家族
翌日から剣道漬けの生活が戻ってきた。
もちろん夏休みなど関係なく、朝、昼、夕方の三部練。
土曜からは奈良でインターハイだ。
ひととき、インターハイには行けないかもしれないと感じたこともあったが、その後、歪みは起きなかった。
神様の言っていた「歪みのペースアップ」は思っていたよりスローペースなのかもしれない。
連日、厳しい練習をこなしつつ、夜は転移エリアの開発と魔力トレーニング。
淡々とこなせたのは剣道家体質もあるが、なによりアキが毎日元気をくれるからだ。
部員にも交際を伝えたがみんないずれそうなると思っていたようで普通に受け入れてくれた。
夏休み明けにこのことが広まればそれぞれのファンクラブが解散すると思われるがまあそれはそれだな。
マスコミに知れ渡るのがちょっと面倒だけど、そこは全剣連の安倍さんになんとかしていただくしかない。
奈良には明日金曜に前乗りするので、今日は久しぶりのクールダウンで部活はオフだ。
ということで、アキの家に招かれている。
緊張してインターホンを押すと、笑顔でアキが出迎えてくれた。
続いてお父さん、お母さん、弟が玄関に揃う。
ご両親はめちゃくちゃ笑顔だが、弟くんはつまんなさそうな顔だ。
姉のことが大好きだと聞いていたから、取られた気がしてるんだろうな。
気持ちはわかるぞ。
オレが弟なら全力で阻止するからな。
リビングに上がって手土産を渡すとお母さんから「高校生がそんな気を使わなくていいのに」と言われた。
「いえ、北海道の両親にご挨拶のことを言ったら手土産の銘柄まで指定されました」
買ってきたのは京都のお饅頭だ。
なんで京都やねんと思ったがめちゃくちゃ美味しいからこれにしろと厳命された。
確かにオレも大好きなのだが、消費期限が短いうえに、東京で買える場所も少なく、しかも数量限定だったので大変だった。
文句を言ったら「適当に買うなんてあり得ない。探して買うのが気持ちなんだ」と叱られた。
むう。その通りだよ。
確かにみんな喜んでくれたし、手間暇かけて探したことも言わずとも伝わった。
おかげでスタートは良好だ。
ありがとうな、親父、母さん。
手こずったのは弟のハル。
中学1年生という微妙なお年頃で、そもそも思春期真っ盛りに大好きな姉が彼氏を連れてきたのだからな。
お察しします。ごめんな。
でもハル、ナツ、アキだし。
名前が季節繋がりだぞ。
加えてハルくんも小さい頃から剣道をしているので共通の話題もある。
みんなで話しているうちにだんだんと打ち解けてきた。
「え、肩甲骨?」
「そうだよ。ナツくんに教えてもらったら剣先が安定して走るようになった」
「イメージできないよ」
「ちょっと庭でやってみるかい?」
「え」
「よかったなハル! 日本一の選手に教わるチャンスなんて貴重だぞ」
乗り気ではなかったようだけど、お父さんの後押しもあり、庭で稽古することになった。
―――――――
「すげえ! めちゃくちゃ走る!」
「だろ。つい手先に力を入れがちだけど始動は背中なんだよ」
「なるほど」
「飲み込みが早いな。さすがアキの弟だよ」
「う、うん」
「あとは足さばきだ。剣道で大事なのは下半身だからな」
「うん」
「踏み込みにもコツがある。左足で押し出すことと、その時に腰をイメージすること」
「腰?」
「ハルくんの踏み込みはかなり速い。けど上下にブレてるからその分、推進力が落ちてるんだ。もったいないぞ」
「そっか」
「左足で腰を押し出す感じだよ。その時に上下の動きを抑えることをイメージしてごらん」
「うん!」
何度か動きを試してどうやらコツを理解したらしい。
「ここ、庭だからな。道場ならもっと速くなるぜ」
「ほんと? 早く試してみたいなあ!」
「さっきと全然違うぞ。自分でも驚くはずだ」
「ありがとう!」
「おう!」
「……あの、また教えてほしい。今度は道場で」
「もちろんだ。今度、部活に顔出そうか?」
「ええ! いいの!?」
「オレはOBだからな。監督は近藤先生だろ? インターハイ終わったら稽古に行くって伝えておいて」
「マジか! 日本一の江之島ナツが来るって聞いたらみんな喜ぶぞー!」
「それはうれしいな」
「でもみんなも強くなっちゃうなあ」
「……ハルくん、剣道は相手あってこそだ。相手がいないと剣道はできないし、相手が強くなれば自分も強くなれる。自分が強くなれば相手も強くなる。その繰り返しなんだよ」
「……!」
相手をリスペクトしろなんて言葉で言われてもピンと来ない。
リアルで気づいてこそだよな。
「あのさ。……ナツ兄って呼んでいいかな」
「もちろんだ。オレもハルって呼ぶからな」
「えへへ。ナツ兄、姉ちゃんをよろしくね」
おっと。
ここは男と男の約束だな。
「男同士の約束だ。ハルの姉ちゃんは絶対にオレが守るよ」
オレは一人っ子だ。
弟ができたみたいで嬉しい。
ハルの兄貴として恥ずかしくない男にならないとな。
手を差し出して握手する。
頭を撫でたら恥ずかしながらも嬉しそうに抱きついてきてくれた。
ふと見るとご両親とアキが嬉しそうに泣いていた。
なんだろ。
もう家族みたいだな。
なんて幸せな日だろう。
リビングに戻りみんなでくつろぐ。
王龍旗や週末のインターハイのことなど、剣道の話はつきることなくみんなで楽しく過ごすことができた。
楽しいな。
モンスター騒動なんて嘘みたいだ。
このまま何も起きなければいいのにな。
――それがフラグだった。
突然、腕につけていたモンモニが激しく反応したのだった。




