準備(四戦目)
国後島は最後まで作戦が決まらなかった。
ともあれ現地は見ておかないといけないのでオレが一人で見に行くことにした。
アキは心配したが、いざという時には一人のほうが動きやすいので我慢してもらった。
まずは根室に転移する。
もう日本にはほとんどのエリアに転移スポットを用意してある。
転移するポイントを忘れないように写メとデータを保存しているから忘れっぽいオレでも大丈夫だ。
そこからは飛行スキルで国後島へ向かうことになるのだが、国後島は北海道の本島からほんの16キロしか離れていない。
ここをロシアに占拠されているっていうのは怖いことだよな。
てか、ここをロシアの領土だっていうのはかなり無理があるだろ。
「とりあえず認識阻害はマックスだな」
考えた末に決めた作戦は「高速移動」だ。
カメラに映るとて、超高速ならモニターで視認できないだろうっていう考えだ。
レーダーはさすがにこのサイズは対象じゃない(と思いたい)。
なんにしても視認できないようにスピードで動けば大丈夫だ(と思いたい)。
「よし行くか」
本気で高速移動したら音速を軽く超える。
さらに能力解放を10%まで上げて国後島に突入した。
歪みのポイントは……やはり軍事施設のど真ん中だ。
超高速で行き交いながら眼下を調べる。
マズイな。
建物も歪みのエリアに含まれている。
マップによる一斉撃破はかなり厳しい。
時間停止からのゾンビの強制移動を仕掛けるにも基地内では難しいだろう。
となるとゾンビバレは防げない。
軍事施設だから武器もある。
きっと人類が勝つだろうが、初動にもよるのか。
日本ならとにかく保護しようとしてゾンビが蔓延してしまうのが目に見えているが相手はロシアだ。
問題無用で対応して無事にゾンビ被害を免れるのかもしれないな。
警戒サイレンは鳴らない。
認識阻害をかけた超高速移動なら支障はなさそうだ。
目視で転移に適した場所をマーキングしていく。
そのあとは用意しておいたロシア語で書いた注意喚起の手紙をバラまいてから自宅へ帰還した。
―――――――
自宅へ転移するとみんなが待っていた。
「どうだった?」
「軍事施設がど真ん中にあった。あれは無理だ」
「国後島を後回しにするのは本決まりだな」
「師匠もそう思う?」
「施設内にゾンビが湧くならバレずに殲滅するのは無理だろう。なら『見』もアリだ。無理に参戦するほうが敵に見なされて危ない」
「危険すぎるよ。ダメだよ!」
アキは断固反対のようだ。
「まあナツくんは撃たれてもなんともないけどね♪」
「そうなの?」
「大砲でも爆弾でもキズひとつ付けられないわ♪」
「そうなんだ。すごいな」
「言っておくけどアキちゃんと師匠も同じだからね♪」
「「「まじ?」」」
「大マジよ♪」
オレはもちろんだけど二人もそのレベルなのか。
それは安心材料だ。
「とりあえず手紙はばら撒いておいた」
ロシア語で、『21時にゾンビ大量発生。これは訓練ではない。躊躇なく殲滅せよ』と書いた手紙をすべての入口に置いてきたのだ。
「信じないだろうが基地内に手紙が置かれたとあれば完全に無視はできないだろ」
「きっと大丈夫♪」
「認識変更でロシア兵に変装するとかもできるけど、時間のロスももったいない。最初の想定通り、国後島はロシア軍に任せる。最後に必要に応じて応援を検討するよ」
「それでいいと思うぞ」
「私はここで待つしかないね」
思い詰めた表情で旭川さんが呟く。
「終わったらすぐ連絡するからな」
抱きしめる師匠。
おい、またキスしようとしてるだろ。
「まだ時間はありますから。部屋でお願いします」
二人は手を繋いで自分たちの家へ。
ほんまに行くんかい。
一旦引き止めて話を続ける。
「京都と青森には付いていくからね」
「わかってる。ありがとうな」
「青森からは自分のジッパーで戻ってくれ」
そう、アキは自宅に転移できるジッパーを持っている。
同じものは師匠と旭川さんにも渡している。
旭川さんはまだ魔力覚醒前だけど、この転移ジッパーは誰でも使える。
オレたちと違って収納はまだ使えないので、やたら長いジッパーをカバンに持ち歩いてる不思議な人になってしまうけど。
ファミリーがいつでも緊急帰還が可能なのは便利だ。
「ナビィ! 仲間のアイテムボックス間なら移動できるんだよな? 今回のグループミッションには活躍してもらうぞ」
「任せてー♪」
「師匠、ナビィが言うにはオレたちは仮に噛まれてもソンビ化はしないらしい。てかそもそも師匠を噛めるようなモンスターがいないってさ」
「うむ」
「返り血も気にしなくていいけど気分的にキツいだろ。動きに妨げにならないならレインコートみたいなやつでも用意しておこうか?」
「確かにゾンビの体液を浴びるのは嫌だな」
「透明のカッパ……いや動きにくいか。逆にラバー製のピッタリしたやつのほうがいいかもな」
「ぬ?」
「―――(クリエイト)よし、これどう?」
渡したのは頭まで覆った全身スーツだ。
スパイダー男みたいな感じだな。
色は汚れが目立たない黒だ。
「おい」
「でも動きやすさを重視するならこれしかないよ。嫌ならゾンビ液まみれだぞ」
「ぐぬぬ」
そこに旭川さんが予想外の感想をぶち込んだ。
「えー! 仁桜さんかっこいい! スーパーヒーローみたいですぅ!!」
「え? そうか! ひかりが気に入ったんならこれで行くぞ!」
ひかりさんがこちらを見てニヤリと笑っていた。
ナイスアシストです。
親指を立てて返事をしておいた。
さあ準備は整った!
四戦目だ!




