勝手に恫喝しておいて勝手に宣戦布告とは意味がわからない。
もうケツモチの大国も機能していない。
もちろんそんな宣戦布告にはなんの意味もなく、打つ手のなくなった北朝鮮はついに核の使用を世界に宣言した。
過去最大の予知反応に、家町総理たちも北朝鮮への応戦を決定し、私を派遣することが決まった。
すぐにアキ、師匠、ひかりさん、篠田で北朝鮮の国境付近に転移し待機する。
もちろんヒョウも一緒だ。
オールスターだが、まさか本当に撃つわけがない。
あくまでも万が一に備えてのことだ。
「もし本当に撃ってきたらどうするんだ?」
「強制転移でお返ししてもいいけど、国民がかわいそうだからな」
「最高指導者の居場所はわかってると聞いたぞ」
「神眼で余裕。自分たちだけシェルターに閉じ籠もってる」
「まじで? クズすぎるよ」
「国民はどうなるのよ」
師匠がポツリと言い放つ。
「そこに直接お返しだな。逆バリアを使え」
なんか怖いことを言ってきたぞ。
「いやさすがににそれは」
「この国はもうとっくに終わってる。一度や二度のミスはいいんだよ。でも反省してやり方を変えればいくらでも取り返しがきくのにこの国はそうじゃない」
「……うん」
「独裁政治も恫喝もやめようともしない。このまま放置するのはもう無理だ。新世界に不要なのは分かるだろう。このことは家町総理とカーター大統領、イワンコフ大統領からの了解ももらってるよ」
「え」
「まあナツがその選択をしないことはわかってるさ。でももしかしたらナツが許せないと思うかもしれないしな。念のためそこまでの了解は取り付けておいた」
「……」
「まあもし本当に核を撃てば、の話だけどな。そこまで狂ってるならもう無理だ。割り切っていい」
その想いも虚しく、やがて本当に核ミサイルが発射されたのを確認する。
神眼で確認したので間違いはない。
その数はなんと120発。
日本全土にバランスよく10発。
そして残りは全世界に向けて。
本当に核ミサイルをばら撒いたのだ。
想像を超えた悪意の塊にオレは静かにキレた。
そのせいか普段の能力では試したことのない広範囲での強制転移が発動できた。
即座に全てのミサイルを収納して、クリエイトで核も完全に無効化した。
そのままバカたちが隠れ潜んでいるシェルターに正面から突入し、そこにいた全員を確保した。
北朝鮮の首都から遠く離れた秘密基地の庭に並べられた120発の核ミサイルと、その前に転がされた首脳たち。
そこへカーター大統領、イワンコフ大統領、家町総理が転移してくる。
「核は完全に無効化してます。拘束して転がしてあるのはシェルターに隠れていた高官たちです。単なる使用人や無理やり連れてこられた女性も混じっているようだったので、神眼で確認してからその人たちにはあちらで休んでもらってます」
「うん。よくやってくれた。本当にお疲れ様だったね」
「……はい。後はお任せしますね」
『……ナツ、大丈夫か。辛い役目をすまなかったな』
カーター大統領の言葉に少しだけ押し黙ってから答えた。
「ここまでの人間の悪意を初めて見ました。神眼は心の中を見通します。最高指導者は全ての破壊を望んでました。自分と、自分の気に入ったものだけが生き残れるように、自国民すら見捨てて、国の全ての備蓄を運び込んで籠城していました」
『……残念ながら愚か者はいるものだ。ナツとは対極の者たちだ。そんな奴らに囚われる必要はない。後処理は大人の仕事だ。任せておけ』
「………はい。宜しくお願いします」
そのままみんなも残したまま、ひとりでリゾートの屋上に転移をした。
魔狼たちの住む国が見える。
「モンスターですら平和に暮らしてるのにな」
世界共有の危機を迎えてもこんなことが起きる。
人間の悪意には底がないのか?
このまま新世界を迎えていいのだろうか。
山を見ればその先には力強い入道雲が光を反射しながら空高く立ち昇っている。
空には真昼の月が、まるでそこに真っ黒な宇宙などないかのように、深く濃い青の中にぽっかりと浮かんでいる。
これはクリエイトの作り物だけど、オレが一番好きな景色だ。
リゾートの昼間の空はいつもこれにセットしてある。
そんな大好きな景色を眺めながら、オレは静かに涙した。
しばらくするとアキが転移してきた。
「大丈夫かな」
涙を拭ってから振り返るとアキは両腕を広げていた。
ニ歩三歩と足を進めてそのままアキを抱きしめた。
そして決壊。
涙は止まることなくそのまま泣き崩れたのだった。
アキはずっと頭を撫でてくれていた。
ようやく泣き止んだオレにアキが告げる。
「ナツは大丈夫。悪意なんかに負けないで」
「ああ。落ち着いたよ。ありがとう」
二人で手をつないで歩いて帰った。
リゾートには仲間が全員揃って待っていてくれた。
「遅いんだよ! 腹減ったから早く始めようぜ」
篠田が大声で愚痴る。
フリなのはバレバレだけどな。
「準備は完璧です!」
ひかりさんが肉を刺した串を両手いっぱいに持っている。
「スッキリしたか? あとから総理たちも来るからな。今日は騒ぐぞ」
師匠がビール片手に笑っている。
「ナビィのヤキソバ、分けてあげるよ」
「主、今日は背中に乗せてやろう」
「王、ずるいですぞ! お乗せしていいのであれば私どもにもその栄誉を分けていただきたい」
仲間が変わらず迎えてくれる。
そうだな。大丈夫だ。
オレには心から信頼できるかけがえのない仲間がこんなにいる。
それはとても幸せなことじゃないか。
もしも悪意が止まないのなら。
この先また人間に絶望することが万が一にもあるのなら。
仲間たちとここに引きこもろう。
両親も呼べばいい。
みんなが大切なひとたちだけを集めて、ここで笑って暮らせばいいんだ。
気持ちは晴れた。
「待たせたな! さあ食べよう!」
みんなが笑顔で応えてくれた。
うん。ここにオレの居場所はあるんだ。
幸せなことだ!




