episode8.
8話です。
継続して読んでくださってる皆様、本当にありがとうございます!
「……あなたは……」
それはまるで氷のような宝石のような、光が散りばめられた凝固物のようだった。例えば夏場に、目一杯の大きな氷をグラスに入れてその上からお茶を注ぐ。それを陽に当たる所に置くと、光は凝縮され虹を生み出し、何より氷が七色の輝きを纏いだす。
小さな頃、カランコロンと音を鳴らすその小さな宝石のような氷が大好きだった。冷たいけれど、冷たくない。ワクワクを詰め込んだ塊ーーー。
彼女、環の琥珀色の瞳はそれとひどく似ていた。
「あ……俺は、翼。君……環とは雪の日に公園で出会ったんだけど…覚えてる?」
目覚めたばかりの彼女の様子を伺いながら、恐る恐る昨晩の事を尋ねる。
彼女にとっては混乱してパニックになってもおかしくない状況だ。まずはこちらが冷静に事実を話さないと。
「…翼……。どうして私の名前を……?」
琥珀の瞳が僅かに揺れる。
「え……あ、君を追ってきた君の仲間に聞いたんだ。結と潮って言うーー」
環は下を向き、その表情は前髪で隠されてしまった。
沈黙が続く。
「……わりぃ。目覚めたばかりで、初めて会った奴に急に名前で呼ばれて、その…戸惑うよな…」
翼がそう言うと、すすり泣きと共に彼女は身体を震わせる。彼女が何に泣いているのかわからないけれど、これ以上自分が何か言葉を発する事はそれを助長してしまうような気がした。
「………っ……!」
すると、彼女は勢いよく布団を捲り上げ、立ち上がり、襖に向かってそのおぼついた足で歩き出した。
「あ、おい!」
翼の制止も届かず、本調子ではない足元は次第に絡まり、大きな音を立て彼女は畳の床に転んでしまった。
それと同時に、背中に光の粒が凝集していく。それは羽根のような形を成していき、徐々に実体化していく。
ーーーまさか、飛ぼうとしてるのか!?
翼は環に駆け寄る。
「……やめろ、環!今の状態で空なんか飛んだらーー」
「環って呼ばないで!!!!!」
それは断固たる否定だった。泣きながら、床に這いつくばり、自分の拳をギュッと固く握りしめる彼女の姿。そんな姿と拒絶に近い否定の声に、翼の胸に張り裂けそうな痛みが生じる。
なぜ、なぜこんなにもーー。
その時、廊下から複数人の足音がこの部屋に向かっていた。それがあっという間に近づくと襖を開けた向こうに、綾、結、潮の姿が合った。
2人のただならぬ様子を感じた3人は各々駆け寄る。
「おい!環に何をした!!!?」
結は翼の胸ぐらを掴み、すごい剣幕で捲し立てる。
カラメル色にはぐつぐつと怒りの揺らぎが生じていく。
何もしてない。と言ってもこれは通じなさそうだ。でも、間違いなく自分のせいで彼女は泣いている。その事実がまた、胸の痛みを強くしていく。
「おい!答えろよ!」
「……やめて!!…やめて……結」
環が結に向かって放った言葉に、一同が環に注目する。彼女は潮に支えられながら、身を起こし、涙で溢れた瞳で翼と結を見た。
「……ごめん。……ごめんなさい。その人は何も悪くないの……。私に、目覚めたばかりの私に…現状を教えようと…してくれて………」
徐々に声が掠れて萎んでいく。それと同時に、環の瞳が再び閉じられようとしていく。
「今は喋らなくていいよ。こんな状態で羽根を使おうとしたんだもの。しんどいはず。潮、環ちゃんを布団へ。少し、寝かせてあげよう。」
綾はそう言って乱れた布団を整え始める。潮は頷くと環を布団に寝かせた。
「大丈夫よ。少し疲れて眠っているだけだから。きっとまたすぐに目を覚ますと思う。だから、ね、結…くん。翼を責めないであげて」
結は綾の瞳を真っ直ぐに射抜く。それは何かを探られているような、見定められているような不思議な感覚だ。きっとこちらの気持ちに嘘がないか、人の出方を見極めているのだろう。それだけ彼自身が慎重な性格なのか、それとも環の事をーー。
「翼も話して?環ちゃんが目覚めた状況を。こんな時だもの。争ったって意味ないよ」
「同感だね。これ以上、環を刺激するのはやめよう。ささ、結。そんな怖い顔しないで、座って座って」
潮がヘラッとこの緊張感をないものにするかのように笑う。結は小さなため息を吐くと、翼から離れた。
やっと呼吸ができる。身動きが取れる。
翼は体の緊張が解けていくのを感じる反面、胸の痛みが止まない感覚に気持ち悪さを覚えた。
けれど、この痛み治めるのは今じゃない。そう実感している自分もいる。
在すべき事はーーー。
翼は床に座り直すと、「ごめん。」と一言、放つ。
「…彼女が目覚めてすぐ、あんた達2人が来たって言うのを伝えた。それで、なんて呼んでいいのかわからなくて環って呼んだんだよ。そしたら泣き始めて、羽根で飛ぼうとしたんだ。」
「伝えたのはそれだけ?」潮が問う。
「うん。」
「そっか。まあ、だとしたら僕たち2人が来たって言うのが原因かな」
「え?」
「掟を破ったのは環だからね。僕たちはゲートを開いて地上に行った彼女を連れ戻すために、天上の巫女導師に頼まれたんだ。」
「…おい、潮」
結が口を挟む。それはそれ以上言うなと言う牽制に近い。
「もう、この際いいんじゃない?だって、そっちは色々わかってるんでしょ?」
そう言って翡翠の瞳とカラメル色の瞳はある人物に視線を向ける。
潮は変わらずヘラッと笑ってその人物に投げかけた。
「ーーーね、地上の巫女導師さん?」
「…え?」翼がその人物に顔を向けた先、
「バレちゃいましたか」
そう言って微笑む、綾がいた。
【明日が綺麗に見えていれば】
episode8. 覚醒
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