4 婚約者
ソフィアはアルバートと二人で、ガゼボでお茶をしていた。
お茶を飲みながら、花を眺めているフリをしながら、ソフィアはアルバートのことをチラチラと見やっていた。
彼は、のんびり「風が気持ちいいな」とまったりしながら口にして、その様子にソフィアは少し顔をしかめた。
つい先ほどのことである。
ソフィアの新しい婚約者が決まった。
目の前にいるこの人である。
この人は、養子なのだ。兄ではあるが一人っ子のソフィアを補佐するためにもらわれた後から出来たお兄様。
それがアルバートである。
そんな彼は、父からソフィアの配偶者にならないかと言われてこう言った。
『優しくてかわいいソフィアを支えられるなら、喜んで』
その言葉はまぁ、引っかかる。
「……お兄様」
「ん? なに」
「……良かったんですの。父の話をあんなふうに了承して……」
ソフィアは少し不満げな声を出して問い掛けた。
養子として手厚く遇した恩返しでも、領地のためや地位のためでもなく、彼はソフィアのためだと言ってのけたのだ。
そう言われるとソフィアはさすがに言わざるを得ない。
「わたくしはね、お兄様、かわいげも無いし優しくもありませんわ。……後悔するのではないかしら」
「……」
セドリックの代わりにそばにいて、時には話を聞いてくれるアルバートはもう立派にソフィアの家族だ。
そんな彼を、善人の仮面をかぶっただけのソフィアと結婚させて不幸にはしたくない。
アルバートはきょとんとした顔をしている。
「セドリックのことだって……」
「そうかな。君は優しいし、かわいいけど」
「……だから――」
一から十まで説明して、アルバートに考え直してもらおうと口を開いたが、話をかぶせられてソフィアは黙った。
「かわいいより美しいかな、気高いみたいな? 猫ちゃんみたいで。それに私は君が元婚約者のことを許していないのぐらい知ってる」
アルバートは、気さくにクスリと笑った。
「でも、私は君を優しいと思うよ。君は簡単に切らずに、言葉を尽くして、時間をかけて……思い悩んでもいただろ?」
「たしかに、思い悩んでいたときもあったけれど……わたくしがあなたにそのことを相談したのは随分前ですわ」
「覚えてるよ。なんせ君の兄なんだし。今度こそ、と約束して裏切られても涙を堪えて、それでもまた謝罪を受け入れてあげる君は、優しいしかわいいよ、守りたいと思うぐらい」
風が吹く、アルバートの髪をさらって、少し揺らした。
ソフィアは男性にそんなことを言われるのは初めてだった。
つい、難しい顔をして、喜んだらいいのかそれとも、真に受けない方がいいのかわからなくて、視線をそらした。
「…………」
「優しくされると困るのもかわいいよ」
いいながらアルバートは向かい合っているソフィアの方へと手を伸ばしてそっと頬に触れる。
さらりと頬をなでる手が心地良い。いつもそばにいてエスコートしてくれた彼の手が好きだ。
その言葉だって嬉しい。けれど、こんなに甘い言葉を受け入れていいのかまだわからない。
いつか、素直に受け入れられる日が来るだろうか。
チラリとアルバートを見ると、変わらない笑顔で受け入れられないソフィアを急かすこともない。
その笑顔を見て、彼とならばきっと大丈夫だろうと思えたのだった。




