27話 神速の街づくり
27話 神速の街づくり
大陸会議での歴史的な大勝利と『慈愛の魔王国』の建国承認から数日後。
俺たちは奈落の迷宮の第1階層——つまり地上の出入り口周辺に広がる、教国の禁呪によって黒焦げになった大地に立っていた。
「見渡す限りの焼け野原だな……。でも、ここが俺たちの新しい国の『始まりの場所』になるんだ」
巨大な一枚岩を切り出して作った即席のテーブルの上に、大公国から提供された周辺の広域地図を広げる。
テーブルを囲むのは、俺、参謀のシルフィア、ヴェスペル大公国からの出向参謀であるネロ、そしてゴルやリムたち魔王軍の幹部陣だ。
「まずは何より、避難している村人たちや、これから移住してくるスラムの民を受け入れるための『衣食住』——つまり、住宅街の整備が最優先だ」
「はい、零様。すでに周辺の地形データは私の頭脳にインプット済みです。この焦土を区画整理し、まずは5000人が暮らせる居住区を設計しました」
シルフィアが地図の上に光の魔法で美しい都市の立体図を浮かび上がらせる。
「よし、設計図は完璧だ。あとは……労働力だな。ゴル、お前の配下の重機……じゃなかった、重戦士部隊、いけるか?」
「グルォォォッ!!(任せろ、主よ! 腕が鳴るぜ!)」
オーガ・ロードのゴルが分厚い胸板をドスドスと叩いて咆哮すると、その後ろに控えていた数千のオークやホブゴブリンたちが一斉に雄叫びを上げた。
ここから、迷宮の魔物たちによる『常識外れの超速建造』が始まった。
ズドドドドドッ!!
まずはゴル率いる重戦士部隊が、焼け焦げた巨大な倒木や岩を、まるで小石でも拾うかのような軽さでポイポイと撤去していく。筋力ステータスが数千を超える彼らにとって、瓦礫の撤去など準備運動にもならない。
整地された土地に、今度はアラクネのタラ率いる蜘蛛魔物部隊が、鋼鉄よりも強靭な『建築用の粘糸』を使って、切り出された木材や石材を寸分の狂いもなく組み上げていく。さらに、炎狼ガルムの部隊が建材の乾燥や石の焼き入れを行い、スライム・エンペラーのリムたちが冷却と地固めを行う。
「……信じられません。熟練の建築ギルドが数年かけて造る規模の街並みが、みるみるうちに……たった数日で完成していくなんて」
ネロが、次々と建ち並ぶ真新しい木造や石造りの家屋を見て、顎を外さんばかりに驚愕していた。
ステータスの暴力と、完璧な統率。戦闘に特化していた神話級の力が『創造』へとベクトルを向けた時、これほどの奇跡を起こせるのだ。
***
そして、居住区の第一期工事が完了したその日。
大公国の国境付近に避難していた村人たちが、大公国の騎士団と、俺たちが派遣した『魔物のお引越しサポート隊』に護衛されながら、故郷へと帰還してきた。
「ほ、本当に村が……いや、前よりもずっと立派な街になっとる!」
「信じられねえ……ついこの間まで、黒焦げの土しかなかったはずだぞ……」
真新しい家々を見て歓声を上げる村人たち。
だが、彼らを最も驚かせたのは、荷車を引いて一緒に歩いてきた魔物たちの姿だった。
「おばあちゃん、この重い荷物はオイラが運ぶよ!」
「グルァ(気をつけるんだぞ、人間の子よ)」
人間の言葉を教え込まれたホブゴブリンが、お年寄りの重い荷物をひょいと持ち上げて新居まで案内する。
道中では、恐ろしいはずの巨大なシャドウ・ウルフたちが、疲れて歩けなくなった子供たちを背中に乗せて歩き、子供たちは嬉しそうにそのもふもふの毛並みに顔を埋めていた。
荷降ろしの際、うっかり村人が落としそうになった壊れ物の壺を、大柄なオークが慌ててスライディングキャッチし、「セーフ!」とばかりにホッと息を吐く場面もあった。
「……ふふっ。本当に、お前さんたちは優しいんだねぇ」
壺を助けられた老婦人が、オークのゴツゴツした手を両手で包み込み、心からの笑顔で感謝を伝えた。
その笑顔を見たオークは、照れくさそうに頭を掻き、周囲の村人たちからも温かい笑い声が溢れる。
禁呪の炎から自分たちを救ってくれた魔王の配下たち。その彼らが、汗水流して自分たちの家を建て、引越しの手伝いまでしてくれる。残っていたわずかな恐怖心も、この献身的で愛嬌のある姿を見れば、完全に吹き飛んでしまうのも無理はなかった。
***
「みんな、新居の住み心地はどうだ? でも、街づくりはこれからが本番だからな」
俺は広場に集まった住民たちと、ネロやシルフィアを前に、さらなる都市計画の青写真を広げた。
「まずは、この世界にはあまり普及してないらしいけど……絶対に外せないインフラがある。**『巨大な公衆浴場(銭湯)』**だ!」
「せ、せんとう……ですか? 貴族の館にあるような入浴施設を、一般の民のために?」
ネロが目を丸くする。
「ああ! 街の東西南北、どこからでも歩いて通いやすい場所に、超巨大な銭湯を作る! お湯はリムの水魔法とガルムの炎魔法で完璧な温度に保つし、魔力薬草を浮かべた薬湯も用意する。……人間も、亜人も、魔物も、裸になればみんな同じだ。風呂の時間は、種族の壁をなくす最高のコミュニケーションの場になるはずだ!」
「ピュイッ!(お風呂最高!)」
俺の熱弁に、温泉大好きなリムが激しく同意して跳ねる。住民たちも「いつでも温かいお湯に浸かれるのか!」と歓喜の声を上げた。
「次に『食と仕事』だ。焼け野原になった大地は、俺と植物系の魔物たちの魔力で『超豊穣の土壌』に作り変えてある。ここに広大な農地を作り、農業の知識がある者には指導者になってもらう。さらに、大公国からの支援物資を元手に、街の中央に『巨大商店街』を配置する。商売の護衛や力仕事は魔物たちが手伝うから、誰もが安全に働けるぞ」
衣食住の確保、そして銭湯という極上の娯楽。
だが、都市計画の真の『目玉』は別にあった。
「そして……この街の入り口に、**『冒険者ギルド』**の総本部を誘致しようと思う」
「「「ええええええっ!?」」」
ネロだけでなく、村人たちからも驚愕の叫びが上がった。
冒険者といえば、魔物を討伐して生計を立てる荒くれ者たちだ。魔王国に冒険者を呼ぶなど、火薬庫に火を放つようなものではないか。
「待ってください、零様! 冒険者を呼べば、確実に配下の魔物たちと衝突が起きます!」
「大丈夫だ、ネロ。彼らには『迷宮のルール』を厳守してもらう。……この奈落の迷宮には、俺たちのように意思を持たない、自然発生する純粋な野生の魔物が無限にリスポーンしている。冒険者たちには、街の中での戦闘を固く禁じる代わりに、この迷宮を最高の『狩り場』として完全開放するんだ」
俺はニヤリと笑い、さらにとんでもないプランを口にした。
「そして、冒険者ギルドと提携して、特別なキャンペーンを打ち出す。名付けて……**『最下層(第200階層)到達者への、魔王帝都・極上VIP滞在権』**だ!」
「ぶっ……!!」
ネロが盛大に吹き出した。
「迷宮を攻略し、見事最下層までたどり着いた強者には、俺たちの拠点である『地下帝都』での滞在を特別に許可する。そこには、地上では絶対に味わえない神話級の食材を使ったフルコース、湖のように広大な超絶景の露天風呂、そして幻の装備品の数々が待っている……って宣伝するんだ。どうだ?」
「そ、それは……! 血の気の多い冒険者たちは、目の色を変えて迷宮に潜るでしょう! 街への不当な暴力はギルドの規約で縛り、彼らの有り余るエネルギーを迷宮探索に向けさせ、さらには街の経済を潤す……! 天才的な発想です!」
元々敵対するはずの存在を、明確なルールと極上の「報酬」で管理し、共存のサイクルに組み込む。これなら、武力を無駄に衝突させることなく、街は冒険者の落とす金でかつてないほど発展するはずだ。
「最後は……この街に暮らすみんなが、心から安心して眠れるための『盾』だ」
俺は住民たちを見渡し、力強く宣言した。
「教国の禁呪にも、どんな外敵にも絶対に破られない、最強の城壁を作る」
俺の合図で、ゴルとガイ、そして大地を操る高位の魔物たちが、街の最外周に立ち並んだ。
彼らが一斉に極大の魔力を大地に流し込むと、ズゴゴゴゴォォォッ!! と凄まじい地鳴りと共に、焼け焦げた大地が隆起し始めた。
現れたのは、禍々しい黒い壁ではない。
大理石のように滑らかで、陽の光を浴びて美しく輝く、高さ三十メートルにも及ぶ『純白の巨大城壁』だ。
さらに、俺の【慈愛の箱庭】の魔力を壁全体にコーティングし、邪悪な意思を持つ者を弾き返す『絶対防壁の結界』を付与した。
「おおぉぉ……なんという、神々しく、美しい壁だ……」
「これなら、もう何も怖くない……教国の炎も、盗賊も、絶対に俺たちを脅かしたりできないんだ!」
見上げるような純白の城壁を前に、住民たちは安堵の涙を流し、ある者はその壁にすがりついて祈りを捧げた。
家があり、仕事があり、美味しいご飯と温かい風呂がある。
そして、優しくて力持ちの魔物たちと、絶対に破られない美しい城壁が、彼らの命を護っている。
「よし! これで『慈愛の魔王国』、建国第一歩の完了だ! 今日はみんなで、お引越しと建国のお祝いの大宴会だァァッ!」
「「「ウォォォォォォォォォッ!!!」」」
「「「バンザーイ!! 魔王様、バンザーイ!!」」」
魔物たちの咆哮と、人間たちの歓声が、純白の城壁の中で一つに溶け合う。
焼け野原だった大地には、今、世界で最も優しく、最も強固な『笑顔の溢れる街』が、確かな産声を上げたのだった。




