だれ
悠馬と、何度か会った。
パーティーの数日後、食事に誘われた。
行った。
ごはんを食べて、映画を見て、夜景を見た。
悠馬はいつも、いい店を選んだ。
いい服を着ていた。
いい車に乗っていた。
悠馬と並んで歩くと、視線を感じた。
羨む目だった。
それが、気持ちよかった。
悠馬は私を、アクセサリーにしたかったんだろう。
私も、悠馬をアクセサリーにしていた。
悪くない。むしろ、清潔な関係だと思った。
欲しいものが、最初からわかっている関係だから。
---
「真白さんって、何考えてるかわからないときある」
三回目のデートの帰り道、悠馬が言った。
「そう?」
「うん。笑ってるけど、なんか、遠い感じがするときがある」
笑えた。
「考えすぎだよ」
笑ってそう言ったら、悠馬は少し、傷ついた顔をした。
アクセサリーが、感情を持つな、と思った。
思ってから、私も同じだと思った。
---
四回目、夜景の見えるバーだった。
グラスを傾けながら、悠馬が言った。
「真白さんのこと、もっと知りたい」
「たとえば?」
「全部」
私の全部を知ったとき、悠馬は何を見るんだろう。
計算して作った顔を。
投資と回収で考えてきた美しさを。
「好きな食べ物とか」
「ラーメン」
「意外」
「そう?」
悠馬が笑った。私も笑った。
全部知りたいと言いながら、ラーメンで意外と言う。
全部、なんて、たいしたことない全部だった。
帰り道、手を握られた。
温かかった。
うれしいか、と自分に聞いた。
悪くない、と思った。
握り返した。
---
家に帰って、スマホを開いた。
悠馬からLINEが来ていた。
『また会いたい』
『また会おうね』
そう送って、なんとなく、悠馬のインスタを開いた。
海外出張の写真。ビジネス系のイベント。たまに友人との食事。
それなりに、作っている。
でも、私ほどじゃない。
適当にスクロールしていたら、指が止まった。
タグ付けされた、別のアカウントの投稿だった。
悠馬が映り込んでいた。
明らかに、親しい距離だった。
私の見たことのない表情をしていた。
慈しむような、愛おしいような目線を。
ああ、本命なんだな。
直感した。
べつに関係ない、とも思った。
でも指が、そのアカウントをタップしていた。
honoka。
投稿32枚。フォロワーは427人。
最初の一枚を見た。
ピントが甘い写真だった。
閉じようとした。
閉じなかった。
もう一枚、見た。
また、もう一枚。
空の写真。
家族との集合写真。
猫の写真。
友達との旅行。
雨の窓。
誰かの手。
全部、盛っていなかった。
全部、計算がなかった。
全部、なんでもない写真だった。
なんでもない写真なのに。
スマホを持つ手が、少し、熱かった。
気づいたら、十枚、遡っていた。
ただ。
もう一枚、見た。




