団体戦
団体戦が始まる。
抜き試合で行われる王龍旗とは違い、こちらは普通の団体戦。
5人で一試合ずつ、先に三勝したほうが勝ちとなる。
あるいは勝ち越しで勝利だ。1-0での決着なんてのも当たり前にある。
そしてこのチームの基本的な作戦は「負けないこと」。
大将までイーブンで繋げば絶対に勝てることがわかっているのでシンプルだ。
負けなければ、勝てるのだ。
実は剣道は引き分けは多い。
実力差があっても決めきれないことは普通によくある。
それだけ守りに入られると「心・技・体」が揃った一本を取るのが厳しくなるのが剣道という競技だ。
だが引き分けは狙うと失敗する。
時間を空費させたり、故意に鍔迫り合いを長くすると反則となり、それは二回で一本となる。
それももちろんあるのが、不思議と剣道の引き分け狙いはなぜか失敗するんだよな。
勝ちにいっての引き分けは多いんだけど本当に不思議だ。
なので、引き分け狙いは厳禁で、勝ちに行く上での「負けない」がオレたちの目指すところである。
そして――。
オレたちは順調に勝ち進み、ついに決勝まで進むことができた。
これまでの団体戦最高位はベスト4だ。
やっと決勝までたどり着くことができた。
男子の前にまず女子の団体決勝が行われた。
常勝中村学校の前に並んだのはなんとアキたちだった。
ここまでベスト8止まりだったのがついにその実力とミラクルを発揮したのだ。
結果は――準優勝だった。
ずっと先鋒だったアキは最後に大将を任された。
残念ながら、大将戦の前に勝負は決していたが、個人で惜敗した絶対王者からアキは二本を取って勝利した。
最初から圧巻。
個人での負けを取り返さんと気迫が常に相手を上回っていた。
この試合は素晴らしかった。
アキ、本当に感動したぞ!
次は男子決勝だ。
つい先日の王龍旗で三連覇を成し遂げ、世界最強の呼び声高いオレ、江之島ナツを擁する国土舘高校が、ついに初めてインターハイの決勝に進んだとあって場内の熱気はとんでもないものとなっていた。
そして決勝戦が始まった――。
相手は王龍旗以外は負け知らずのチャンピオンチームである福岡の超強豪だ。
先鋒、次鋒が引き分ける。
中堅はよく粘ったが一本取られて負けた。
そして副将の篠田が出る。
相手は本来なら大将で出る選手である。
オレを相手にするよりも確実に1勝を取りに来たというわけだ。
負ければ終わり。
オレの試合は消化試合となる。
勝つためには悪くない作戦であるが、篠田を舐めるなよ。
こういう時こそやる男だ。
――一進一退の攻防の末、篠田は根性で引き分けた。
館内が大きくどよめく。
これは勝利を決定づけた、とてつもなく大きな引き分けであるとみんなが知っているからだ。
中堅に一勝取られているが篠田が引き分けた時点でウチの優勝は決まったようなものだった。
大将のオレが二本取れば勝利数は同じでも総本数で上回るので内容でウチの勝ちになる。
仮に一本しか取れなくても代表戦になり、オレが出るのでウチが勝つ。
結果、二本連取で優勝が決まった。
みんなが必死で繋いでくれたんだ。
負けるはずがない。
二本目に逆胴を決めて残心をしっかり取る。
旗が3本上がり、大きなどよめきとともに館内を万雷の拍手が満たしていく。
こみ上げる思いをぐっと飲み込みながら開始線に戻り蹲踞。
竹刀をしまい、一礼。
その後、全員で並び礼。
試合場を降りてようやく感情が爆発する。
涙が止まらなかった。
全員で泣いた。
初めての、嬉しい涙だった。
旭川さんのインタビューでも感極まったオレは途中から号泣してしまい、それを見た旭川さんもずっと堪えてくれていたけれど、最後はもらい泣きしてしまい、前代未聞の二人号泣インタビューになった。
めちゃくちゃバズってた。
そのあとは延々と取材が続いて、宿舎に戻れたのは21時ギリギリだった。
王龍旗とインターハイを揃って勝つのは「夏の二冠」と言われる最大の成果。
さらにオレはインターハイ自体でも個人・団体の二冠を取れたのでインターハイにおける二冠。
いわばダブル二冠だな!
そこにアキの活躍も重なって、エンタメ界も巻き込んだ過去最大クラスの剣道フィーバーが日本中で巻き起こった。
当日は例年通りにインターネット配信をしていたのだが比較にならないほどの過去最高のアクセス数となり、あやうく回線がパンクしそうになったそうだ。
その日のスポーツニュースもいつもはあまり扱わない剣道をメインに取り上げてくれた。
翌日のワイドショーも同じく。
さらにミーハーな目線でオレたちのことを取り扱ってくれた。
未来の剣道界を背負うスーパー高校生の快挙に全日本剣道連盟もおおいに沸き立ち、江之島ナツが日本を席巻したこの日を分岐点に、これまで鎖国状態だった剣道界も改革、開放に進むことが決定した。
時は戻ってその日の夜。
宿舎に戻って、まずはみんなで改めてお祝いだ。
国体選抜に選ばれたオレと篠田以外はここで引退となる。
チームの最後を最高の形で飾れることが出来たのは心から嬉しい。
日付が変わるまで続いた祝賀会では、オレは最初から最後までずっと泣いていた。
篠田にからかわれたけど、篠田も泣いてた。
だって感動したんだよ。
「絶対に負けない」を実際に体現するのは本当に大変なことだ。
大将に回すまで負けていいのは一回だけ。
取られていい一本の本数差は二本まで。
日本一を賭けた戦いの中、屈指の強豪を相手にそのギリギリを成し遂げた仲間たちは本当にすごい。
「ナツに繋ぐ」
「ナツに託す」
そう口にしながら試合に向かう彼らをオレは見送ることしかできず。
副将の篠田が、見事に引き分けて戻ってきたときに面越しに見せた顔は一生忘れない。
「役目は果たしたぜ。仕上げは頼んだ」
オレの勝利を信じて1ミリの疑いもしなかったあの顔。
オレへの絶対的な信頼の上に成り立っていた絆に身体中が震えたのを覚えている。
ありがとうな。
本当におまえらと一緒に剣道ができて幸せだったぜ!
―――――――
「楽しかったのになあ」
「楽しかったのにねー」
「なによ♪」
「オレはこのまま剣道部物語を続けていたいんだよ」
「次は国体編、そのあとは世界剣道編だね」
「次はモンスター編だよー♪」
「もうモンスター来なくていいよ」
「ペースアップするんだよー♪」
「どうなっちゃうんだろう」
「剣道だけに集中したいのになあ」
アキにはナビィの声が聞こえないのでたまに通訳が必要だけど、三人での会話もなんとなく回るようになってきた。
で、オレの家に集まってこの先の作戦会議中である。
両家のリモート顔合わせは先週無事に終わってる。
両家同意のもと、江之島家へのお泊りもオッケーが出た。
ダラダラとなし崩しにはしてはいけないので同棲は大学生になってから。
今は通い同棲みたいな状態になっている。
たちの悪いメディアがたまに張っているので、アキがウチに遊びに来るときは認識阻害を強めにかけている。
アキには遠隔でもかけられるようになったのでかなり便利になった。
「転移ができれば楽なのにな」
「お父さんたちに話すわけにもいかないよ」
「オレは家族には伝えてもいいと思うけど」
「なにがあるかわからない。ナツくんの能力バレは嫌だ」
今日集まったのは朝、モンモニのアラートが鳴ったからである。
今回歪むエリアは3か所。
仙台、横浜、高知で時間は明日の21時。
これで毎回ひとつずつエリアが増える可能性がほぼ確定になった。
「さすがに歪む場所が増え続けていくのは困る。どこかで手が回らなくなるぞ」
「確かにね。これは問題だよね」
実は対策案はある。
それは「譲渡」だ。
これは能力譲渡で、つまりアタッカーをもう一人増やすことができる。
となれば能力を授ける相手はアキということになるのだがそれは絶対に考えられない。
この考えはナビィにも絶対に言うなと厳命している。
言えばアキは必ずやるというのが分かっている。
彼女をモンスターと対峙させるのだけは絶対に出来ない。
気持ちを切り替えて話を進める。
「まずは歪みの起きる場所の把握。そのあとは強制転移の有効距離を調べたいんだ。ゾンビを飛ばす場所がそれぞれに必要なのか、一カ所だけで済むのか」
「うん♪」
「いずれ認識阻害みたいに遠隔で強制転移もできるようになればいいのにね」
「そもそもマップなしでは一斉選択が無理だからな。ちょっと厳しいかもしれない」
その他の作戦は前回と同じだ。
さあしっかりと備えよう。




