まさかの展開
次の日、モンモニが激しくアラートを出した。
すぐにダイニングに集まる。
「ナツ、やけに早くないか?」
「……いや、歪みじゃない」
「どういうことだ?」
「ロシアにゾンビが大量発生してる!」
「「えええ!?」」
昨日の今日だ。
関係ないはずがない。
「……逃げ出した上官がいたな」
「まさか! 感染したまま逃げ出したのか?」
「それしかないだろ」
最悪だ。
「気が進まないがこうなれば国に頼るしかない。一人だけ国防に関わってる信頼できるやつがいる」
「でも能力バレはマズイって言われてる! ナツくんを危険に晒したくない!」
「……アキ、きっと大丈夫だ」
「なんでそんなことが言えるの!」
「昔の先人たちはここまでチートな力を授かってないって言ってた」
「でも!」
「ここ最近は全員国家を味方にしてる。そうだよなナビィ」
「うん。ナツくんはどんな権力も太刀打ちできないような力を持ってる♪ 師匠とアキちゃんも、もはやどんな国家権力が相手でも無敵だと思う♪」
アキは絶句する。
同時に言われた言葉に嘘がないこともわかったようだ。
「師匠が信頼する人なら間違いないよ。会ってみよう」
私たちは覚悟を決めたのだった。
―――――――
アポはすぐに取れた。
この辺はさすがとしか言いようがない。
待ち合わせは永田町。
朝イチのアポイントとなった。
オレとアキは制服、師匠とひかりさんはスーツで師匠の愛車で永田町へ乗り込んだ。
案内されたのは総理公邸だ。
「はあっ?!」
「いや信頼できる国防に関わる人って内閣総理大臣?!」
「あれ、言わなかったか?」
「「「言ってない!」」」
「首相の家町は同門の後輩だ」
全員がフリーズする。
こちらの覚悟も関係ないとばかりに案内されたのはテレビでも見たことのある旧閣議室だった。
呆然としている私たちの前に現れたのは内閣総理大臣その人だった。
「石川先輩、お待たせしました」
「おう、いきなりすまんな」
「やあ、君たちが先輩の愛弟子だね。家町です。どうぞ宜しく」
差し出された手を握るのが精一杯だ。
「え、江之島ナツです」
「い、一ノ瀬アキです」
「知ってるよ! 剣道界のニューヒーローだったね。感動したよ」
「これはオレの婚約者だ」
「なんと! おめでとうございます。日本一美しい剣道家を射止めるとは先輩らしいですね」
「あ、ありがとうございます。旭川ひかりです」
「同じ剣道家として長きに渡る剣道普及に感謝してます。ありがとうございます」
「め、滅相もありません」
マジで首相が同門の後輩なのか。
あ、つまりは兄弟子ってことか。
「実はこのあとに緊急の閣議が入りまして。時間があまり取れないんです。失礼ですがさっそく本題を伺ってもいいでしょうか」
促されソファに座りながら師匠はそのまま切り込んだ。
「直球で行くぞ。ロシアでゾンビ騒ぎが起きてる。情報は届いているか?」
家町首相は一瞬で真剣な政治家の顔になった。
「……どこからその情報を?」
「オレたちは当事者だ。ナツは今、異世界のモンスターと戦ってる」
家町総理は息を飲んだ。
そしてオレを見つめて問う。
「いつから、どこで?」
「最初は7月末の博多です。次は札幌と熊本。そのあとは仙台、横浜、高知、そして昨日、京都、青森、富士山麓。そして国後島でした」
家町総理は絶句する。
「……情報が完全に一致してます。まさか先輩たちが当事者だったとは」
情報が一致?
「……国はどこまで何を知っているんですか?」
「おおよそに過ぎないよ。簡単に言うとこれは過去に世界単位で起きている現象だ。表には出ていないが歴代の国防の秘密として引き継がれてきた案件だ」
なんてことだ。
もう世界はこの現象を知っていたんだ。
「数年に一度、世界のどこかで新種の生物が突然現れてきた。すべてファンタジー世界のモンスターたちだよ。それが今年になって日本に集中して現れるようになったんだ」
「オレたちは全てを瞬殺してきたぞ。なぜそれがわかるんだ?」
「現象が起きたら反応があります。今まではそれを探知して対処してきたんです。ここしばらくは反応に対して現着してもモンスターがいないという現象が続いてました。先輩たちが対処してくれていたんですね」
反応というのが気になるな。
モンモニとは違う……魔素絡みだろうか。
「そんな事件、聞いたことがないぞ」
「完全なタブーです。そもそも滅多に起きない現象でした。日本で起きたのは8年前に岐阜の山奥で一件だけです。それも15年ぶりでした」
この案件は世界情勢とは一線を超えて共有する事項とされており、各国がトップシークレットとして完全に対応するのがルールだとのこと。
防げなかった漏洩は適度なオカルトとして世に流してきたそうだ。
「……驚きました」
「それはこっちもだよ。眉唾みたいな話だが間違いのない真実として引き継がれてきた最重要案件だからね」
「で、その真実を聞いて家町は……いや、内閣総理大臣としてオレたちをどうするつもりだ?」
家町総理は真剣な表情でこう告げた。
「総理大臣として答えるならば、どうか力を貸してください、ですね。そして個人的に……いや剣道家として先輩と弟弟子にお答えするならば、嘘偽りなく必ず私が皆さんを守りますから安心して信じてください、です」
師匠はオレに目を向けて促す。
「ナツ、啓示を受けたのはお前だ。お前が決めていい」
私は一度だけ深呼吸をして応えた。
「喜んで。一緒にこの世界を救いましょう」
立ち上がり全員で握手を交わしていく。
間違いなく良縁だ。
神眼と予知がそう告げている。
これは世界を救う大きな一歩だ。
―――――――
「早速ですが、答えを見せてもらえますか?」
再び師匠がオレに目を向ける。
オレはおもむろに人差し指を上にあげる。
総理の目線が指にきたのに合わせてその指をゆっくり壁際にある大きな書棚に向けて下ろしていく。
そしてわかりやすく唱える。
「――収納」
その瞬間、大きな書棚は消えた。
驚く家町総理。
そして再び書棚を元の位置に戻した。
「……!」
「他にも転移や魔法が使えます」
師匠がそれに続いて伝えたのはある種の脅迫だったとも言えるが、伝えておくのは大事なことだ。
「オレは家町のことを信頼している。だがあえて言っておくぞ。さっき啓示を受けたといったがその相手は神だ。……家町、神は存在するぞ」
家町総理は思わず腰を浮かせた。
「そしてナツはその気になれば一人でこの世界を滅ぼすような力を持っている。これはブラフじゃない。過去に神の啓示を受けた人間が愚かな争奪戦でこの世から消されてきたことに怒り、とてつもない能力を授けたんだ」
家町総理は改めて腰を沈める。
その表情は真剣そのものだ。
「オレと一ノ瀬アキはその力の一部を譲譲り受けた。ほんの一部だがね。でもおそらくだがオレだけでもひと月あれば世界を獲れる。ナツならそうだな、3時間でお釣りが来るだろう。それほどの力だ」
家町総理はさらに真剣な顔でその言葉をしっかりと飲み込んでいる。
「誤解するなよ。これはお前を脅してるんじゃない。お前がもし仕切れない人間や国があるとするならばそいつらに向けて言っている言葉だ」
家町総理は立ち上がり改めて宣言する。
「ありがとうございます先輩。とっくに覚悟を決めていたつもりでしたが、おかげでそれは断固たるものになりました。どうか力を貸してください」
家町総理は深々と頭を下げるのだった。




