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第21話 青き雷鳴の騎士と、最悪のボス。

 勘違いをしている。 

 目の前の魔法生命体(ゴーレム)は、確かにリリィを見てレイズと言った。


「ジン、私は」


 リリィが語り掛けようとするも、ジンの耳には届かず。

 青き雷をその身に纏うと、ジンはその身を悠々と空へと浮かべた。

  

「護るべき者を忘れた愚か者が、例え傀儡であったとしても万死に値する」


 両の掌から青き閃光がほとばしると、それを握り、ジンは両の手を重ねて突き出した。


「青雷型二式・天龍雷光」


 大きく口を開いた龍のような雷撃が、リリィを押さえつけている魔法生命体(ゴーレム)を襲う。 

 牙が胴体を破砕し、噛みついたまま空へと駆けあがる。

 

「爆」


 天高く舞い上がった傀儡の魔法生命体(ゴーレム)は、激しい放電音の後、その身を爆散させた。

 砕けた身体をチリひとつ逃さんと、残る電撃が破片を消滅させていく。

 不思議と、その魔法生命体(ゴーレム)の表情が、リリィには綻んでいるように見えた。

 

「……うっ」


 ズンッと、リリィは背中を死神に踏みつけられ、首元には鎌が押し付けられる。 


『お前、見惚れてんじゃねぇよ』


 持ち上げただけでリリィの首に食い込み、血が滴る刃。

 恐るべき切れ味に、冷や汗が落ちる。

 

『また同じ状況だな、母なる素体(ドール)を人質に取られて、また何も出来なくなっちまうな』

「……貴様」

「また俺の勝ち、また俺の勝利、またお前の負け、ずっと負け。クカカ、クカカカカッ!」


 魔法生命体(ゴーレム)魔王兵器(ワールドイーター)相手に後れを取るはずがない。

 何千年もかけて研究しつくした相手なのだから、戦えば勝利しかないはずなのに。

 母なる素体(ドール)が、私たちが、足手まといになっている。

 リリィの額に、青筋が浮かんだ。


「ふざけんじゃないわよ」

『あ?』

「私たちが人質に取られたまま、何も出来ない可愛いだけの存在だと思わないで!」


 リリィのドレスの裾部分が一斉に開くと、そこから青白い炎が噴出した。

 鎌の刃から逃げるように飛び上がると、噴出している炎を死神へと向ける。


 青白い炎は不思議と、死神の足場をカチカチに凍らせた。

 熱ではなく冷却、通常の認識とは異なる結果に、死神の足が止まる。


「ジン!」

「ああ、レイズ、お前のお陰だ」


 右手を青く発光させると、黒髪を靡かせてジンは死神へと接近する。

 

「青雷型三式・極光の青――ライトザ、タイローニング!」


 衝撃で、施設全体が揺れる。

 青い稲妻が死霊型魔王兵器(ワールドイーター)を包み込んだ。


『クカカカカ! そうか、今回は俺の負けか! クカカカカ!』

「今回は、じゃない。これで終わりだ」

『残念だったな! 俺は死霊型魔王兵器(ワールドイーター)! 何度殺されても明日の夜には復活するのさ! そこのオレンジ色の母なる素体(ドール)、お前のことも覚えたぜ!? 絶対にいつの日か、俺様が全てを奪い取ってやる! 絶対にだ! クカカカカカカ!』


 剥き出しの歯をカチカチと鳴らせながら、高笑いと共に、死霊型魔王兵器(ワールドイーター)は消滅した。

 だが、消滅はしたものの、マテリアル・コアの破壊は出来ていない。

 毎晩現れ、リリィを襲い続ける。この言葉は、きっと真のことなのだろう。


 幾何の不安を抱えるも、死霊型魔王兵器(ワールドイーター)の撃破は完了した。

 リリィは周囲を見回しながらも、青き雷をまとったジンへと歩み寄る。


「ジン、あの、私」

「……分かっている。どう見てもレイズではないさ」


 すると、ジンはリリィを見ながら、こう言ったのだ。


「俺の相方は、もっと静かな人のはずだからな」

「……むぅ」

「目覚めさせてやる事も出来ず、眠ったまま奴に襲われ、彼女は果ててしまった。魔法生命体(ゴーレム)として一番大事な人を、俺は失ってしまったんだ。だが、こうして母なる素体(ドール)の護衛をすることが出来た。きっとレイズも褒めてくれる……そうに違いないさ」


 寂し気に語るジンの視線の先には、今もなお、眠り続ける相方がいる。

 ジンの言う通り、おしとやかに喋り、微笑み、ジンの活躍を喜んでくれたに違いない。

 

「ジンは今起動しているのでしょ? レイズちゃんを起こすことは出来ないの?」

「このコアは、バッカス中将のモノだ。一時的に借りているだけに過ぎない」

「え、バッカス中将の?」


 見れば、胴体のみとなったバッカス中将のコアから、緑色の輝きが失われている。


「ああ、君を助けて欲しいと言われてね。レイズの起動には、俺のコアが必要だった。だが、それは死霊型魔王兵器(ワールドイーター)によって破壊され、既にこの世に存在しない。レイズの目を覚まさせる方法は、もうこの世に存在しないんだ」

「そうなんだ。レイズちゃん、お友達になれたかもしれないのに」

「……そうだな。君の友達に、なれたのかもしれないな」


 レイズと二人語り合いながら、ジンとバッカス中将が自分たちを見守る。

 そんな未来があったのかもしれない、そう思うだけで、リリィは寂し気に涙を浮かべた。

 

「我々は魔法生命体(ゴーレム)だ。コアさえあれば、顔を失い、四肢を失ったとしても、時間さえ掛ければ復活できる。君の相方であるバッカス中将も、すぐにでも復活することだろう」

「ジン……」

魔法生命体(ゴーレム)母なる素体(ドール)は、魔王兵器(ワールドイーター)を破壊することが使命だ。オレンジ色の君よ、どうか世界から、魔王兵器(ワールドイーター)を駆逐して欲しい。それが、幾万といる同士、幾億といる人々の願い……そして、役立たずな俺と、今もなお、世界を救う夢を見る、彼女の願いだ」


 ジンのコアは輝きを失い、代わりにバッカス中将のコアが輝きを取り戻す。

 もう目覚めることのないであろうジンの前に立ち、リリィはいつかのように、両の手を合わせた。

 どうか安らかに、愛する人の為に戦い、その身を果てた戦士に、ひと時の休息を。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジン、遂に仇を討てたね…と思ったら、相手も相当にしぶといですな。 と言うか、コアって貸し借り出来るんですな。 この感じだと、エネルギーの一時的な貸与みたいな感じなのかな? せめてジンと…
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