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episode4.

4話です!これからは毎日夜18:00頃に投稿しようと思います!


12月24日、クリスマスの夜。

まさか16歳のクリスマスはこんな事になるとは思っていなかったーーー。




【明日が綺麗に見えてれば】

 episode.4 聖夜




「まずいね」


羽根の生えた少年が言った。

栗色の髪に翡翠色の瞳が、翼たちをじっと見据えている。


「非常にまずいね。よりにもよって天下人(てんかびと)の所にいたなんて。」


天下人という文言に翼は思わず反応を示す。先ほどの話にあった、雲の上の結界とやらに囲まれた世界で暮らす人間を天上人というのなら、地上で暮らす自分たちは、彼のいう()()()と呼ばれているのだろうか。

 

そもそもまだ羽根が生えた人間がいる事を完璧には理解できていない状態で、まさか新たに羽根を持つ者たちに出会うとは思いもしない。


しかも先ほどからこちらを見つめる2人の視線は非常に冷たく、嫌でも緊張感が体を支配していくような感触が背筋を這う。


そんな緊迫感が漂う中で次から次へと流れてくる御伽噺めいた情報は、翼を混乱の中へと誘っていた。



ーーくそっ展開が漫画すぎて理解が追いつかねぇ。



けれど、思考を手放してしまえば、恐らく自分が知らない世界に片足を突っ込んだまま、巻き込まれていく事象に気づかないままに事は運んでいく。


理由などわからない。けれど、無意識なままに生まれていく当事者意識が、彼らの一挙手一投足を逃してはならないと告げている。


そんな意識で、彼らを観察する翼を他所に、翡翠色の瞳の少年はもう一人の少年に問うた。


「……どうする(ゆい)?」


結と呼ばれた少年は、そのカラメル色の瞳を鋭く細め、翼を睨みつけた。砂糖を焦がしたような瞳の色の中に黄金の光が垣間見える。綺麗なはずのその色彩は凍えるような冷たさを宿していた。


「決まってる。


 ーーーー取り戻すまでだ」


満月がより一層輝きを増す。それと同時に背筋が凍るようなゾッとした寒気が押し寄せ始める。それは不気味とも取れる、怪しげな気ーーー。


……っ!何かされる!!


そう思わずにはいられなかった。けれど、


「そうはさせん」


月宝(げっぽう)が翼と綾の前に立った。

後ろから見る月宝の背中は大きく、逞しく、不気味な気を一掃する安心感を与えてくれている。


「お主達の存在は知っている。天上人の使う"その術"の事もな。大方、この少女を連れ戻しに来たのだろうが、今はその時ではない」


静かに、淡々と月宝は少年2人に事情を説明し始める。


「この子はとても衰弱している。無理に連れ帰ればもっと体に負担がかかり、何が起きるかわからん。」


結は鋭い視線を月宝へぶつける。


「……そいつを、(たまき)をそんな風にしたのはお前らか?」


結の纏う空気がより一層冷たさを放つ。カラメル色の中に、僅かに揺れ始める敵対心が真っ直ぐに月宝を射抜いた時、


「待って、結」


もう1人の少年が彼を制止した。


「……っ、(うしお)


潮と呼ばれた少年は、月宝に近づく。翡翠の瞳が影を落としたかと思えば、爽やかに微笑んで問うた。


「貴方は、巫女導師(みこどうし)ですか?」


「巫女導師…?なんだそりゃ」翼が心の音を漏らす。

「巫女導師というのは天上と地上の世界を繋げる役割を持つ者の名よ」


そう答えた綾に結と潮は視線を移す。


ーーーー何者であるかーーーー。


お互いがお互いを勘くぐるような視線が行き交い続けている。眠り続ける少女を中心として、疑問と懸念が渦巻き、お互いの正体を探る。


それは大きな緊張感を生み、真冬の空気をより凍結させていく。

けれど、2人の探られるような視線をものともせず、綾は月宝の次の言葉を静かに待った。


そして、「いや、ワシは巫女導師ではない」と月宝は否定し、話を続けた。


「けれどお主達、天上の(おきて)も巫女導師の事も知っている。この子がここに来たという事が天上世界においてどういう意味を成すのかも。だからこそ、だからこそだ。ワシらに敵対意識はない。ただ、この子をここで休ませ、目を覚ます時を待つ。それが此処、鵜久森神社で()()理由だ。」


「……天上人を匿い、助ける。僕たちの理由(わけ)を知ってる上で……。貴方にはそれをする意義があると?」


潮の纏う(まとう)雰囲気が静かに揺らぐ。それはまるで、冷たい凪の海が風に煽られ静かに波打つ瞬間と似ていた。


こいつらの纏う空気には色や冷たさがあるーーー。


翼は結と潮を見てそう思った。

そしてそれは、月宝も同じ。


「……ああ。そうだ。ワシは此処、鵜久森の神主(もりびと)だ。ここに紛れ込んだ全てのものの心身を助け、行き先を導く。それが、ワシの役目であり意義そのものー。」


恐らく、両者が先ほどから話しているのは自分の知らない世界そのものだ。そしてそれは己の理や常識を覆す程の未知なる領域ーーー。


まだまだ頭の整理はつかない。わからない事だらけだ。役目も意義も、ここ鵜久森神社の謂れ(いわれ)も何も知らない。けど、きっぱりと断言し切った月宝のことをただただ"かっこいい"と、翼は思わずにいられなかった。


そしてそれを満月が、見守っている。


「なるほど」


潮はクスリと微笑むと、ひどく明るい声で結にこう言った。


「うん。信じよう。彼らを」

「はぁ!?」


それはあっけらかんとした同意に近かった。


「仕方ないよ。このご老人が嘘ついてるとも思えないし、ここで言い争ったって、なんの意味もない。どちらにせよ、今ここで無理やり環を連れて帰ったって、彼女の身に何が起きるかわからないのは確かだ」


「いや、待て!!俺たちはここに…」


「わかってるよ。結の言いたい事。けどね、僕たちの目的は、環を無事に連れ帰る事。彼女が命の危機にあるのなら、まずは環の安全を第一優先に考えるのが1番じゃない?それに、僕たち天上人に理解のある天下人が、環の側にいたのは幸いなことだよ」


「……けど嘘をついていない保証はない」


「うん。わかってるよ。でもさ、僕の勘はよく当たるって知ってるでしょ?」


潮は微笑みを崩さない。結はそれをじっと見つめ返す。今この瞬間、2人の間には言語的なコミュニケーションではないやり取りが起こっている。


きっと関係性は深いものだろう。


「……………わかったよ」


渋々、結は同意を示した。


「ただし、環に危害を加えたり俺たちが敵だと認識した場合は、迷わず術を使う。それでいいな?」


「ああ。それで構わない。」

月宝はそう言うと(かかと)(ひるがえ)し、部屋へと上がる。


「話はまとまった。来なさい。外は寒いだろう。

 客人としてもてなそう。


 ……翼」


「…へ?」


今まで傍観する事しかできなかった翼は突然、名前を呼ばれた事に素っ頓狂(すっとんきょう)な声で反応した。


「彼らにこの少女と出会った経緯を説明してあげなさい。そうした方が彼らも状況を把握しやすいだろう」


「……あ、ああ」


経緯を説明しろって言ったってーー。

気まずさを抱えながら翼は結と潮に目をやった。2人と視線が合う。


「へえ、君は()って言うんだ。僕らの背中にあるものと同じ名だね」


そう言って潮は変わらず微笑み、結は怪訝な顔で翼を見ている。そして、満月の下で黄金を纏った2人の羽根が小さな光の粒子となって徐々に消えていく。

それはずっと降り続ける雪と溶け合い、まるで蛍のように空間に漂い続けた。


「天下人は今日の事をこう言って祝うんだってね」


なぜだろうか。この常識を逸脱した光景は割と嫌いじゃない。むしろーーー


()()()()()()()()


 よろしくね、翼」


その美しさと儚さに囚われてしまいそうになる。


こうして、16歳のクリスマスは漫画のような御伽噺のような新たな世界を、俺にもたらした。


読んでくださりありがとうございました!

満月の夜というのはなぜあんなにも世界が違って見えるんでしょう。

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