かけがえのない仲間
マップに青と黄色が混ざりだした。
「あそこだ。防衛線が生きてる!」
素早く旋回してヘリは安全地帯に降下する。
自衛官と在日アメリカ軍の記録員を乗せた拡張ジャンビーがヘリを飛び出す。
総理と大臣、そしてアキとひかりさんを残したヘリが空へ戻る。
私は認識阻害をかけて空へ上がり、戦場の黄点へ向けてのホーリーを撃っていく。
同じくアキもヘリからホーリーを撃ち込む。
師匠は単騎で最前線に突出。
ひたすらゾンビの首を撥ねていく。
バサバサとゾンビが打ち倒される様はまるでゲームさながらだ。
自衛隊特殊班はジャンビーからのM2、車窓からのライフル射撃でゾンビの頭部を破壊していく。
ものの数分で形勢は逆転した。
勢いを取り戻したロシア兵も参戦して、樺太のゾンビ戦は一気に片がついたのだった。
―――――――
『ありがとう。ロシアの危機を救ってもらえたことは絶対に忘れぬぞ』
イワンコフも合流し、戦後処理のためにロシア、アメリカ、日本、三国の会談が樺太で行われていた。
『世界の危機については今、話した通りだ。まずは日本の支援を頼む』
『もちろんだ!』
「ありがとうございます」
『この難局に国同士の諍いなどしている場合ではない。立場を超えて手を取り合うべきだ』
三国は固い約束を交わすことができた。
「なんだか拍子抜けというか。資本主義とか共産主義とかもっと揉めるのかと思ってました」
「今はもうそんな時代でもない。ロシアも苦しいからな」
「むしろ中国の動向が問題だ。モンスターの協議にも一切加わらないままだ」
「同じく北朝鮮もだ」
「両国にも情報は開示してきたのだが一切無視だよ」
「他人事なんでしょうね。でもそれも今だけです」
ロシアの危機は救えた。
日本政府だけではなくアメリカも味方になった。
ほんの少し前とは環境が全く違う。
これなら歪みとも対峙していけると確信した。
ロシアはゾンビ騒動を秘匿することにした。
歪みは日本でしか起きない。
その日本が歪みを完封しているからにはこのタイミングで異世界騒ぎを開示する意味がないと判断したのだ。
その意図は日本にとっても歓迎するものだった。
そして――ロシアはこれを機に北方領土の日本返還を決定した。
いわば神が北方領土は日本の国土だとみなしていることが判明したこともあるし、なにより今回の作戦に日本が全力を尽くしてくれたことへのお礼だ。
同時にこれは日本とロシアが新しい友好関係を表現したことにもなる。
世界は変わりつつあった。
―――――――
オレは久しぶりに剣道の稽古に励んでいた。
毎朝の素振りは欠かさなかったが防具を付けた練習は久しぶりだった。
もちろん剣道をしているときは能力はカットしている。
「どうよ、調子は?」
声をかけてきたのは同じ3年生の親友、篠田だ。
「やっぱり稽古はいいな。一人の鍛錬じゃ物足りないよ」
「だろー。サボってないでもっとちゃんと出てこいよな」
「サボりたくてサボってねえし!」
稽古終わりに久しぶりに篠田とメシに行くことになった。
いつもの中華屋だ。
「おいちゃん、来たよー」
「おー。ナツ! やっと来たか!」
「ごめんね。忙しくてさ。あとから知り合いも来るから奥の座敷でもいいかな」
「もちろんだ。どうぞー!」
「ん? 誰が来るのか?」
「驚くぜ。どうしてもシノに会わせたいヤツがいてさ」
「どうせアキだろ笑」
「バレた?」
ここは部活帰りによく通っている店だ。
学割だといっていつもデカ盛りサービスをしてくれるので、小遣いの少ない学生には大人気だ。
「ナツ、待ってる間にサイン書いといてくれ」
おいちゃんが色紙を3枚持ってくる。
「王龍とインハイ個人と団体な」
大会で優勝すると必ずサインを書かされるのだ。
「いいけどさ。いつも言うけどオレにはサインなんてないんだからね」
「いいんだよ。名前を書いといてくれりゃいい。お前は必ずスーパースターになるってわかってたからな」
子供の頃からのやりとりだ。
小学生の頃から小さな大会で勝ったらおいちゃんは必ずオレにサインを書かせた。
思えばオレの才能に一番早く気づいてたのはおいちゃんだったのかもしれないな。
三つある店の壁の一面はいまやオレ専用のサイン置き場だ。
一番古いのは小学一年生のちびっこ剣道大会だ。
トロフィーを持った写真もついてる。
他のサインにも必ず写真が付いてる。
オレがトロフィーやメダルを持ってこなくなってもおいちゃんはサインをするときには必ず写真を撮ってここに貼る。
間が空いても大会分のサインと写真を撮られるのだ。
「感謝だよな。少しは恩返しができてるならいいんだけどな」
「もう十分恩返しできてるだろ。ナツのファンの聖地になってんだからな」
「それホントなのか?」
「お前本当に鈍感だね。ほれ、あそこ」
顎で促された方を見ると「きゃー!」と悲鳴があがる。
ちょうどファンが訪問していたようだ。
バレたついでにサインと写真を求められる。
もちろん喜んで応じる。
これも剣道普及の一環です。
そうなると我も我もと店内でサインと写真祭りになる。
ひと通りリクエストに応えて落ち着いた頃に料理が届いた。
おいちゃんは嬉しそうに新しいサインと写真を壁に貼っている。
「珍しいよな。ナツからメシに誘うなんて」
「まあね。ちょいと話がありまして」
「なんだよそれ。金なら貸さんよ。むしろ貸せ」
「頼みを聞いてくれるならいくらでも貸すぜ」
「は? 頼み? らしくねえな」
「わりかしガチなやつ」
「……どうした?」
まだメンバー招集前だけどいいか。
周りを気にしながら小声で話す。
「……あのさ、一緒に世界を救ってくんないかな」
春巻きを咥えたまま、篠田は固まっていた。
「なんそれ」
「明後日、ゾンビがこの街に溢れる」
「は?」
「さすがに建物が多くていつもみたいに秘匿できそうにないんだ。明後日で世界がちょっと変わっちゃうと思う」
「えーと。明後日か。何時?」
「夕方17時」
「大丈夫か?」
「……まあ簡単には信じられないよな」
「いや? 信じてるよ。だから聞いてるんだよ。大丈夫か?」
あー。
こいつはこういうやつなんだよな。
「シノはほんといい奴だよな」
「お前がそんな冗談言うとは思えんしな」
「いつから気づいてた?」
「まあお前が練習来ないとかあり得ないし。なんか抱えてんのはわかってたよ」
「そっか。ありがとうな」
「で、何関係?」
「神様関係」
それを聞いてがっくりうなだれるシノ。
「ガチなやつかー」
「そうなんよ」
「とりま、お酢取って」
オレの前にあったお酢の瓶を収納にしまってから、シノの前で取り出す。
「……お前さあ。もうちょい勿体ぶれよな」
「すまん。場所を変えていいか?」
そこに師匠、ひかりさん、アキが店に入ってくるのが見えた。
「あーね。理解した」
「悪いな。もうシノも頭数に入ってるんだ」
「りょ。よろしく」
そう言って篠田は片手を出してきた。
その手を握り返して――ちょっと泣きそうになった。
こいつは紛れもない親友だ。




