第8話 夜の屋上と動き出す敵
数日後――
基金チームは本格始動していた。
学校の空き教室は、今やモニターとホワイトボードが並ぶ仮設オフィスと化している。
「はい、ここの文言は“希望”とか“未来”みたいな柔らかいワードに変えて〜!」
結衣がノートPCを操作しながらSNS用の広告文を次々と作成していた。
「……お前、広報向いてるな」
「でしょ〜? インフルエンサーなめんなよ!」
一方で、教室の隅では木島が超高速でキーボードを叩いている。
「ファイアウォール強化完了……アクセス履歴監視システム稼働……っと」
「な、なんか映画みたいになってきたな……」
「俺、こういうのが一番楽しいんだよね」
無表情のまま口元だけがニヤリとした。ちょっと怖い。
放課後、美咲は陽斗と共に会議資料を整理していた。
「今日の進捗、悪くないわね」
「みんなすごいよな……正直、俺、何もできてない気がする」
「いいえ。あなたが“中心にいる”ことが何より大事なの」
「……俺が、中心……?」
美咲は資料を閉じ、真っ直ぐな目で陽斗を見た。
「人はね、旗がなきゃ集まらない。あなたは“旗”なのよ」
その言葉が、妙に胸に響いた。
夜。
陽斗は、放課後の学校屋上に一人残っていた。
星がよく見える夜。都会の喧騒が少しだけ遠い。
「……旗、か。俺が……」
呟いたその時――
「なに黄昏れてんの」
屋上のドアが開き、玲奈が顔を出した。
「お前も残ってたのか」
「陽斗がいそうだなって思って。……ほら」
玲奈は缶コーヒーを二本持ってきていた。
「ブラック……ありがと」
二人はフェンスに並んで座り、缶を開ける。
少しの沈黙。心地よい夜風が髪を揺らした。
「なあ、玲奈」
「ん?」
「俺、ほんとに……やっていけると思う?」
「は? いきなり弱気?」
「いや……正直、怖いんだよ」
「……ふふ、らしくないじゃん」
玲奈は少し笑い、陽斗の肩に頭を預けた。
「でも、そういうところも……嫌いじゃない」
「お、おい……!?」
不意打ちの接近に、陽斗の心臓が跳ね上がる。
そこへ――屋上のドアが再び開いた。
「……なにやってるの、二人で」
ジャケット姿の美咲が立っていた。月明かりの下、少し睨むような目つき。
「べ、別に! 黄昏れてただけ!」
「ふーん……“だけ”ね」
美咲は陽斗の隣に座り、玲奈と無言の視線戦。
(うわ、空気がピリピリしてる……!)
「陽斗、ひとつ提案があるの」
「え、こんな夜に?」
「夜だからこそ、よ」
美咲は手帳を取り出し、基金プロジェクトの“新たな案”を見せた。
「“未来都市構想”――私たちが資金を元に、地方に新しい街をつくる計画。政府も乗り気だったわ」
「新しい街……!?」
「ただ、これを進めると……本気で“敵”が動き始める」
玲奈と陽斗が顔を見合わせる。緊張が走った。
一方その頃、敵勢力は動き始めていた。
「標的は……佐藤陽斗だな」
「資金を奪うには、まず“人間関係”を壊すのが早い」
「内部から……崩すか」
モニターには陽斗と玲奈、美咲が屋上で並ぶ姿がズームされていた。
「……高校生風情が、国を動かす? 笑わせるな」
屋上に戻る。
夜風が三人の髪を揺らす。
「……敵、動き出すんだな」
「そうよ。だからこそ――誰を信じるかが一番大事になってくる」
美咲の言葉に、玲奈も真剣な目でうなずいた。
「陽斗、私たちがそばにいる。……絶対、裏切らない」
「……ありがとう。二人がいてくれて、よかった」
夜空の下――
三人の間に、まだ名前のない“絆”が、確かに芽生え始めていた。




