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episode6.

6話です!


いつも読んでくださる皆様、ありがとうございます。

支えになっております。


「お口に合うといいんだけど……」

綾はそう言って、潮と結の前に茶碗を置いた。


潮の腹音が鳴り響いた後、昼ごはんも兼ねて客人達に料理を振る舞うため台所に消えた綾はものの僅か30分程度で居間へ戻ってきた。


「よく30分でこんだけの量作れたな」

翼が思わず感心する。机には筍ご飯、金目鯛の煮物、ほうれん草のお浸し、牛肉のしぐれ煮、すまし汁と豪勢な料理が並べられている。


「ほとんど夕食用にと思って作り置きしておいたの。2人の舌に合うかどうか心配で、色々出しちゃった」


そう言って、へへっと笑う綾。心配性なのか、優しいのか、こういう自分の力が必要とされた時に、迷わずたくさんの労力をかけれる所が、彼女のいい所だ。


「ほーーーう。これが天下人のご飯だね。」


潮はまじまじと並べられた料理を見て、感心したかのように顎に手をやった。


「ったく、お前は何考えてんだよ」

その横で結は大きくため息を吐く。


「だって、昨日こっちに来てもう昼でしょ?朝食べてないんだし、お腹空くのは当然」


「あ、あの!美味しくなかったら残しても大丈夫なので、冷めないうちにどうぞ。」


恐る恐る綾がそう言うと、潮も恐る恐る箸を取り、牛肉のしぐれ煮を一口分摘んだ。そして、「えいっ」と口に含み、しばらく咀嚼する。


じっと綾と翼は彼の反応を待った。


潮は無表情で咀嚼し、一口でそれを飲み込んだ。そして、

「んーーーーーーー!美味い!!!!」と感動したかのように満面の笑顔を綾に向けた。


「よかった……」

綾はほっとしたように胸を下ろす。


「結も食べてみなよ。すっごく美味しいよ」

潮が結に食を薦める。しかし、彼は難しい顔をしたまま箸をつけようとしない。


「………」

そんな彼に綾が声をかける。


「毒とか入っていませんよ」

その言葉に、結は少し瞳を揺らして反応する。


「そんな、食べ物に悪さをするような事はしません。それはあらゆる生命に対する冒涜ですから」

「………そうそう、めちゃくちゃ美味いよ。これ」


隣で勢いよく、あらゆる料理に手をつけ食していく潮。


この2人の警戒心の強さは真逆だな。と翼は思った。けれどまあ、初めて来た世界の食べ物をいきなり食べるのにはきっと勇気がいる。自分でも同じ状況下だと、少し戸惑うなとも思う。


「綾の作った飯は美味いよ。ーーいただきます。」


翼はそう両手を合わせると、金目鯛の身を切り崩し、結の小皿にのせた。そして自分の分も取り分けると、口に運ぶ。


「んん。美味い」そう言って少し微笑む翼。


結の目の前に立ち上る湯気とほくほくの金目鯛。

ーーーー生命に対する冒涜だから。と言った綾の言葉が脳裏に浮かび上がる。


すると結は目を瞑り、両手を合わせ「いただきます」と小さく呟き、箸を少し進めていく。


結にとって初めて食べた地上の魚。それはとても芳ばしく、優しく、なんだか懐かしい。そんな味が口内に広がった。


今、この瞬間だけは警戒を解き、食にありつく。それは天上も地上も変わらない。そう言った当たり前が少しだけ、彼らの距離を近づけさせた。




【明日が綺麗に見えてれば】

episode6. 食す




きっと翠には小言を言われるだろうな。


我が家の扉を前にして、翼は大きなため息を吐いた。電話で母には神社に泊まると言ったものの、あの翠の事だ。事情を細かく聞いてくるだろう。


「聞かれたとして、なんて答えりゃいいんだよ…」


羽根の生えた天上人の存在など、真剣に話したところで信じてもらえるかどうか。そういう神秘的な事など全く信じていない翠の事だ。嘘ついてるんだろうとか言われるに決まってる…。考えれば考えるほどに、家の扉を開けるのが億劫だ。


そうこうしていると、「あーーーーーー!!」と聞き覚えのある声がした。その声の主に心当たりしかない翼は、恐る恐る振り返る。


「げ、やっぱり」

「やっぱりとは何よ翼!今の今まで何してたのよっ」

「だあーもううるせぇ試験勉強だよ」

「試験勉強?鵜久森神社で?お泊まりしてまで?」

「そうそう。ああー勉強のしすぎで疲れたわーー。」

「あ、ちょっ、まだ話は終わってな、、い」


予想していた通りの翠の質問攻めに、思いの外、余裕がない対応をしてしまった。けれど、今はゆっくり休んで昨日知った新たな世界のことや、天上人の事を整理したい。そして、また少し休んで鵜久森神社へ行かなければ。


「翠には悪いけど。こればっかりは譲れねぇ」


翼の部屋の扉が閉まるの同時に、ふと神社のお香と和食の醤油のような香りが翠の鼻先を擽ぐった。いつもいつも、何かをはぐらかす時や決まりが悪い時、翼はこうやって自室に籠る。ピシャンと締められた扉は、詮索される事を拒否する翼の心の表れだと、翠は理解している。


でも、だからって、、こんなあからさまに、、


「はああ。朝、先輩に捕まらなければ私も神社に向かえたのにな……。なんでこうもタイミングが悪いんだろう」


手から下がった袋の中にはクリスマスの包装用紙が入っている。今朝方、鵜久森神社に向かう途中で、1つ年上の先輩に捕まり、デートでプレゼントするためのショッピングに付き合わされた。その際に買った包装紙のあまり。


きっと、神社で綾ちゃんが作った料理を食べてきたんだろうな………綾ちゃんが作る料理は美味しいし……。


自分の思考回路はいつも胸にチクチクとした痛みを広がらせる。

その原因を翠はとっくの昔からわかっていた。


今からクッキーでも焼いてこの包装紙に包んで、メリークリスマスだと言えば、翼は喜んでくれるだろうか。"美味しい"って笑ってくれるだろうか。


「……喜んで…食べてくれるだろうな……」

そう、それが翼だ。料理もお菓子作りも大の苦手な私。それをわかっていて、どんな不出来なものも美味しくないものも、最後は残さず食べてくれる。


「まあ、母ちゃんの味には程遠いけど、これはこれで美味えよ」


そう言って笑う翼。その優しい笑顔に何度心奪われてきただろうか。


だけど、今の私はきっとそれだけでは足りなくなってしまう。


胸が痛い。ギュッと拳を握りしめる。


もっと、翼を独り占めしたいーー。

もっと、もっと、翼と一緒にいたい。"普通の幼馴染"ではなく、それ以上の、もっと、もっとーーー。


長年拗らせてきた彼への気持ちは収まる事なく、年々膨れ上がるばかりーーー。


目の前にある扉。それはまだ、まだまだ重く、軽々しく開けれるものではない。けれどいつか、絶対にこの扉を自分で開けて、彼の1番側に行くんだ。


翠はそう、強く思うと台所へ向かった。


読んでくださりありがとうございます!


私も留学で初めて外国に行った際、食事だけが心安らぐ瞬間でした。

食事というのは警戒していた心を解く大切な術だとその時思いましたね。


次回もよろしくお願いします。

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