第9話 裏の誘いと決断の夜
翌日の昼休み――
「……なんだこれ……」
陽斗がスマホを見て、顔をしかめた。
そこには、拡散された1本の投稿があった。
『佐藤陽斗の基金チーム、裏で金を横流ししてるってマジ?』
『白石美咲と副総理がグル!? 裏に大人がいるだろこれ』
「……完全にデマじゃん」
玲奈がスマホをのぞき込む。
「でも拡散されるスピード、早すぎる……」
美咲は冷静に分析しながら、眉をひそめた。
「これは……“意図的”ね。普通の炎上じゃない」
放課後、陽斗は突然、教師に呼び止められた。
「佐藤、来客だ。職員室前に」
「来客……?」
そこにいたのは、スーツを着た二人の大人だった。
「初めまして。私たちは“未来総合開発株式会社”の者です」
柔らかい笑顔の女性と、無表情の男性。
「突然すみません。あなたの取り組みにとても感銘を受けまして……少し、お話できないかと」
「……企業の方、ですか?」
「ええ。ですが、単なる企業ではありませんよ」
男性が名刺を差し出す。
そこには、政界ともつながりが深い巨大企業のロゴ。
「あなたが作ろうとしている“基金”……我々と組めば、もっと早く、もっと安全に実現できます」
「……組む、って……」
女性が一歩近づき、柔らかい声で囁いた。
「――“あなたの負担を、私たちに預けてください”」
その夜。
屋上では、美咲・玲奈・結衣が珍しく3人揃っていた。
「陽斗、呼び出されてから戻ってこないけど……」
「まさか、変な奴らに絡まれてんじゃ……」
玲奈がそわそわとフェンスにもたれかかる。
「……企業の“勧誘”かもね」
美咲が低い声で言った。
「企業?」
「ええ。政府と裏でつながってるような大企業が、陽斗の資金を利用しようとしてる可能性がある。彼を“取り込む”ために」
結衣が珍しく真剣な顔になった。
「やばいじゃん……陽斗、断れるかな……」
一方その頃、企業の応接室。
陽斗は静かな空気の中、スーツの2人と向かい合っていた。
「私たちはね、あなたに“英雄”になってほしいんです」
「英雄……?」
「あなたの名前で、我々の計画は進む。そしてあなたは何もしなくても称賛される」
「でも……それって、俺の意思じゃないですよね」
男性が笑った。
「高校生に“国家規模の資金”を管理できると、本気で思っているんですか?」
「……!」
胸に、痛いところを突かれる。
「あなたがいくら理想を語っても、世の中は甘くない。我々と組めば、失敗も責任もあなたの手を離れる」
「……それって、つまり“操られる”ってことじゃないですか」
陽斗の声に、女性が表情を変えた。
「違いますよ。これは“救い”です」
女性の目が、どこか冷たく光った。
屋上。
玲奈が立ち上がる。
「……あたし、迎えに行く」
「落ち着きなさい」
美咲が腕を組み、夜空を見上げた。
「……でも、もし陽斗が向こうについたら……」
玲奈の声が震える。
「……そんなこと、ないよ」
結衣がぽつりと呟いた。
「アイツ、見た目はちょっと優柔不断だけど……“本気で人を信じる”タイプだもん」
その言葉に、玲奈も美咲も黙って頷いた。
企業の言葉を聞きながら、陽斗は思い出していた。
両親、美咲、玲奈、結衣、木島……
みんなの顔。
屋上で見上げた夜空。
(俺は……ただ金を持ってるだけの“お飾り”にはなりたくない)
陽斗はゆっくりと立ち上がった。
「……すみません。俺、あなたたちとは組めません」
「……なんですって?」
「俺は、自分の意思でこのお金を使いたい。人に預けて“楽”するくらいなら、怖くても前に進みます」
沈黙のあと、男性が皮肉な笑みを浮かべた。
「……いいでしょう。あなたの“選択”が、どうなるか……見ものですね」
屋上(夜遅く)
陽斗が戻ると、3人が待っていた。
「……遅い!」
玲奈が思いっきり背中を叩く。
「いってぇ!」
「心配したんだからな!」
その隣で、美咲は腕を組んで小さく微笑んだ。
「……あなたの答え、聞かなくてもわかるわ」
「……へへ、まぁな」
結衣がにやっと笑って、背中を軽く押す。
「よくやった、リーダー!」
夜空の下、4人の影が並んだ。
確かに、それはまだ未熟で、危うい。
でも――そこには本物の“意志”が宿っていた。




