episode3.
3話です。よろしくお願いいたします!
【明日が綺麗に見えてれば】
episode3. 来訪
「ちょっと2人とも、あっち向いてて」
綾が服とタオルを持って部屋に戻ってきた。
冷たくなった少女の濡れた服を脱がし、温めたタオルで丁寧に体を拭いていく。
翼と月宝は綾と少女に背を向け、会話を続けた。
「月宝さん、天上人ってなんなんだよ?」
「……天上人とは此処とは違う、空の上で暮らす人々の事だ。」
「は……?空の上で暮らす……?」
何を言っているんだろうか。
空の上で人が暮らしている?そんな事が、
「そんな事があるんだよ。翼。」
翼の背中にかけられた綾の声。翼の戸惑う心を見透かしたかのように続けた。
「雲を超えたその向こうに、結界で覆われた世界がある。そこにはね、この子のように羽根を持った人間が暮らしているの。私たちは彼らを天上人と呼んでいるわ」
「雲の向こう……結界?……」
「ええ。そうよ」
「そんな、漫画みたいな話……」
「現に、翼は見たんだろう?この子の羽根と空を飛ぶところを」
確かにそうだ。そうだけど。
唐突に突きつけられたまさに漫画みたいな話を、そのまま鵜呑みに信じれるほど事の状況を理解していない。
だって、さっきまで"常識"の中にいたのだから。
「2人とも、もういいよ」
綾が翼と月宝に声をかける。振り向くと着替えが終わり、3重にもかけられた毛布の中で眠る少女がいた。
「……こうして見ると俺らと変わんねえのに」
「そうだね。自在に操れる羽根が生えているって言うのと、空に適した器官があるかないかの違いだけだから。私たちと天上人の違いは。」
「空に適した…?」
「ほら、空は酸素が薄いでしょう?気圧の関係もあるし普通の人間の身体ではとてもじゃないけど生きていけないわ。けど天上人の身体はそういう負荷に耐えられる内臓器官と血管構造が備わっているの」
「そうなのか……」
聞けば聞くほど、現実味を帯びているのかなんなのかわからなくなってくる。
目の前で眠る少女は、俺たちと変わらない。ただの普通の人間に見える。
さっきまでの羽根が生えた彼女がまるで嘘みたいに、穏やかに眠り続けている。
この様子は俺たちと何も変わりないのに。
「さっきよりも顔色も良くなったし、体温も微熱で落ち着いてくれてるから、このまま休んで数日で目を覚ましてくれるといいんだけど……。」
「医者に見せなくていいのか?」
「おじいちゃん、どう思う?」
「明日、天上人に詳しい医者に診てもらえるように持ちかけてみよう。今晩はこのままここでワシらが見るしかない」
「…。わかった。今晩は私が付き添うね。明日は土曜日だし。どうして天上人のこの子がこちらの世界に来たのか、疑問はたくさん残るけど今は無事に回復してくれる事を祈るまでだね」
「……!!そうだよ!天上人の存在ってみんな知ってるのかよ?」
「いいや、天上人の存在を知っているのは地上ではごく僅かな人間しかいない。ワシらのような仏教関係者や古くからこの土地に住む者くらいだろう。彼らは地上に来るのを掟で禁じられているはずだからな」
「……そうなのか。それなのに、なんで」
「それはこの子が目覚めたら聞いてみましょう。何か理由があるはずだから。」
「ああ……そうだな」
「さ、この子は私たちが見るから、夜も遅いし、家の人心配するだろうから翼は家に帰ったほうがいいよ」
時計に目をやると、23:45を指していた。確かにもう日付が変わる。きっと家で母ちゃんと翠が心配しているに違いない。
けれど、どうしてかこの子の側を離れたくない。もう少し、一緒にいたい。そう思ってしまう自分がいる。
不思議なものだ。初めてあったはずなのにーーー。
彼女の手をもう一度ギュッと握った。心なしか先ほどよりも熱を徐々に纏っているような気がする。その些細な変化にひどく安堵する自分がいた。
その時だった。
突然、目を開けていられないほどの眩い光が視界いっぱいに広がる。急な光は目に痛みを指し、瞼を閉じずにはいられない。
「な、なんだ!?」
一瞬の出来事だった。
眩い光が彩度を落としていくのを瞼の向こうで感じとり、そっと瞼を開ける。
外界の光に目が慣れたのを確認し、何が起こったのか把握しようと襖を開け、翼は庭へと飛び出した。
すると、2人の少年が庭に立っていた。
そして彼らの背中には羽根があるーーーー。
先ほどの少女と同じ、月光が彼らの羽根を照らしだし細かい光の粒子がそれらに絡まっている。
「おじいちゃん!あの2人は……」
「ああ。連れ戻しに来たのだろう。」
2人の少年は眠る少女に視線を移動させ「見つけた」と呟いた。
「……なんなんだ……」
翼が2人に問う。
「……お前たちは一体……」
「目標を確認。返してもらおうか。
俺たちの仲間をーーー。」
夜も深くなる深夜00:00。
俺の、今年のクリスマスは黄金の光と共に、未知なる世界を連れてきたーーー。
読んでくださりありがとうございました!




