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episode2.

2話目です。

うすらハゲの校長の話は実際に私が高校生の時言われていたことです。


「常識を知り、常識を守りなさい。」


うすらハゲがチラつく。


4月の入学式に小難しく退屈な言葉を並べ、意気揚々に常識がなんだと語っていた校長の事だ。


15、16歳そこそこの子ども達に向かって"常識"を突きつけようとする60歳の大人の言葉は、妙に現実味を帯びておらず、ただペラペラの中身のない言葉として翼の身体を通り抜けていった。


"常識"なんて形のないあやふやな概念。

けれど大人はみんな"常識"を好み、それが正しいと言う。




ーーーくそっ、なんでこのタイミングで思い出すんだよ!


 大きく開かれた黄金の光を纏う羽根。それが大きな音を立て羽ばたきを強めると、少女の身体は上昇し、宙に向かって飛び立とうとし始めた。


そもそも少女の背中に羽根がある事自体、ハゲた校長の言った"常識"から大きく逸脱している。ましてやそれが、自分の目の前で宙を飛ぶなど誰が予測してようかーーー。


「……君は…」


なんなんだ。


そう言おうとした瞬間、少女は上昇を強め、公園を飛び出し西の方向へ飛び始めた。


けれどその行動は、鳩やカラス等の鳥が羽ばたく姿とは別物で、うまく飛ぶことができないのか、上昇しては下降してを繰り返し、真っ直ぐ飛ぶことができていない。


「……待って!」


翼はたまらずその少女の後を追う。


幸い、少女の飛行スピードは決して速くない。

全速力で走ってもなんとか追いつけている。


路地を抜け、いつのまにか森の中へと足を進めていた。その森は街に隣接した小さな森で名を鵜久森と言った。

見上げた木々の間から捉えられる少女の姿を見逃すことなく、森の中の不安定な足場を掻い潜っていく。


彼女はどこへ行こうとしているのかーー。


この先にはある場所がある。 

この街1番の神社である鵜久森神社がーー。


徐々に開かれていく木々の視界を勢いよく走り抜けるとそれと同時に少女も下降していく。


「……危ない!」


そう叫んだのと同じタイミングで、少女はふらふらと下降し、神社の敷地内に落ちていった。



神社内に積もった雪を蹴り上げ、少女へ近づく。

そっと触れた彼女の身体は凍てつくような冷たさだった。

仰向けにさせ、顔に手を添える。


顔面は蒼白し、黄金の瞳は閉ざされていてピクリとも動かない。背に生えた羽根はどういうわけか、白い光の粒となって徐々に消えていくーーー。


「……おい!大丈夫か!」


翼が声をかけても身体を揺すっても開かれることのない瞳。振り続ける雪がますます少女の熱を奪っていく。


「……救急車……!いや、病院でいいのか!?

 くそ、どうすりゃいい……!」


訳のわからない事象。羽根の生えた少女。

けれど腕の中にいるこの子が今、生命の危機であるということは明白だ。


今、この少女を救えるのは自分しかいない。

けれど、何をどうすりゃいいんだよーーー!


そう思った瞬間、

 


シャャャンーーーーー



鈴の音のようなクリアで美しい響きがこだました。

ハッとして顔を上げる。


そうだ、ここはーー。



「……翼?どうしたの?」


傘をさし、巫女服に身を包んだ少女が心配そうにこちらを見つめていた。


「……(りょう)


鵜久森神社をより強く満月の光が照らす。

この神社の巫女と住職ならこの子を助ける事ができるかもしれない。


"満月を司る"、この鵜久森神社ならーー。


「頼む!この子を助けてくれ!今にも死にそうなんだ……!」


翼がそう訴えると、綾は少女に手を伸ばし頬に触れる。


「ひどく衰弱しているわ。このままだと大変。早く中へ。手を貸して翼」


そうして翼と綾は、氷のように凍てつく少女を抱え、神社の離れへ向かう。

巫女である綾とその祖父である住職の月宝(げっぽう)が住んでいる離れだ。


襖を開けると流れ込む暖かい空気がたちまち身体を覆う。雪で芯まで冷え切った身体が途端に喜んでいるのがわかる。早くこの暖かさを彼女に分けなければ。


敷かれた布団に少女を寝かせる。


「濡れたままの服だと体の熱を奪ってより危険だわ。私、新しい服とタオル取ってくる。」


そう言って綾は部屋を後にした。

一瞬にして静寂が空間を支配する。


自分の体が熱を帯びていくのを感じる反面、握った彼女の手のひらは変わらず冷たさを保ったままーー。


「……頼む。死なないでくれよ……。」


なぜ、こんなにも見ず知らずの少女の無事を祈るのか。自分でもよくわからない。よくわからない事ばかりだ。


もうとっくに校長や大人の言う"常識"からは逸脱している。


けれど、今この子をここで失ってはいけないーー。

そんな予感がただ、ただ、翼を支配していった。


「翼、入るぞ」


襖の向こう、静かで落ち着いた声が聞こえたかと思えば、住職である月宝が部屋に入り、翼の横に腰を下ろした。彼の改良衣から香る線香の匂いがたちまち充満する。


「月宝さん。この子は……」

「やはり、来てしまったか」

「……え?」

「翼、この子の羽根を見たのかい?」

「え……?ああ、うん。見たよ。いや、てかそうか。

 あれはやっぱり……羽根……」


空を飛ぶ姿を見ていながら、いまだに信じられない。

羽根が人から生えていたと言う事実に。けれどこの鵜久森神社の住職である月宝がはっきり羽根と言ったのだ。


であればさっき見た姿は認めざるおえない。


「月宝さん…この子は一体?」


月宝は少し悲しそうな表情を浮かべ目を瞑った。

いやでも次の言葉を待つ心に少しばかりの緊張感が増していく。


何か言葉を紡ぐ際に一瞬の静寂を纏わせる。それが鵜久森神社の月宝の特徴だった。


そして彼は目を開けてこう言った。


「この子は、空から来た天上人(てんじょうびと)だ」 と。



【明日が綺麗に見えていれば】

 episode.2 逸脱する常識



読んでくださってありがとうございました!

引き続きよろしくお願いします☺️

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