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サンドリヨン・コンプレクス  作者: 三浦 蝶形骨
2/6

通貨

バズった翌週から、変わった。

どんな投稿にもある程度いいねが付くようになった。

計算された私の写真は、やっぱり何度でもバズった。


それに、DMの質も変わってきた。

気持ち悪い男たちのDMは相変わらず来ていた。

でも、それとは別に、違う種類のメッセージが届くようになった。


『コンテンツクリエイターとして活動しているAyanaといいます。よかったら一緒にコラボしませんか』

『PR案件のご相談です。ブランドのアンバサダーとして』

『撮影のお仕事に興味ありませんか』

数字が、形を変えて、戻ってきていた。


Ayanaと会ったのは、バズった一か月後だった。

表参道のカフェだった。


向かいに座ったAyanaは、きれいだった。

でも計算が見えた。


笑顔の角度。

リップの選び方。

常に視線を意識した姿勢。

全部、わかった。


「真白さんのあの写真、鳥肌立ったんですよ」


同じ側の人間だった。


「ありがとうございます」

そう笑って返した。


話しながら、思った。

この子は私を使いたいんだろう。

バズった写真の横に自分を置いて、数字を分けてもらいたいんだろう。

悪いとは思わなかった。

私も、同じように考えるから。


コラボ投稿は、思ったよりバズった。

元、地下アイドルらしく、フォロワーはそれなりにいた。

Ayanaのフォロワーが、私のアカウントに流れてきた。

私のフォロワーが、また増えた。

数字が積み上がった。

指先が、また少し、痺れた。



その月から、いろんな人と会った。

フォロワー八万人のライフスタイル系インフルエンサー。

事務所に所属していない俳優崩れのモデル。

ブランドのPR担当者。

撮影して、投稿して、数字を確認する。

それだけのことを、繰り返した。


居心地は、悪くなかった。

「ようやくか」とも、もう思わなかった。


PRの仕事を、二本受けた。

スキンケアブランドと、アパレルブランド。

どちらも、条件は悪くなかった。

なにより、自分の価値を理解してもらえてるようで良かった。



ある夜、投稿のいいねを眺めていて、ふと手が止まった。

この数字は、誰を見ているんだろう。


部屋が静かだった。

エアコンの音だけが聞こえていた。


作った私を、見ている。

計算した私を、見ている。


それは、私なのか。


スマホの画面が暗くなった。

また点けた。

数字は、増えていた。


---


悠馬と会ったのは、その月の終わりだった。


ブランドのPRパーティー。

六本木の、天井の高いホールだった。

電球がたくさんついているのに、ホールは明るくなかった。


インフルエンサーと、スポンサー企業の担当者と、メディア関係者が混ざり合う、そういうパーティーだった。


悠馬は、向こうから来た。

「真白さんですよね。インスタ、見てます」

笑い方が、綺麗だった。


こちらを見る目が、値踏みしていた。

でも、嫌じゃなかった。


「ありがとうございます」

笑って、言った。


「IT系のスタートアップやってるんですけど、コラボとかお願いできたりしますか」

名刺を渡してきた。

代表取締役、と書いてあった。

二十代後半くらいに見えた。


若い経営者。

顔は整っている。

話し方が綺麗。


テーブルを挟んで少し話して、だいたいわかった。

育ちがいい。

自分に自信がある。

女慣れしている。



「真白さんって、もっといろんな仕事できると思いますよ」


そこで初めて、私は悠馬の顔をちゃんと見た。

目が、笑っていなかった。

口元だけが、笑っていた。


連絡先を交換した。


帰りのタクシーの窓に、自分の顔が映っていた。

完璧だった。

ビルの明かりがぼんやりと見える。

さっきの悠馬の目のことを、なぜか少し考えた。


それから、考えるのをやめた。

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