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第5話 基金構想と美咲の野望

放課後の図書室。

 窓から差し込む夕日が、静かな空間を金色に染めていた。

「――あなたのお金、私に“使わせて”」

 白石美咲の一言に、陽斗の思考が一瞬止まった。

「……え、いきなり何言ってんの!?」

「文字通りの意味よ。あなたが相続した莫大な資金……“国家予算規模”のそれを、私の構想のために使わせてほしいの」

「こ、構想……?」

 美咲は鞄から一冊の分厚いノートを取り出し、机に置いた。

 そこには、細かい文字と図、グラフ、矢印がぎっしりと書き込まれている。

「これは……」

「“日本再構築プロジェクト”の骨子よ」

「に、日本再構築!?」

「今の日本は、衰退の一途を辿っている。人口減少、地方の過疎化、老朽化したインフラ、非効率な行政……どれも“分かっていて誰も本気で直さない”」

 美咲はまっすぐ陽斗を見つめる。瞳には迷いがなかった。

「でも、あなたのお金があれば、話は別。国の援助を待たず、民間主導の基金として、迅速かつ大胆に改革を進められる」

「民間の……基金?」

「ええ。“佐藤基金”とか“未来創造財団”とか、名前は何でもいい。あなたが資金提供者、私は計画の実行責任者。政府とも交渉して、実質的に“新しい国家プロジェクト”を立ち上げるのよ」

「……ちょっと待って、そんなの高校生の俺ができるわけ……」

「“高校生だからこそ”できるのよ」

 美咲は淡々と、しかし力強く続けた。

「あなたは、国も国民も無視できない存在になった。7兆円という数字は、“一個人”の枠を超えている。……つまり、あなたの判断ひとつで、日本が変わるの」

「……」

「もしあなたが、国に丸ごと資産を預けてしまえば、政治の道具になるだけ。でも、あなたが“意思”を持って使えば、逆に国を動かす側になれる」

「……美咲、お前……ずっとこんなこと考えてたのか?」

「ええ。小学生のころからね」

「は……? まじで?」

「笑っていいわよ。でも私は本気。これが私の“夢”だから」

 美咲は初めて、少しだけ口元を緩めた。

 普段は完璧でクールな彼女の、その一瞬の表情に――陽斗の胸が不意に高鳴った。

「……でも、俺、本当に何も知らない。ただの高校生だよ?」

「知識なら教える。必要な人材も集める。政治家も官僚も、あなたの資金力の前では逆らえない。……ただ一つ、あなたに必要なのは――」

 美咲は机を指でトン、と叩いた。

「“自分で決める覚悟”だけよ」

 その言葉が、まっすぐ陽斗の胸に突き刺さった。

 帰り道。

 校門の前には、まだ数台の報道車が残っていたが、玲奈が容赦なく間を割って道を作ってくれた。

「で? 何の話だったんだよ、あの才媛様と」

「……うーん、なんて言えばいいか……日本を変えようって話」

「……は?」

「俺も意味わかんなかったけど、マジだった」

「ちょ、ちょっと待って、それマジで国家案件じゃん……!」

 玲奈は頭を抱える。

「お前、昨日までただのクラスの男子だったのに、今日には“日本変える男”になってんじゃん……」

「俺だって混乱してるよ!!」

 家に帰ると、父と母もニュースを見ていた。

 テレビでは、国会議員たちが「この資金をどう活用するか」を真剣に議論している。

『――7兆円という資金を、政府が管理すべきか、それとも個人の意思を尊重すべきか――』

「……もう、完全に国の話になってるな」

「お兄ちゃん、すごい人になっちゃったね……」

「全然実感ないけどな……」

 夜、自室で布団に入った陽斗は、昼間の美咲の言葉を何度も思い出していた。

『――あなたが“意思”を持って使えば、逆に国を動かす側になれる』

「……俺が、国を……?」

 現実味はなかった。でも、心の奥に小さな炎が灯った気がした。

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