↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万物鑑定士、辺境で経済を制す  作者: 春野ケイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
62/81

第62話「据え置かれた予算」

生徒会室で見た数字が、頭から離れないまま数日が過ぎた。授業の合間にも、ふとあの帳簿の数字が浮かんでくる。放課後、俺はエリーゼに、それとなく相談を持ちかけた。


「生徒会の予算配分に、少し引っかかる点があって」


「珍しいですね、ノア様がそんな顔をするなんて」


エリーゼは手元の教科書を閉じ、こちらに向き直った。俺は、差し障りのない範囲で事情を話した。中央貴族出身者の多いクラブへの配分が、活動実績に対して厚いこと。それに手を付けるのが、政治的に難しいらしいこと。


エリーゼの表情が、わずかに引き締まった。


「そのクラブ、名前は分かりますか」


「馬術部、と聞きました」


「……ああ、やっぱり」


エリーゼは、小さくため息をついた。


「馬術部の部長は、確か中央の伯爵家の方だったはずです。うちのような、立場の弱い家からすると、正面から異を唱えるのは、勇気がいる相手ですね」


「エリーゼさんの家も、そうなんですか」


「シュタイン家は、家格こそそれなりですが、後ろ盾となる実力に乏しいんです。だからこそ、こういう場面では、目立たないようにするのが処世術になっています」


「エリーゼさんも、そういう場面、経験あるんですか」


「何度も。声を上げたい場面でも、飲み込んできたことが、正直たくさんあります」


その言い方には、諦めというより、静かな悔しさが滲んでいた。


その言葉に、俺は少し考え込んだ。政治的な力関係が絡む問題は、鑑定だけでは押し通せない。辺境にいた頃、ヘルマン商会や商業組合とやり合った日々を思い出す。あの時も、数字だけでなく、周りの協力があってこそ道が開けた。


「もし、事実だけを積み上げて示せたら、どうでしょう」


「事実、というと」


「馬術部の実際の活動日数、参加人数、施設利用時間。感情論じゃなくて、数字で見せる形にできれば」


エリーゼは、しばらく考えてから頷いた。


「それなら、少なくとも表立って反論はしにくくなりますね」


翌日から、俺は生徒会の権限で、各クラブの活動記録を取り寄せた。届いた書類は、思ったより分厚かった。放課後の空いた時間を使い、一枚ずつ目を通していく。馬術部の記録に目を通すと、想像していた以上のことが見えてきた。


――景色に薄く数字が重なる。


〈対象:馬術部の活動実績(直近一年)/活動日数:他クラブの平均を大きく下回る/参加人数:名簿上は多いが、実際の出席率は五割未満/配分予算に対する一人当たりの実質活動費:他クラブの約三倍〉


数字は、想像以上にはっきりとしていた。単なる慣例の据え置きではなく、実態との乖離が、かなり大きい。


「これなら、誰が見ても分かる差ですね」


エリーゼが、資料を覗き込みながら言った。


「あとは、これをどう出すか、です。正面からぶつけると、角が立つと思います」


「相手を追い詰めるんじゃなくて、見直しの機会として提案する形にする、とか」


「それなら、生徒会長のヴィンフリート様に、まず相談してみるのはどうでしょう」


俺は頷いた。数字は揃った。あとは、それをどう届けるかだった。


窓の外、夕暮れの校庭で、馬術部の生徒たちが談笑しながら歩いていくのが見えた。彼らにも、それぞれの言い分があるのだろう。それでも、今の配分が正しくないことは、数字が示している。


「相手を悪者にするつもりは、俺にはないです。ただ、公平にしたいだけで」


「その言い方、忘れないでくださいね。角が立つと、味方になるはずの人まで、敵に回ってしまいますから」


エリーゼの忠告に、俺は素直に頷いた。数字の正しさだけでは、人は動かない。それも、この一年で学んだことの一つだった。


「明日、ヴィンフリート様に話してみます」


「はい。私も、できる限り力になります」


エリーゼの言葉に、俺は少し心強さを感じた。数字だけでなく、人の後押しがあることの意味を、また一つ知った気がした。


(次回「馬術部の言い分」へ続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。