episode5.
5話です!いつも読んでくださる方がいらっしゃってとても嬉しいです。もっと精進します!
「ふわああああ」
んーーーっと翠は寝起きの身体を左右に伸ばす。あくびをすると、自分の呼吸が白い煙となってたちまち空中に散らばっていく。その白い煙でさえ、形を帯びて固まってしまいそうなほど、今朝は昨日よりも寒い。
椅子にかけてあったカーディガンをパジャマの上に羽織り、自室を出て、居間に向かう。その途中に縁側の窓から見える景色に思わず足を止めた。
外の世界は銀世界だった。
「うわああ。昨日、たくさん降ったんだなあ」
庭の木々や草花、干し竿の上に降り積もる雪。それが太陽の光を浴びてキラキラと宝石のように輝いている。小さな溜池や蛇口も凍りついていて、少し、ワクワクした心が騒ぎだす。
「ふふっ翼、喜ぶだろうな」
翼はきっと寒さも忘れて、真っ先に雪へと向かうだろう。純粋で少年のような心を持つ彼の行動が脳裏に浮かんでは、翠の頬を綻ばせた。
けれどそうしている間にも、底冷えするような寒さが足元から上昇してくる。
「うう、やっぱ寒い。」
翠は両手で身体をさすりながら、朝食のいい香りがする居間へと向かった。
「あら、おはよう翠ちゃん」
「おはよう。薫おばさん。うわぁいい香り〜!」
食卓には、白ごはん、味噌汁、焼き魚に煮物と、朝食というには豪勢なものばかり並んでいた。そして、翼の母である薫が熱い麦茶をコップに注いでいる。
「さ、冷めないうちに食べましょう」
そうして翠と薫は2人並んで食卓に並ぶ。塩焼きにされた魚を箸で通すと、香ばしい香りと共にふわっと白い湯気が立ち上がる。
「んー美味しいっ!おばさんの料理、さいっこう!」
翠が笑顔でそう言うと、薫は少し照れた様子でありがとうと答えた。
「もうっ、こんな美味しい朝ごはん朝から食べれるんだもの。翼は本当いいお母さんを持ったわよ。あ、、おばさん。そういえば、翼は?まだ寝てるんですか?」
「あ…ううん。翼、昨日帰ってきてないの」
「へ?」
予想だにしない返答だった。
「昨日鵜久森神社の月宝さんから連絡があって、昨日は神社に泊まるって…」
「…神社?」
なぜまたそんなところに。
今日は12月24日のクリスマスだ。大事な日だし、朝起きたら真っ先にメリークリスマスって言いかったのにーー。
「なんでも、大事な用ができたからって。ま、月宝さんも綾ちゃんもいるんだし、大丈夫だと思うわよ」
「そう…ですか……」
大事な用ってなんなの。そんなの昨日、出かけていく時に言わなかった。それに、鵜久森神社か……。あそこには綾ちゃんがいる。
この特別なクリスマスにあそこに行く理由なんて…。
ぐるぐると次から次へと疑問が浮かび、それは翠をずっと不安にさせていく。
ううん!考えてもダメだ!
翠は勢いよく、朝食を掻き込み「おばさん!ご馳走様!」と立ち上がる。
「あれ?どこ行くの?」
「ちょっと野暮用!」
先ほどまでの寒さはどこへやら。突き動かす原動力が翠に熱を与え、行動を起こさせる。彼女は急いで身支度を終えると、とある場所に向かった。
【明日が綺麗に見えてれば】
episode5. 空腹
「…つばさ、翼……翼!!!!!!」
「っ………!!?」
誰かに起こされた感覚がして、飛び起きた。
目の前には、私服に身を包んだ綾が心配そうにこちらを見ている。
どうやら俺は眠っていたらしい。
「……よかった。やっと目が覚めた。」
「えっと……もう朝?」
頭と視界が眩む。変な姿勢で寝てたせいか、少しばかり腰が痛いような気もする。
「違うよ。もう昼の11:30」
昼の…11時30分……
と、ここで昨日の出来事がフラッシュバックする。
黄金の満月と降りしきる雪…
それから羽根の生えたーーー
「そうだ!!あの子は!?」
「大丈夫。よく眠ってる。昨日より顔色もいいし、体温も平熱に下がったわ。それにさっきお医者様にも診ていただいて、心配ないって。」
「そうか……よかった」
心から安堵する。高鳴った心臓の音が少しずつ落ち着いていくのを感じる。彼女の身を切実に心配してる自分に疑問を感じながらーー。
「うん。今は昨日の2人が彼女についてるわ。それで…起きたばかりで申し訳ないんだけど…あの2人が、翼に話があるって……」
あの2人……
そうか、昨日あの子を連れ戻しに来たって言ってた結と潮か……。
正直、昨日広がったばかりの世界と知ったばかりの知識だけで、天上人と呼ばれる彼らと話すのは少し、いやかなり緊張する。
昨日、彼女と出会った経緯は詳しく説明したつもりだ。それ以上に何を彼らは知りたいのだろうか。
「ーーーー翼?大丈夫?」
「え?…あ、ああ。大丈夫だ。わり。今行く」
✴︎✴︎
トントントン。と綾は柱を3回叩く。
「入っていいですか?翼を連れてきました」
襖の向こうで「どうぞ」と声がする。翼と綾は2人が待つ部屋へと足を踏み入れた。
部屋には昨日の彼女が布団で眠っている。翼は彼女のの顔色を近くで見たくて、布団の側に腰を下ろした。並んで綾も座る。
布団を挟んだ向かいには潮と、少し離れた部屋の隅でじっとこちらの様子を伺う結が座っていた。
そして緊張感が漂う空間を切り裂くように「あ!」と潮が声を上げた。
「そんなにかしこまらないで。とって食いついたりしないから」
そうやってヘラッと笑う潮。
「話があるって……」翼が口を開く。
「うん、今後の僕らの方針についてと、君の口止めについて」
口止めという言葉が出た瞬間、背筋を張り詰めるような不気味な気が立ち込める。昨日の夜感じたものと同じだ。
「その手は通じません」
その気を振り払うかのように綾が淡々とつぶやいた。
「うん。わかってる。何かするつもりはないよ。翼くんが僕らの事を誰にも言わないって約束してくれるならね」
ああ……なるほど、そういうことか。
脅し、なわけか。
一見、潮という少年は優しく柔らかな口調で人当たりの良さそうな印象がある。けれど、纏う雰囲気は冷たく、まるで雪のようだ。その温度差もあり、翼が彼に感じる印象は【掴めない】というものだった。
「言わねえよ。こんな話、誰にしたって信じてもらえない。それに、俺もあんた達と争う気はないよ」
翼がそう言うと「へえ」と感心の意を漏らす潮。
「天下人は僕らの事をなんでも騒ぎ立てるって聞いてたからそんなに素直に受け入れてもらえるなんて意外だったよ。うん。だったら話が早いね。僕らの今後の方針を言うよ。」
当たり前だ。争ったってなんの意味もない。
それに俺は天上人、天下人の間に何があるかなんて知らない。天上人が天下人である俺らの事をよく思ってないのは、会話の節々に感じられる。
けど、それは今関係ないーーー、
天上人だろうが、天下人だろうが、
ここで眠るこの子の無事を祈る。それだけだーー。
「さっきお医者さんにも診てもらって、環が目を覚ますのには数日かかる。だからその間、僕らはここで彼女が目覚めるのを待たせてもらう。で、ここからは僕の個人的なお願いなんだけど」
その発言に、結がやや反応する。何を言い出すんだと言わんばかりに。
翼と綾も固唾を呑んで、彼の次の言葉を待った。
そして潮は少し照れくさそうにこう言った。
「お腹がすいたから、何かくれない?」
そうして緊張感を打ち消すような、マヌケとも取れる腹の音が部屋中に響き渡った。
読んでくださりありがとうございました。
文才が欲しい。




