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幻覚教育  作者: 月海みやび


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6/12

Case6

目には目を、歯には歯を⋯

暴言には暴言を、暴力には暴力を⋯


犯した罪の重さは、痛みを体感しなければ理解出来ない。


ならば、痛みを知ればいい。

そして、自らの過ちを悔い改めよ⋯


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「早瀬玲香さんですね?」

「そうだけど⋯誰?」

「申し遅れました。幻覚教育管理局の久世と申します。」

「⋯幻覚、教育⋯?」

「痴漢の⋯」

「っ⋯!痴漢!私、痴漢されました!」

「⋯は?っ⋯失礼致しました。」

「助けてくれますよね?」


弱々しい声で、ジッと見つめる。


「⋯はい。私は、苦しむ方の味方ですので。」


⋯やっぱり、弱々しい女を演じれば⋯

老若男女関係なく、引っ掛かる⋯

世の中、楽勝ね⋯


思わずこぼれそうになる笑みを抑える。


「こちらの、ゴーグル一体型ヘルメットを装着させて頂けますか?」

「もちろん⋯それで救われるなら⋯」


気味の悪いヘルメットに嫌悪感を覚えながら、貼り付けた笑顔で受け取る。


⋯何、これ⋯

こんなものを被らせて、どうやって救うつもり?


本心を見透かされないように、ヘルメットを被った。


「では、拘束させて頂きますね。」

「えっ⋯?拘束!?」

「決して、痛くはしませんので。最後まで安全に⋯」

「いいから⋯!早くして⋯!」


長くなりそうな説明に、うんざりする。


⋯何が、幻覚教育よ⋯

幻覚で人を救えるなんて、本当に思ってるわけ?

馬鹿馬鹿しい⋯


「では、痴漢される世界へ⋯。いってらっしゃいませ。」


聞こえた言葉に反論しようとした瞬間、世界が変わる。


『っ⋯!』


気付けば満員電車の中、お尻を撫でられていた。


⋯嫌だ、気持ち悪い⋯


振り返ってみても、誰が触っているのかわからない。

触っている腕を掴もうとしても、上手く逃げられてしまう。


『っ⋯』


大声を出そうとしても、何故か声が出ない。


っ⋯何で⋯?

大声で助けを求めれば⋯


そこまで考えて、ハッとする。


⋯大声を出せば、痴漢は捕まるかもしれない。

でも⋯この場に居る全員に、痴漢された事を知られてしまう。


悪い事をしているのは、私じゃないのに⋯

私が、好奇の目に晒される⋯


周りに知られる事が恥ずかしく思えて、必死に声を抑える。


『⋯ヤバ⋯顔真っ赤じゃん⋯』


不意に聞こえてきた笑い声に、顔を上げる。

辺りを見回しても、誰の声だったのかわからない。


っ⋯女の声だった⋯

それも、私の反応を楽しんでるような⋯


⋯楽しんでる?

痴漢される私を見て?

⋯違う。

痴漢をして、楽しんでるんだ⋯


自分が人にしていた事。

それを、私がされている⋯


『っ⋯やだ⋯やめて⋯』


震える声で呟く。


私が、悪戯心で痴漢をした人も⋯

⋯こんな気持ちで⋯


「っ⋯ごめんなさい⋯」


視界が歪み、世界が戻る。


「痴漢される人の気持ち、理解出来ましたか?」

「っ⋯はい⋯」


自分が、どれだけ考え無しだったか⋯

軽い気持ちでしていた事が、こんなにも不愉快な事だったなんて⋯


「理解出来たのなら、あなたはもう大丈夫です。」


優しい声に、安心して頷いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「報告します。痴漢の罪で幻覚教育対象者となった、早瀬玲香ですが⋯。その後、痴漢行為は見受けられません。これにて、幻覚教育を終了致します。」

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