通貨
バズった翌週から、変わった。
どんな投稿にもある程度いいねが付くようになった。
計算された私の写真は、やっぱり何度でもバズった。
それに、DMの質も変わってきた。
気持ち悪い男たちのDMは相変わらず来ていた。
でも、それとは別に、違う種類のメッセージが届くようになった。
『コンテンツクリエイターとして活動しているAyanaといいます。よかったら一緒にコラボしませんか』
『PR案件のご相談です。ブランドのアンバサダーとして』
『撮影のお仕事に興味ありませんか』
数字が、形を変えて、戻ってきていた。
Ayanaと会ったのは、バズった一か月後だった。
表参道のカフェだった。
向かいに座ったAyanaは、きれいだった。
でも計算が見えた。
笑顔の角度。
リップの選び方。
常に視線を意識した姿勢。
全部、わかった。
「真白さんのあの写真、鳥肌立ったんですよ」
同じ側の人間だった。
「ありがとうございます」
そう笑って返した。
話しながら、思った。
この子は私を使いたいんだろう。
バズった写真の横に自分を置いて、数字を分けてもらいたいんだろう。
悪いとは思わなかった。
私も、同じように考えるから。
コラボ投稿は、思ったよりバズった。
元、地下アイドルらしく、フォロワーはそれなりにいた。
Ayanaのフォロワーが、私のアカウントに流れてきた。
私のフォロワーが、また増えた。
数字が積み上がった。
指先が、また少し、痺れた。
その月から、いろんな人と会った。
フォロワー八万人のライフスタイル系インフルエンサー。
事務所に所属していない俳優崩れのモデル。
ブランドのPR担当者。
撮影して、投稿して、数字を確認する。
それだけのことを、繰り返した。
居心地は、悪くなかった。
「ようやくか」とも、もう思わなかった。
PRの仕事を、二本受けた。
スキンケアブランドと、アパレルブランド。
どちらも、条件は悪くなかった。
なにより、自分の価値を理解してもらえてるようで良かった。
ある夜、投稿のいいねを眺めていて、ふと手が止まった。
この数字は、誰を見ているんだろう。
部屋が静かだった。
エアコンの音だけが聞こえていた。
作った私を、見ている。
計算した私を、見ている。
それは、私なのか。
スマホの画面が暗くなった。
また点けた。
数字は、増えていた。
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悠馬と会ったのは、その月の終わりだった。
ブランドのPRパーティー。
六本木の、天井の高いホールだった。
電球がたくさんついているのに、ホールは明るくなかった。
インフルエンサーと、スポンサー企業の担当者と、メディア関係者が混ざり合う、そういうパーティーだった。
悠馬は、向こうから来た。
「真白さんですよね。インスタ、見てます」
笑い方が、綺麗だった。
こちらを見る目が、値踏みしていた。
でも、嫌じゃなかった。
「ありがとうございます」
笑って、言った。
「IT系のスタートアップやってるんですけど、コラボとかお願いできたりしますか」
名刺を渡してきた。
代表取締役、と書いてあった。
二十代後半くらいに見えた。
若い経営者。
顔は整っている。
話し方が綺麗。
テーブルを挟んで少し話して、だいたいわかった。
育ちがいい。
自分に自信がある。
女慣れしている。
「真白さんって、もっといろんな仕事できると思いますよ」
そこで初めて、私は悠馬の顔をちゃんと見た。
目が、笑っていなかった。
口元だけが、笑っていた。
連絡先を交換した。
帰りのタクシーの窓に、自分の顔が映っていた。
完璧だった。
ビルの明かりがぼんやりと見える。
さっきの悠馬の目のことを、なぜか少し考えた。
それから、考えるのをやめた。




