個人戦
奈良に転移で戻る。
しれっと歩いて宿舎に戻り、監督に帰舎したことを伝えた。
アキに戻ったことを伝えたら、さっそく屋上への呼び出しがかかったので転移。
アキをピックアップして自室に戻った。
「おかえりー! 無事でよかったー!」
「心配かけてごめんな。10秒もかからずに終わったよ」
「うん、よかった! ん? その割には遅かったね」
「ああ、帰ってもごはんがないから熊本でラーメン食べてきたんだ」
「そうだったんだね」
「あ、ラーメン屋さんで王龍旗でインタビューしてくれた人! そう、旭川さんにばったり会ったんだ」
「日本一美しい剣道家!」
「そうそう。流れでおごってもらえた」
「へー。あんな美人とディナーしてたんだねえ」
「おいおい、ディナーて。ラーメンだからな」
「日本一美しい方とねえ」
「だーかーらー」
「嘘だよ。ナツくんは私だけのものだからね!」
「その通りだよ」
そう言ってしっかりハグをする。
はー落ち着く。
「こんなかわいい彼女がいてよそ見してる暇なんてないっての」
「ふむ。なら許そう」
「あーこのまま一緒に寝たいなあ」
「本当だよ。早くお泊りしたいなー」
お母さんたちからはお泊まりは北海道の両親に挨拶してからだと言われている。
インターハイから帰ったらリモートでの顔合わせをする予定だ。
うちの両親もとっくにその気でいるが、こういうのはきちんと家族ぐるみのお付き合いをスタートさせてからというのがいいらしい。
「待ち遠しいね」
「うん」
そのまま10分ほどくっついてから屋上へと転移してアキを部屋まで送り届けた。
明日は開会式だ。
身体は元気だけどとりあえずいろいろ頑張ったし今日は早く寝よう。
とにかく良かった!
―――――――
翌朝。
剣道のインターハイ会場になっている体育館で開会式に出る。
今日はこれだけなので早々に体育館を出て宿舎に戻ることにしたが、帰り際に旭川さんが声をかけてくれた。
「あ、旭川さん! 昨日はごちそうさまでした!」
「どういたしまして」
「あ、紹介しますね。同じ剣道部の一ノ瀬アキです」
「もちろん知ってますよ。一ノ瀬さん初めまして。旭川ひかりです」
「同じ剣道部で『ナツの彼女』の一ノ瀬アキです」
おいおい。
タレントとはいえメディア側の方にこっちから宣言するんかーい。
「……あの、私だからよかったけど、あんまりメディアにはそういうことを言わないほうがいいよ。二人は注目されてるからね」
「そうだよアキ」
「うぅ。ごめんなさい」
「自慢の彼だもんね。言いたくなる気持ちは分かるけどね笑」
しょんぼりしているアキをかわいい妹でも見るように笑っている旭川さんはやっぱり大人だな。
「旭川さんがあまりに美人さんだからつい威嚇してしまいました」
「ありがとう笑」
「旭川さん、開会式にもいらしてたんですね」
「うん。あ、そうそうこれ。昨日ラーメン屋さんに忘れていったみたいよ」
「あ!」
手渡されたのはオレのタオルハンカチだった。
「お店の人が追いかけて持ってきてくれたの。別れたあとだったから受け取っておいた」
「わざわざすみません」
「私も急いでナツくんを追っかけたんだけどさ。追いついたと思ったら突然いなくなっちゃったのよ」
やべ。
転移した時だな。
チラリとアキと顔を見合わせる。
ヤバい。マップ見なかったかも。
「え、えー、そうだったんですね。なんかごめんなさい」
「煙のように消えちゃったからびっくりしたよ」
「け、煙のようにってまた大げさな」
「急に消えたんだよ。イリュージョンかと思った」
「そんなわけ……」
「ないよねぇ。まるで魔法みたいだったよ」
ヤバいな。
結構しっかり見られたのかもしれない。
どこか納得してないような表情だがまあ知らんぷりするしかない。
「じゃ明日から頑張ってね。優勝インタビューができるのを楽しみにしてるね」
「はい! 頑張ります!」
「彼女のアキさんもね!」
「あ、はい!」
旭川さんは待っていたスタッフの方へ向かって去っていった。
「転移見られてんじゃん」
「危ないとこだった。夜だったし誰もいないと思ってたよ」
「私も気をつけなきゃ。それにしてもやっぱりタレントさんだよねえ。美しすぎた。ついマウント取りにいっちゃったわ」
「メディアにバレたら面倒だぞ。隠すことじゃないけど、わざわざ言うことでもない」
「ごめん、気をつける」
二人で歩いて宿舎へ。
今日は前日なので練習は午後から軽いものしか組まれてない。
「明日は女子の団体戦と男子の個人戦だ。がんばろうな」
「お互いにね」
―――――――
個人戦はもちろん圧倒。
すべて二本連取で勝ち抜き、ベスト8が決まる。
団体戦はまずは予選として3チームの総当たり戦が行われる。勝ち抜いたチームが決勝トーナメントに進出する流れだ。
アキたちも無事、予選を突破した。
「よし、事故なく進めたな。明日は女子の個人戦と男子の団体だ。しっかり休んで備えておけ」
「「「はい!」」」
翌日。
女子の個人戦、アキはベスト8入りをなんなく決める。
調子が良さそうだな。
今回は優勝もありえそうだ。
男子団体戦も予選を突破。
ここまでは順調だ。
そして最終日。
午前中に個人戦が行われる。
男子はオレが優勝。
最後まで二本連取で圧倒した。
アキは残念ながら準優勝。
一年生ながら大健闘ではあるが本人は全く納得していなかった。
相手は常勝軍団である中村学校の大将でオレたちと同じく世界剣道の強化選手に選ばれている有名な選手。
序盤、アキが面を決めて先行するも、終盤間際に小手を決められて延長へ。
その後は膠着し、3回の延長の末、またも小手を決められて決着となった。
絶対強者を追い詰めたのは見事。
でもこの負け方は悔しいだろうな。
帰ったらゆっくり話を聞いてあげよう。
そのあとは会場で旭川さんのインタビューを受ける。
約束が守れてよかった。
「団体戦でもここで会えるのを期待してます」
旭川さんのエールを受けてインタビューは終了。
午後の団体戦が始まる。
ここが勝負だ!




