episode7.
昨日は更新できず申し訳ないです。
今日からまたよろしくお願いいたします!
真冬の空は綺麗だ。
空気が乾燥しているからか、青さの彩度が鮮明で、少しの晴れ間がそれをより強く輝かせる。そして揺蕩う雲が冷たい風に攫われて、空の青さが徐々に覗いていく様は見ていてとても心地がいい。
でも、、
「綺麗だけど、切なくなるのはなんでなんだろうな」
綾は境内を掃除する手を止め、神社の御神木の前に立ち、その木を眺めている結に目をやった。
昨日、天上世界から来た潮と結は月宝の意向もあり、環が目覚めるまでの数日間、ここ鵜久森神社で過ごすことになった。
同じ生活を送る、言わば共同生活となったわけだが、
彼らは自分たちの生活に必要な最低限の事しか聞いてこない。潮は比較的飄々としていて、まだ話しやすいのだが、結に至っては、まるっきりこちらと関わるのを避けているように思える。
固くきゅっと結ばれた口。カラメル色の真っ直ぐ鋭いような瞳。けれど、環を見ている時の瞳はとても優しい。
そよ風がふと結の髪を揺らす。その表情は見えそうで見えない。
何を、思っているんだろうーーー。
彼はあらゆるものにずっと警戒しているような印象だった。難しい顔をして、近寄りがたい雰囲気が彼の空気となって周りを囲んでいる。まるで話しかけるなとでも言っているようなーーー。
けれど、今、あの御神木を眺めている彼は、なんだか、とてもーーー。
強い風が吹き上がる。
その瞬間、結は振り返り、その視線が綾と合わさった。
「……っ!」
思わず綾はそのカラメル色の瞳から目を逸らしてしまう。胸が想像以上に騒ぎ出すのを感じながら、綾の心は理解不能な動悸に駆られていく。
すると、
「おーい!結!!」
離れの方から潮が彼の元へ駆け寄っていく。結の意識は当然潮に向かい、2人は何やら話し始めた。
その様子を見た綾にはほっとするような心が起き上がる。それと同時に、
「どうして…私、目を逸らしちゃったんだろう…。」
と言葉に表せないような胸のざわつきが再び心を騒がす。
今はまだその違和感が何からくるものかわからない。
「……今は、掃除だ!」
綾はぶんぶんっと首を左右に振り、手を止めていた掃除にとりかかった。
【明日が綺麗に見えていれば】
episode7. 予兆
「これ、母さんから」
「あ、ありがとう。」
翼は綾に手土産を渡す。ビニール袋の中には、練り物や大根、卵などの食材が入ってる。
「これは、おでん一択だね」
そう言って笑う綾と翼は少女の眠る部屋に向かう。
「翼、今日も泊まっていくの?」
「いや、泊まりたいんだけど、翠がうるせえから日付変わる前には帰るよ。」
「そっか。わかった。けど、そんなにあの子が心配なの?」
「…はあ!!!?」
翼は素っ頓狂な声を上げ、思わず足を止めて綾の方を振り返った。
「…ふっ。翼、顔真っ赤。」
そうやって悪戯そうに揶揄うように笑う綾にますます翼は顔を赤らめていく。
「や、別に、そんなんじゃ……ねえよ」
照れを隠しながらモゴモゴ喋る翼を、はいはい。と穏やかな響きで制する綾。
「……けど」
ポツリと落とされた言葉は、
「話してぇみたいなとは、思う」
あまりに素直な返答だった。
……珍しい。
翼と綾は小中高が一緒の幼馴染だ。翼はいつも男子とつるんでばかりで、女子と一緒にいるところを、綾はあまり見たことがなかった。
あ、1つ年下の翠ちゃんは別だけど。
そんな翼が、初めて会ったあの子をそんなに気にしてるなんて、珍しい。
ーーーこれも、何かのご縁なのかな。
目の前で照れくさそうにしている翼に、綾はなんだか自分も嬉しく、明るい気持ちになっていくのを感じた。
「ふふふ。そうだね。彼女……あ、環ちゃんだっけ?無事に目が覚めて、お話しできたらいいね」
「おう」
そうこう話している間に、2人は環の眠る部屋につく。
部屋には綾が設置したのであろう加湿器がモクモクと湯気を立て、柑橘系の良い匂いが部屋に充満していた。
「最近流行りのアロマ水だよ。ティートゥリーって言う、安心を促す成分があるんだって」
綾は翼の脱いだコートやマフラーをハンガーにかけるると「座って」と翼に環の側に座るように促した。
「…だいぶ顔色が良くなったな」
「うん。本当に」
昨日、凍えるような寒さの中で見た彼女の顔は青白く、とても生きている者のそれではなかった。
今は落ち着いているのだろう。顔に血色が戻り、スヤスヤとした心地の良い寝息も聞こえる。
「……よかった。」
翼は安堵の音色を洩らす。
「翼、体冷えてるでしょ?温かいお茶でも持ってくるよ。環ちゃんの側ついていてあげて」
そう言って綾は部屋を後にした。
しんと静まり返った部屋はどこか落ち着く。
すやすやと寝息を立てて眠る環。彼女の手を翼は握る。温かい。当たり前のように温もりがある。その感触に思わず微笑む。
「……なあ、お前はどうして、地上にきたんだよ。それに、俺を見て言った"やっと"ってのは、どう言うーーー」
そこまで言いかけてハッとした。
彼女の瞼が微かに動き出す。それは、今にも目を覚ます兆しのようにも取れる。
どくん。
一音、胸の奥で大きく高鳴った。
なぜ、こうも、うるさく鳴るのか。その答えは彼女しか知らない。芽生え始めた確かな予兆。握る手が無意識に強くなる。そうして高鳴る心音と呼応するように、環は目を開けた。
「………あなたは……」
琥珀色の瞳が翼を写す。なぜだろうか、初めて見る色なのに、妙に安心する。その瞳の揺らぎは大きくなり、やがて写した翼の姿も波打つ海のように揺れ始めた。
読んでくださりありがとうございました!
ついに環ちゃんお目覚めです。
引き続きよろしくお願いいたします!




