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慈愛の魔王。〜全ての生き物に慈愛を神への反逆〜  作者: 盆ちゃん


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4話 拠点の変化と考察の兆し

4話 拠点の変化と考察の兆し


先ほどの休憩所での驚愕のステータス確認から立ち直った俺たちは、さらに階層を上るための探索を再開した。

 目標は第180階層の突破、そして各階層の10階ごとに設置されているという『転移陣』の解放である。

 その道中、俺たちの賑やかな家族には新たに「3体」の仲間が加わっていた。

 一体目は、第190階層のボス部屋で立ち塞がった巨大な炎の魔狼【ガルム】。誇り高く獰猛な双頭の狼だったが、俺のデコピン一発(※手加減スキル発動済み)で沈んだ後、その傷を『慈愛の箱庭エデンズ・ハグ』で癒やしてやると、すっかり絆されて忠犬ならぬ忠狼として俺の背中を預かる相棒となった。

 二体目は、道中で罠にかかって身動きが取れなくなっていた下半身が蜘蛛の魔物、アラクネの【タラ】。

 そして三体目は、つい先ほど第180階層のボスとして戦った、中身のない意思を持つ漆黒の鎧、リビングアーマーの【ガイ】である。彼らもまた、俺の規格外の魔力と慈愛のスキルによって魂を包み込まれ、絶対の忠誠を誓う「家族」として俺たちのパーティーに加わったのだ。

「よし、180階層のボス部屋の奥にあった転移陣も起動したな。みんな、長丁場でお疲れ様。一旦、最下層の拠点に戻ってゆっくり休もう」

 スライムのリム、コボルトから進化したコハク、オーガのゴル、そして新入りのガルム、タラ、ガイ。

 総勢6体となった頼もしくも愛らしい家族たちを引き連れ、俺は第180階層の転移陣の上に立った。眩い光が俺たちの身体を包み込み、空間が歪む感覚の直後——俺たちは、見慣れたはずの第200階層(最下層)へと帰還した。

 いや、「見慣れたはず」だった、と言うべきか。

「…………えっ?」

「ピュイ?」

「ワフッ?」

 光が収まり、目を開けた俺は、その場に立ち尽くした。

 俺が目覚めたあの冷たくて薄暗い石造りの小部屋は、跡形もなく消え去っていた。代わりに俺たちを迎え入れたのは、磨き上げられた黒曜石の柱が立ち並び、高い天井には魔石のシャンデリアが妖しくも美しい光を放つ、広大で荘厳なエントランスホールだった。

「階層を間違えたか……? いや、転移陣の表示は間違いなく『第200階層』だったぞ」

 困惑しながら奥へと進むと、そこはもはや単なる「生活空間」などというチャチなものではなく、まるで『城』の内部そのものだった。

 通路の先にはいくつもの巨大な扉が並んでおり、恐る恐る一つを開けてみると、そこには湯けむりが立ち込める巨大な大浴場があった。岩風呂風の立派な浴槽には、魔力によって適温に保たれた湯がこんこんと湧き出ている。さらに隣の部屋には、水洗式ならぬ魔力洗浄式の清潔なトイレまで完備されていた。

 驚きはそれだけではない。他の扉を開けると、そこには俺の「家族」たちの種族や特性に完璧に合わせた専用の部屋が用意されていたのだ。

 リムのための清らかな水が張られたプール付きの部屋。

 コハクやガルムがのびのびと走り回り、丸まって眠れる柔らかな魔力草が敷き詰められた草原のような部屋。

 ゴルやガイが思う存分武器を振り回せる、頑強な結界が張られた修練場兼寝室。

 そして、タラが快適に巣を張れるように設計された、吹き抜けの高天井の部屋。

「なんだこれ……どうなってるんだ?」

 極めつけは、かつて初心者用の粗末な革鎧と鉄の剣が入っていた『最下層スタートの君へ』と書かれた物置部屋だった。

 部屋の広さは十倍以上に拡張され、そこに並んでいるのは初心者装備などではない。深紅の裏地があしらわれた漆黒の豪奢なマント、禍々しくも美しい装飾が施された大剣や魔杖、そして圧倒的な防御力と威圧感を放つ魔王の鎧のような漆黒の装備群。

 それらが、主である俺が袖を通すのを待っているかのように、恭しく飾られていた。

 俺は漆黒のマントの前に立ち、ゴクリと息を呑んだ。

(……おかしい。いくら転移者が高待遇だからって、これは異常だ)

 仲間が3体増えた途端、それに呼応するように拡張された拠点。

 まるで、俺が強力な魔物を「テイム」して軍団を形成することを、最初から予期していたかのような施設の数々。

 そして、この禍々しくも威厳に満ちた装備品。どう見ても「世界を救う勇者」が身につけるデザインではない。

(何故、俺は迷宮の最下層に配置された? 何故、ダンジョンのボスが地上へ向かう階段を守るように配置されている? 何故、俺の力はこんなにも……理不尽なほどに破壊に特化している……?)

 点と点が、頭の中で最悪の線となって繋がりそうになる。

 まさか俺は、人間たちに高待遇で迎え入れられる「英雄」などではなく——。

 この迷宮の最下層から、地上を蹂躙するために神によって配置された『魔王』なのではないか?

「…………」

 背筋に冷たいものが走った。もしそうだとしたら、俺が地上に出た時、待っているのは人間たちとの凄惨な殺し合いなのではないか。

 暗い思考の渦に沈みかけたその時。

「ピュイ〜」

「クゥ〜ン」

 足元から、リムの冷たくて柔らかい感触と、コハクの温かい毛並みが擦り寄ってきた。

 振り返れば、ゴル、ガルム、タラ、ガイの全員が、心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。彼らの瞳にあるのは、恐ろしい魔王に対する恐怖や打算ではない。ただ純粋に、俺という存在を慕い、気遣う「家族」としての無償の愛情だった。

「……ははっ。そうだな、ごめん。難しいことを考えるのはやめにしよう」

 俺が何者として呼ばれたのか、この迷宮が何を意図しているのか。そんなことは、今の俺にはどうでもよかった。

 俺はもう、一人ぼっちじゃない。この優しくて温かい家族がいる限り、どんな真実が待っていようと立ち向かえる気がした。

「よし! せっかくこんないいお風呂ができたんだ! みんなで風呂に入って、そのあとはご馳走にしようぜ!」

「「「ワォォン! / グルァッ! / ピュイッ!」」」

 俺の掛け声に、魔物たちが歓喜の咆哮を上げる。

 俺たちは連れ立って広大な大浴場へと向かった。豊富な湯量と心地よい温度の温泉に肩まで浸かると、規格外のステータスゆえに抑え込んでいた精神的な疲労が、湯気とともにふわりと溶けていく。

 隣では巨大なガルムとコハクがお湯の掛け合いをして遊び、リムはぷかぷかと湯船に浮かんでとろけている。鎧のガイは丁寧に自分の身体(鎧)を磨き、ゴルは豪快に頭からお湯を被っていた。

 そんな光景を見ているだけで、心の底から笑みが溢れてくる。

 風呂上がりには、新設された魔法の厨房設備を使い、道中で討伐した巨大な魔物の極上肉をみんなで調理した。

 ゴルが手際よく巨大な肉の塊を切り分け、ガルムの炎で一気に焼き上げる。香ばしい匂いが、城のように広大になったダイニングルームに立ち込めた。

「それじゃあ、みんなの無事と、新しい家族の加入を祝って……乾杯!」

 俺の音頭とともに、賑やかな宴が始まった。

 用意された巨大なテーブルを囲み、無邪気に肉に食らいつく魔物たちと、それに囲まれて笑う俺。

 自分が『魔王』として配置された存在かもしれないという残酷な伏線。

 しかし、そんな神の思惑など知る由もない最下層の城では、ただひたすらに温かく、慈愛に満ちた家族団欒の時間が過ぎていくのだった。


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