episode1.
初めての投稿です!あゝ緊張。
拙い文章ですが、読んでいただけると嬉しいです!
ほんの些細な思いつきだった。
夕食を終えて、満たされた身体が望んだ次なる欲求は「月が見たい」だった。
我ながらロマンチックな所があるじゃないかと自分の思いつきを翼はふっと笑う。
「俺も大人になったってことだな」
3日前の12月20日に16歳を迎えた翼。高校1年生になった今年は友達、教師、学校、自分を取り巻くあらゆる環境が変化した。
中学からの同級生もほとんど同じ高校に進学したが、新たな場所で新たな交友関係を難なく築き始めている。
新しい制服に身を包む同級生達は、知人の面を被った別人のような出立をして、別人のような言動をする。
常に先生に怒られていたクラスの暴れん坊は、サッカー部に所属し、部活一筋の生活を送り、真面目に授業も受けている。
メガネをかけた大人しい女子生徒もコンタクトに変えて、メイクを施し、その垢抜けた容姿から今では男子達の注目の的となっている。
まあ、言うなれば思春期によくある正常な変化だ。
あいつも、こいつも、みんな少しずつ何かしら変わっていく。"それ"が大人になっていく事だと、高校生になって身をもって知ったことだ。
移りゆく、止めることができない小さくて大きな変化。
周囲の変化に気づく度に生じるチクチクとした胸の痛みが寂しさなのだと分かり始めてきた頃、今年はもう終わりを迎えようとしていた。
12月23日ーー。
真冬の、それも今年1番の寒さを訴える、テレビの向こうのキャスターの声が聞こえてくる。
普段だったら「寒いのだりぃな」と小言を並べて、こたつから一歩たりとも出ない生活を送るのだが、なぜか今は冬に打ち勝つための温もりを捨てて、ただ綺麗な月が見たい。それもうんと大きい満月をーー。
今日はなんだか、そういう気分になった。
だからリビングを出て自室に向かい、厚めのコートと帽子に耳当て、手袋を装着する。
「おっと、これは忘れちゃいけないな」
机の上に置いてあった貼らないカイロの封をあけ、思いっきり振るった。寒さの中に行くにはもはや無くてはならない文明の力。手の中でそれが暖を帯びていくのを感じながら、翼は玄関に向かった。
「あれ?翼どこいくの?」
長靴を履く翼の行動を、可愛らしい声が制止させる。
ーーーしまった。
「……翠」
振り向くと、ピンクのエプロンをつけ、夕食の後片付けをしていた少女が心配そうな目で翼を見つめていた。
「ちょっと外散歩してくるわ」
「ええー??外すっっっごく寒いよ!?」
翠の性格上、外に行くと言えば止められることは予想はつく。
6歳から10年の付き合いである幼馴染の如月翠は、元々の面倒見のいい性格に加えて最近は世話焼きの母ちゃんみたいになってきた。とつくづく翼は思う。
「大丈夫だって。ちょっとコンビニ寄ってくるだけだから」
「ダメに決まってるでしょ!!もうすぐ学期末テストなんだし、風邪ひいたらどうするの??」
「おーう。大丈夫大丈夫。すぐ帰ってくっから!」
「あ、こら!待てつばさーー!!」
翠を強引に振り払う勢いで玄関の戸を開けて、外に走り出す。
ブワッと全身を包む肌を刺すような冷たい風。透明感のある乾燥した空気。空から降る小さな雪の結晶達。
「絵に描いたような冬だな」
息を吐くと白い煙が天へと昇っていく。
追って空を見上げると、漆黒の中に光り輝く星々がその存在を主張し続けている。
「おー、立派立派」
どこまでも続いているかのような密接された星達は川のように街の向こうへ連なっている。
夏に見えるのを天の川だと言うならば、これは何川なんだ?
そんな事を思いつつ、何も考え無しに星の川に沿って路地を歩く。すると、視界の右端に大きな満月が姿を現した。
「おお、すげぇな」
圧巻だった。欠けていない、黄金に満たされた大きな月。息を呑むような、もっと近くで見たい。その存在を目に焼き付けたい。そんな風に思わずにはいられない魅惑的で、怪しい今宵の月ーーー。
降る雪が強くなってきた。その分気温も下がっている気がする。晒された耳が氷のように冷たい。
けれど翼の中で月をもっと近くで見たいと言う欲求が膨れ上がっていく。
そうして、その欲求は翼の足を小さな丘のある公園に向けさせた。
小さな頃からよく遊んでいる公園。あそこの丘なら今の路地よりよく見えるはずだ。
そう思うのは必然だった。
そう、全ては必然だったのだーーーー。
この日、この夜、この瞬間、
満月が見たかった事。そのために丘のある公園へ向かった事。
まるで何かに導かれるように、些細な思いつきは必然の渦へと一体化していく。
夢のような現のようなあの強大な魔力を持つ満月は、透き通った空気も凍てつくような寒さも全てに熱を帯びさせ、翼の足を早めさせていく。そこには今まで感じたことのない得体の知れない高揚感が付随していた。
公園の入り口に差し掛かる。
真ん中の広場に目をやった瞬間、翼は足を止めた。
「……え?」
満月が照らす黄金の光。
その月夜の光に照らされ、地面に這いつくばった大きな白く儚く輝く羽根。
「……鳥…?」
いや、
「……人間か…?!」
黄金に照らされた羽根。
それは公園の真ん中で、倒れている少女の背中から生えているものーーー。
一瞬にして体と脳は硬直する。
理解を超えた存在と出来事に、翼はただただ見入るしかできない。
少女はうつ伏せに倒れている身体をそっと起き上がらせ、顔を上げる。翼に気づいたのか、彼をじっと見つめ離さない。
月と同じ、黄金に輝くその瞳が真っ直ぐに翼の瞳を射抜いている。
その眼差しは何を思い、何を語ろうとしているのかーー。
「……君は………一体」
翼がそう放つと、大きな羽根が開かれ少女は宙に浮き始め、そしてこう言った。
「……やっと…やっとだ。」
彼女の瞳は変わらず翼を離さない。
黄金に輝く魅惑的で、懐疑的で、奇妙な満月を背に背負ってーーー。
それはまるで、
「…天使、?」
必然的な出会い諸共、怪しく強大な満月の光が翼を飲み込もうとしていた。
【明日が綺麗に見えてれば】 episode.1 月光
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