機内にて
まずは北海道の転移拠点から網走の航空自衛隊基地に入る。
そこでこれまで秘密裏に危機と向き合っていた自衛隊の特別ユニットと合流した。
「自衛隊特殊班、沢野です」
「同じく福田です」
キビキビとした挨拶だ。
階級は無いそうだ。
ある意味特別感が半端ない。
「石川です。こちらは江之島ナツ、一ノ瀬アキ、旭川ひかりです」
それぞれ挨拶を交わす。
「風間外務大臣からここに向かう機中で概要は伺いました。力強い仲間が出来て心強いです」
「こちらこそ。これまでの多大なる献身、心から敬服しました」
師匠の労いの言葉に二人は胸を打たれたようだ。
「ありがとうございます。我々の下に事情を知る部下が6人おります。その下に事情を知らない隊員がそれぞれ10名です」
6人がツーマンセルで全国3か所に分かれて待機しており、状況に応じて現地自衛隊の支援を受けながら可能な限り即時対応できるようにしているそうだ。
「モンスターモニターは届きましたか?」
「はい。これがあれば我々の活動はとてつもなくスピードアップできます!」
「持つ者のスキルに応じてアラームの鳴る時間は変動します。当面は私たちのほうが早く反応すると思うので即時共有しますね」
「はい、宜しくお願いします!」
緊急通報システムは風間さんがすぐに対応してくれた。
私たちのモンモニを預けたらすぐに特殊回線を繋いでくれたので、すぐに連動できた。
在日アメリカ軍からは戦闘を記録するための要員が合流した。
全員で自衛隊の大型ヘリに乗り込む。
中には大型のジープが2台積まれている。
「装備はどのようなものを使ってるんですか?」
二人はチラリと風間さんを見る。
頷くのを見てから教えてくれた。
「20式と呼ばれるアサルトライフル、9ミリの拳銃、他に専用ジープに重機関銃のM2を設置しています」
「詳しくないのですが、いま出てきているゾンビはヘッドショットが基本です。その装備はそれに適してますか?」
「はい、M2は単発に切り替えられますし2キロくらいの狙撃性能は期待できますよ」
「十分ですね」
「この先、モンスターの種類が変わったときはまた強化していきましょう」
「なかなか難しいですね」
「大丈夫です。私のスキルで強化できますから」
「いいのですか?」
「同じチームメンバーには万全の装備をつけてほしいので」
「「ありがとうございます!」」
オレは風間さんに向き直り声をかける。
「風間防衛大臣、装備の強化は早めにやっておきましょう。取り急ぎそのジープ、弄っていいですか?」
「そんな簡単にできるのか? ありがたい限りだが」
「はい、ちょっとやってみますね」
和製ハンヴィーと呼ばれる高機動車だ。
ジャンビーとも呼ばれるらしい。
まずは剥き出しの部分が気になるので幌をつける。
但し絶対に破れないやつ。
あとはランクルに施したのと同じ機能を付加する。
個々の隊の人数を考慮して少し増やして20人が生活できる拡張を施した。
「終わりました。どんなモンスターの突進も防げます。幌も絶対に破けないので安心してください。外部からの攻撃には反射と吸収を切り替えて対処可能です。このボタンで切り替えられますので。デフォルトは吸収になってます」
全員が呆然としている。
「中にはいると天井に2階に上がれる開き戸があるのでそこから入れば拡張世界に入れます。20人が生活できるキャンピングカーの機能を付けておきました」
誰も何も話さない。
「あと飛べます。といってもまだ魔力が使えないので水陸両用でしかありませんが、なんなら潜れますよ」
ようやく風間さんが口を開いた。
「……いや……ありがとう」
「とんでもないな」
「これは夢ですよね?」
みんな驚いたみたいだが、仲間には万全の体制で戦ってほしいからな。
出し惜しみはなしだ。
魔石が手に入ればもっとできることがあるのにな。
早くゾンビから切り替わればいいのに。
ジャンビーの拡張で盛り上がった後、風間さんが私たちに話しかけてきた。
「これからは私のことは風間でいい。いちいち防衛大臣をつけるのは面倒だろ」
「……なんでしょうね。みなさん小城さんにだけは役職名をつけて呼んでなかったでしょ。それってみなさんが認めてないからなんだろうって感じたんですよ」
風間さんは苦笑いだ。
「よく見ていたね」
「私たちも認めたくなかったので。実際に一度も呼んでいません。逆にみなさんには敬意を込めてます」
「ありがとう。光栄だが有事にはその限りではないし、親しみを込めた呼び捨ても嬉しいものだよ」
「いや呼び捨てはさすがにないですからね」
「……風間っち?」
すかさず愛称呼びをしたアキを肘でつつく。
「あはは、それはそれでいいもんだな」
「ダメですから!」
それを見ていた黒澤さん、吉野さんも大笑いだ。
「そうですね。小城さんももういないのでオフは親しみを込めてお名前で呼ばせてもらいますね」
「私も構わんからな」
「いやさすがに家町総理は無理ですよ」
「アキちゃんは家っちでよいからな」
そこにひかりさんが勇気を出して突っ込んだ。
「わかったよ! 家っち!」
「ひかりさん、そんなキャラだっけ?」
「……いや、ちょっと場を和ませようかと」
「ひかり、無理しなくていいからな。かわいいけど」
全員が大笑いだ。
これからゾンビと対峙するとは思えないような雰囲気でヘリは目的地へ進む。
すぐに樺太に到着した。
眼下にはおびただしい数のゾンビが徘徊しているのが見えた。
マップを見るとこのあたりは全て赤い点で埋め尽くされている。
おそらく南は全滅だ。
なんてことだ。
こんなことがあっていいのか?
元はたった一人の裏切りだぞ。
部下を見捨て一人で逃げ出した挙句、こんな事態を起こしたのだ。
「……この辺りは全滅です。人間はいません」
「なんということだ」
「このまま殲滅できます。ロシアの許可をお願いします」
「こんなところに降下するのか?」
「いや降りなくて大丈夫です」
家町総理がホットラインをつなぎイワンコフに現状を伝える。
ロシアも状況は把握しており、許可はその場で下りた。
私はマップで敵の一斉選択をする。
幾度かの戦いを経て選択範囲は大きく広がった。
今は視界ほぼ全てをマッピング可能だ。
「いけます。よろしいですか?」
「頼む」
あえてサイレントは無しだな。
悲しみを胸に、魔法を撃つ。
「雷撃」
瞬間、圏内に雷鳴が轟き、眼下を徘徊していたゾンビは跡形もなく消し飛んだ。
全員が言葉を失う。
「これくらいが一度に殲滅できる範囲です。パイロットさんに伝えて飛行をしてもらってください」
「わかった」
先程までの雰囲気は消失した。
少なくとももう、オレは笑えない。
今まてのゾンビとは違うんだよ。
全員が元人間だ。
……オレは、人を殺した。
―――――――
ひと言も発さず、雷撃を落とし続ける。
5回の雷撃でようやくこのあたりのゾンビを一掃できた。
師匠が肩を叩く。
「よくやった。おつかれさん」
「………はい」
「……ナツ、お前は人を殺したんじゃない。救ったんだよ」
「…………」
「あのまま徘徊するのは悪夢でしかない。お前は彼らを天に召したんだよ」
「……うん」
ハンカチを手渡される。
オレはいつの間にか泣いていたらしい。
それに気付いたら涙が止まらなくなった。
辺りを憚らず泣いた。
師匠の胸を借りて、ただ泣いた。
アキが後ろから抱いてくれたのがわかる。
そして次々とオレの肩に手が下りてくる。
機内の全員が泣いていた。




