↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
万物鑑定士、辺境で経済を制す  作者: 春野ケイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/81

第43話「保証人」

申請を出してから、四日ほど経った朝だった。屋敷の中は、次の出荷に向けた準備でどこか慌ただしい空気が続いていた。そんな中、マルクから急ぎの手紙が届いた。


「組合の審査で、待ったがかかったそうです」


クラーラが手紙を読み上げながら、眉をひそめた。


「理由は、ゴドウィンさんが取引相手だから、保証人としては公平性に欠ける、と」


「取引相手だから、信用できないってこと?」


「表向きはそうです。でも……」


クラーラの言いたいことは、俺にも分かった。組合の審査に、また別の手が回っているのだろう。せっかく見つけた抜け道も、これでは意味がない。


その日の昼、マルクに連れられてゴドウィンが屋敷に駆けつけた。いつもの余裕はどこにもなく、額には玉のような汗が浮いていた。


「申し訳ありません、私が保証人になったせいで、かえって話をこじらせてしまったかもしれません」


「ゴドウィンさんのせいじゃない。向こうが、そう出てくるのは織り込み済みだったはずだ」


俺はテーブルに広げられた組合からの通知に目を落とした。文面は硬いが、その裏に感じる焦りは隠しきれていない。


――景色に薄く数字が重なる。


〈対象:組合審査での異議申し立て/表向きの理由:保証人の公平性/実際の状況:異議を唱えた役職者はヘルマン商会と縁が深い一人のみ、他の役員の大半は静観の姿勢/規約上の弱点:「取引関係のみを理由とした忌避」を明確に禁じる条項は組合規約に存在しない一方、複数の第三者による裏付けがあれば異議は退けられる先例あり〉


「一人だけが騒いでる、ってことですか」


「うん。でも、規約上はそれでも押し通せる余地がある」


クラーラが手元の写しをめくった。指先が、以前見た条文のあたりで止まる。


「複数の証言があれば、って先例のことですね。私も、似たような条文を見た覚えがあります」


「一人の異議より、複数の証言の方が重い、ってこと?」


「はい。組合として、一人の判断だけで物事を決めさせない、という建て付けみたいです。たぶん、昔、似たような揉め事があったんだと思います」


クラーラの説明に、俺は少しだけ息をついた。抜け道は、まだ完全には塞がれていない。


「マルクさんにも、証言者になってもらえたら」


「私は喜んで。それに、あの村のグスタフさんにも、一筆いただけないでしょうか。品を長く使ってきた側の声として、これ以上の裏付けはないと思います」


ゴドウィンの提案に、俺は頷いた。取引相手だけでなく、実際に品を使ってきた者の声。それなら、公平性を疑う余地もない。うちと利害の一致しない立場からの言葉だからこそ、重みが違う。


その日のうちに、クラーラがマルクとグスタフへの手紙をまとめた。返事は思いのほか早く、三日後には両方から証言の一筆が届いた。マルクは長年の取引実績を丁寧に綴り、グスタフの文字は相変わらずぶっきらぼうだったが、内容は簡潔で力強かった。


『長く世話になってる相手だ。悪いようにはされてない。それで十分だろう』


その一文を読んだとき、俺は胸の奥が少し熱くなるのを感じた。水路の縁から始まった、あの頑固な水番との付き合いが、今こうして形になって返ってきている。


証言をまとめて再提出すると、組合からの返答は数日を待たずに届いた。審査は通過し、検査は繰り上げて受けられることになったという。


「間に合いそうです、次の出荷に」


マルクが安堵の声を上げた。屋敷を訪れたゴドウィンも、肩の力が抜けたように息をついている。


「正直、これで駄目だったら、私の顔も丸潰れでしたよ」


「そうならなくて、良かった」


「いえ、ノア様たちの動きが早かったおかげです。私一人だったら、こうはいきませんでした」


ゴドウィンの言葉に、クラーラが小さく笑った。


父に報告すると、珍しく口元がわずかに緩んだ。


「一人の反対で押し通せなかったものが、複数の声で押し通せた、か」


「はい」


「数だけの話じゃない。積み重ねてきたものの重みが、そのまま数になったということだろう」


父の言葉に、俺は素直に頷いた。ヘルマン商会が仕掛けた壁は、一つ、また一つと崩れていく。だが、これで終わりだとは、まだ思えなかった。窓の外、収穫を終えた畑の向こうに、いつもより長く感じる夕暮れが広がっていた。


(次回「決着」へ続く)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。