第4話 マスコミの包囲網、学校の反応
「――陽斗! 起きなさい!」
翌朝、母の声がいつもより数段大きかった。
「ん……なに……まだ6時じゃん……」
「窓、見て!」
「窓……?」
カーテンを開けると――
玄関前の道路に報道車とカメラマンがぎっしりと並んでいた。
「うわっ……なにこれ……!!」
「おはようございまーす! 陽斗さん! 一言お願いします!」
「お金の使い道は!? 恋人はいらっしゃいますか!?」
「政府との関係はどうお考えですかー!?」
「うっわぁぁぁ……」
まだ寝ぐせの残る頭に、いきなりカメラが向けられる。
陽斗は反射的にカーテンを閉じた。
「ちょ、ちょっと母さん! 外やばい!」
「見れば分かるわよ! 朝から家の前で待ち構えるなんて、非常識にもほどがあるわ!」
母は怒り心頭。
父はネクタイを締めながら「……仕事行ける気がしないな」とため息をついた。
「お兄ちゃん、外に出たらサイン求められるんじゃない?」と美羽が笑っている。
「笑い事じゃねぇよ……!」
学校へ向かうにも、この人だかりを突破しなければならない。
しばらくして、パトカーが数台やってきて報道陣を押し返し、ようやく家族は家を出られた。
「陽斗さん! 将来は政治家を目指すんですか!?」
「そのお金で何を――!」
「ちょ、ちょっと……!!」
父が盾のように立ちふさがり、母が陽斗の腕を引っ張る。まるで芸能人一家の登校だった。
なんとか電車に乗り込むと、周囲の視線が一斉に集まる。
「……見られてるな」
「そりゃそうよ……昨日の夜からずっとニュースだもん」
スマホのSNSには「#7兆円高校生」がトレンド1位。
電車内でも「あの人じゃね?」「マジで本物だったんだ」とひそひそ話が聞こえてきた。
学校の正門も異様な雰囲気だった。
報道陣+野次馬の生徒たちがぎゅうぎゅうに詰まっている。
「陽斗くーん!! コメントお願いしまーす!!」
「ちょっ、ここ学校だから!!」
「え、マジで陽斗!? 7兆円って本当!? サインちょうだい!」
クラスに入ると――当然、そこも騒然。
「うわ、来た! 本物だ!」
「佐藤〜!! 7兆円、1兆だけでも貸してくれよ!」
「おいおい、神様が来たぞー!!」
「うるさいうるさい!!」
いつものクラスが、今日は完全に別世界だった。
そんな中、一人の女子がずかずかと近寄ってきた。
「……陽斗」
「うわ、玲奈……」
幼なじみの 高瀬玲奈。
黒髪ポニーテールで運動神経抜群、性格は男前。昔から何かと世話を焼いてくる存在だ。
「アンタさ……テレビでバンバン映ってたけど、何やってんの?」
「何やってんのって、俺だって知らないよ……勝手にニュースが……」
「はぁ……まったく。朝、駅前でも騒ぎになってたし、学校来るまでが事件じゃん」
「俺だって、ただ普通に学校来たかっただけなのに……」
「ま、いいけど。変なやつに付きまとわれたら、蹴り飛ばしてやるから」
「……頼もしいな、おい」
すると今度は、クラスの空気が一瞬で静まった。
――教室のドアから、クールな美女が入ってきたからだ。
「……おはようございます」
長い黒髪を揺らして現れたのは、学年一の才媛として有名な 白石 美咲。
学業トップで、容姿端麗、完璧超人のような存在。
普段は他人に興味がなさそうな彼女が――まっすぐ、陽斗の席に向かって歩いてきた。
「佐藤くん。少し、話があるの」
「えっ……え? な、なに……?」
「放課後、図書室に来て」
「と、と、図書室!?」
「大事な話よ。……断らないでね」
それだけ言って、美咲はすっと去っていった。
「おいおいおい……美咲様が自分から男子に話しかけたぞ……」
「これは……始まったな」
「なにが!?」
教室がまたざわめき、玲奈がじとーっと陽斗をにらんだ。
「アンタ……また面倒なことになってるじゃん」
「俺、なにもしてないんだけど!?!?」
その日の授業は、当然ほとんど集中できるわけもなく。
教師も「えー……まぁ……佐藤、ちょっとした国民的スターになっちゃったけど……」と困惑気味。
そして――放課後。
陽斗は玲奈に背中を押されながら、図書室へと向かう。
「行ってこいよ」
「なんで玲奈までニヤニヤしてんだよ」
「面白そうだから」
「お前な……」
図書室の窓際の席。
美咲はすでに待っていた。
静かな空間に差し込む夕日が、彼女の横顔を美しく照らす。
「……来たわね」
「う、うん……」
「単刀直入に言うわ。――あなたのお金、私に“使わせて”」
「…………は?」
放課後、図書室の空気が一瞬止まった。




