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episode11.


「ふぇっくしょん!!うう…さむっ」


極寒の12月の下旬。空から降り続ける雪は、神社のあちらこちらに積もり、視界一面を銀世界へと変えている。それを綺麗と見惚れる頃に来る、冷たく痛みを伴うような寒さが、潮達の肌を刺した。


「ごめんね…。今年の冬は、特に寒くて」

「ううう。地上は大変だねぇ。こんな寒いの耐えられないよ」


そう言って両手で自身の肩を(さす)る潮は大きなくしゃみを連発した。


「天上は、ここまで寒くないのかな?」

「四季はまああるけど、ここまで寒くなったり暑くなったりはしないかな……は、っくしょん!!!」

「そうなんだね…。風邪ひいたらダメだし、戻ったら温かい飲み物飲みましょう」

「ついたぞ」


綾と潮の前方を歩いていた結がそう言って立ち止まる。その目の前には、はるか上を見上げる桜の大樹が存在していた。この寒さに負けず、枝には雪が降り積りながらも、まるでその全てに屈しないかのような生命力を発している。その存り様は花を咲かせていない状態でも、思わず感嘆の意を持たざるおえないほどだ。


「やっぱりだ」

結が木を見ながら言った。


「やっぱりって?」

「この木は天上の植物と同じだ」

「え…?天上のって…僕たちの世界の植物は地上では育たないんじゃなかったっけ?」


「その小僧が言うとる事は本当だ」


突然の声に結達は振り向く。


「あ……おじいちゃん」


そこには降り続く雪の中、赤い蛇目(じゃのめ)をさした月宝がいた。月宝は結達に近寄ると、大樹に手を伸ばす。そして何か感じ取っているかのように目を閉じて、大きく息を吐いた。


「この木は……地上で唯一の天上の植物だ。

そして唯一、天上の人間と意思疎通がとれる木でもある。」


「え?どういう事?」


本来、天上と地上では大気の流れや自然環境が大きく異なる。それは単に天上が空の上にあるからではなく、()()により、別空間として切り取られているからだ。


だから、この地上の理や、天候や災害等、それらの自然摂理は天上にとって常ではない。


そして、そう異なる二つの世界を繋げとめておけるモノはどちらの世界にとっても非常に稀で貴重なモノ。


「お主ら、ここへ来る時ゲートを開いただろう?そのゲートを開くには触媒がいる」


ゲートと言うのは、いわば二つの世界を繋げる扉の様なモノだ。天上と地上を行き来できる唯一の手段でもあり、そのゲートを開くには触媒と巫女導師の存在が必須だ。


「触媒……。それって白雪草の事かな?ゲートを開く時、巫女導師である雅が管理してる白雪草がそばにあった。」


「ああ。おそらくそれが触媒だ。巫女導師が管理する植物は、より()()()の加護を受けているからな。そして、同じように地上にもゲートを繋げるための触媒が存在する。」


そうして、その続きはお前が言え。とでも言うように、月宝は綾の方を見た。


「それが、この桜の木です」


冷たい風が強く吹く。その風が桜の枝を揺らし、大きな木々が吹かれる音が境内に広がった。それは、まるで自分の存在を主張している様にも思える。


「……あーーー。なるほどね。…だから僕たちが1番最初に降り立った場所が、ここだったってわけか」


「はい」


「天上と地上を繋ぐゲートの役割がこの木にあるんだったら納得はいく。そこの巫女導師がこの木を通して、雅の声を聞いたっていうのはな。」


それぞれがそれぞれで事実と事実を結んでいく。けれどそれは新たな疑問を次から次へと生み出していくのに等しい。まるで次の問題を解かなければ、全体像が明るみになる事がない点と点を結ぶクロスワードのようだ。


「だが、ここからが問題だ。綾」

月宝は緊張感を纏った声色と真剣な眼差しを綾に向ける。


「はい。」

綾は頷くと、今現在起こっている事情を話し始めた。


「実は、この木から聞こえていたのは雅さんの声だけじゃないんです。」


「え……どういうこと?」


「……その声は私が小学3年生になった時から断片的に聞こえていました。なにを言っているのかは聞き取れないことがほとんどでしたが……まるで、小さい女の子が泣いているような泣き声と、唯一はっきり聞こえたのが、()()()()()という声でした。


でも、雅さんの声が聞こえた3日前に、パタリと声は聞こえなくなりました。それと同時に、雅さんからのメッセージも来なくなって…今はまるっきり天上の人たちとやりとりをすることができなくなったんです。


それはお二人も同じじゃないですか?」


その問いに思い当たる節があるのか、結の瞳が微かに影を落とす。潮も困った口調で続けた。


「全くその通りなんだよね。これ?何かわかる?」


潮はそう言って自分の胸元の服をずらすと、首からかけられているペンダントを指差した。それは小さな銀色の金具の中に、赤くルビーの様な光を放つ石の様なものが収まっている。


そしてそれと同等のものが、結の左耳にもイヤリングとしてつけられていた。


「これはね、雅の力が宿っている宝石。

まあ、正確に言えば、天上の植物を刷って粉状にして固めたものなんだけど。

この宝石を介せば、声だけで雅と連絡が取れるようになってる。まぁ、電話みたいなものかな。でも、困ったことにここへ着いた昨日の晩からまっっったく応答がないんだよね」


「それは、、結君も同じ…ですか?」


「ああ。」


「この宝石は持続力そんなないから、連絡がちゃんと取れるのは長くもって1ヶ月って聞いてたんだけど、まさか到着して数時間で取れなくなるなんて思わないよね」


口調は明るいが、「困ったなあ」と笑う瞳には確かな憂いが刻まれていく。それはずっと深刻そうな表情を浮かべている結も同様だ。それも無理はない。

連絡が取れないと言う事は、帰る手段も閉ざされたと言っても過言ではない。帰ることができないかもしれない。全く知らない世界に取り残されたかもしれない。


そしてそれ以上に、天上人が地上に長く留まる事で彼らに生じる危険も全て綾は知っていたーーー。


2人の不安と困惑が、場を支配していく中、


「探しましょう」


綾はそんな雰囲気を壊すかの様に、大きな声でそう言った。


「私は巫女導師です。今の所、なんのお役にも立っていませんが……。でもきっと天上と連絡が取れなくなったのには理由があります。一時的なものかもしれないですし……。その理由をみんなで協力して探して、皆さんを天上に帰すお手伝いをしたいです…!」


拳を握りしめ、一生懸命そう伝える綾。


「……ダメ、でしょうか?」


自分の発言に自信が持てないのか、上目遣いで2人の様子を確かめる。気が弱そうな、大人しそうなこの子が、一生懸命になって自分たちの手伝いをしたいと言っている。その事実は、天上の2人を呆気にとった。


けれど、それと同時に驚かされる。

地上の人間は()()な存在だと伝えられてきたし、自分たちもそれを疑わなかった。


でも、目の前の一生懸命な彼女はまるでーーー。


「っふ。君、面白いね。

 地上には、()()()()()()もいるって事か。

 僕としては、地上の巫女導師の力を借りるのは大賛成なんだけど、どうかな?結。」


翡翠の瞳が、結を捉える。そして、ひだまりの中に咲く花の様な温もりを瞳に宿した綾も彼に視線を移した。


結は変わらず難しい顔をしていたが、何か観念したのか、綾と月宝に向き直る。


「仲良くするつもりはない。だが、力が必要なのは確かだ。」

そして、「よろしく頼む」と結は頭を下げた。


読んでくださりありがとうございました!

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