陰謀の対価
首からかけているネックレスの輝きに思わず顔がほころぶ。リリアーヌ様から頂いたブローチは身に着けるところがなかったので紐をとおしてネックレスに改造したのだ。それは私が一人前と認められた証拠のような気がしたからだ。
「陸が見えたぞ~!」
ついにおよそ1週間及ぶ航海が無事に終わろうとしていた。大陸北東部、世界最北端の巨大な半島が、すでに雪化粧をした姿で私たちの前に姿を現した。
ニルド王国 フィーヨル港は北東部最大の港として有名らしい。地図を見ると大きく湾曲した半島のかなり内側に位置していて比較的波も穏やかな良港。とはいえかなりの辺境部の港である。大型船が数隻、中型船も10隻も入れば手狭な感じだ。
「手を貸せ!早く荷を下ろしてしまうぞ!」
「この荷をローズ号に移してくれ!すぐに出発する」
「樽を3つだ!ソリの準備はできている!早く積み込んでくれ」
ついさっき錨を落としたばっかりなのに荷下ろし場にはどこにこれだけ人がいたのかと思うほどの喧騒があたりを包み込んだ。
「すごい人数ね・・・」
荷下ろしには馬力が必要なので非力な私は邪魔にならないよう隅っこでロープのかたずけや修繕を行っていた。
「それだけ危機意識が高いってことです。どの国もやきもきしていたみたいですね」
非力代表ジェイドさん、涼しい顔して荷運びの様子を眺めています。
「早く届けられてよかったね!」
「ええ、貴女のお陰です。本当に感謝しています」
「こんなところで油売っていいの?お偉いさんでしょう?」
「もう役目は終わっていますよ。さっき各国代表者との契約書にサインを済ませてきました」
「へえ、通りで姿が見えないと思った」
「ははは、私も暇人ではありませんからね。それはそうとレイさん、そのネックレス見せていただけませんか?ああ、そんな目で見ないでください。汚しませんし、盗みません!ちょっと見るだけです。ちょっと」
「う~ん、そこまでいうなら・・・」
しぶしぶ、しぶしぶネックレスを渡す。暇さえあれば磨いていたので曇りひとつない。
「・・・・・これは・・・ほんとすごいものですね・・・」
「そりゃあ、リリアーヌ様から頂いたものですもん。いいものに決まってます!」
「あはは、そうですね。確かに幸運のお守りですもんね」
どことなく笑いが乾いているよ。ジェイド。
「・・・・彼女、本気だ・・・私も負けずに・・・(小声過ぎて聞こえない)・・・・そうだ。レイさん。私からもお礼受け取ってもらえませんか?」
「ん?もらう理由なんてないけど?」
「いえいえ、薬が無事到着したのも貴女の勇気の賜物です!是非ともお礼を受け取ってください」
「ん~~でも仕事だったし・・・別に・・」「リリアーヌ様と同じくらい、いやそれ以上効果のある幸運のお守りですよ?ここは船の皆さんのために受け取っていたほうが断然、お得ですよ。そうしましょう。いやそうするべきです!!」
「そ、そこまで言うなら・・」「ではすぐに用意してきます!」
ど、どうしたんだろうこんな強引なジェレイドさん初めてだ。
ジェレイドさんが飛び出してからしばらくたった。区切りがいいところまで作業したし遅めのランチでもとりに行きますか。
思い立ったが吉日。私は早速船を降り、港には必ずある飲食店兼居酒屋兼宿と3つの機能を兼ね備える大型の店舗に入る。案の定、少し遅い時間なせいか客足はまばらだ。
「いらっしゃい。何にする?」
少しくたびれている女将さんらしき人物が聞いてきたので
「すぐできる定食ってあります?できれば肉がいいんですが」
「はいよ。フライでいいかい?」
「お願いします」
そんなやり取りの後、しばらくすると目の前にベーコンと鳥を揚げたもの、黒麦のパンが出された。
「銅貨60だ。ん、確かに毎度!ゆっくりしてってくれ」
さすが港町。一つ一つが大盛りだ。私が大量の食料と格闘していると
「・・・ちょっといいかな?お嬢さん」
目の前にシリウスのおっさんが・・・いた。
「おぼっさん!(モグモグ)びょくがお(モグモグ)だぜたな(モグモグ)」
「・・・・飲み込んでからしゃべりなさい」
それもそうだ。一気に飲みほそうとしてのどに詰まらせると何も言わずに水の入ったコップを差し出した。
「!!!!(ゴックン)ぷは!おっさん!よく顔だせたな」
やっと言えた。あ、あと水サンキュウ。
「十分わかっているよ。私が浅はかだった。すまない」
いきなり、公衆の面前で頭を下げられた。
「!!お、俺に謝ったって許してやんないぞ!」
「それもわかっている。しかい、言わないよりは言ったほうがいい場合もあるから、な」
やっぱり打算的だな。
「おっさんは何しに?それだけだったらもう帰れ!」
「感謝しているんだ、心の底からな。それだけは事実だ。これだけはちゃんと覚えておいてくれ。坊主、これから起こることはお前には何の責任もない。それだけは忘れるな・・・」
席を立つおっさん。
「ちょっと、それどういう意味?!」
「唇にパン屑ついてるぞ」
「え?」
慌てて口をゴシゴシと擦る。
「じゃあな、坊主!」
そういうとおっさんは店を出て行った。
「ちょっと待てよ!おっさん!」
私が席を立った瞬間
『バン』
近くて遠い場所から銃声が聞こえた。
「!!おっさん!」
店を飛び出ると頭を打ち抜かれたおっさんと銃口からまだ黒煙を出している先込式単発拳銃が一丁落ちていた。
即死であった。しかしおっさんの顔には恐怖もあきらめもなかった。これまで見た中で最高のおっさんの微笑みが深く掘りこまれていた。
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