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慈愛の魔王。〜全ての生き物に慈愛を神への反逆〜  作者: 盆ちゃん


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26話 3つの議題で新たな始まり

26話 3つの議題で新たな始まり


教皇と異端審問局長、そして腐敗した枢機卿たちが、かつて自分たちの手足として使っていた神聖騎士団によって拘束される光景は、あまりにも惨めで、そして痛快な歴史の転換点であった。

「離せッ! 私は神の代理人だぞ! 貴様ら、神罰が下ると思わないのかァァァッ!」

「ヒィィッ! わ、私は教皇に命令されただけだ! 助けてくれェッ!」

 往生際悪く喚き散らす教皇と、涙と鼻水にまみれて命乞いをする局長の顔から、かつての絶対的な権威は微塵も感じられない。彼らを筆頭とする腐敗幹部と、彼らに追従し民を虐げてきた異端審問官たちは、身につけていた豪奢な法衣や装飾品をすべて剥ぎ取られ、エルシオンの最も深く冷たい地下牢へと引きずられていった。

 彼らの絶叫が重厚な扉の向こうへと消えると、大公会堂の円卓会議場には、嵐が過ぎ去った後のような清々しい静寂が訪れた。

「……さて。不快なゴミ掃除は終わったわね。会議を再開しましょうか」

 ヴェスペル大公国の大公・エレオノーラが、優雅に紅茶のカップを傾けながら口を開く。

 先ほどまでの緊迫した断罪劇が嘘のように、その後の会議は驚くほどスムーズに進行した。

 エレオノーラとルカ司教から、この数日間の出来事の『完全な全貌』が、全首脳陣へと詳細に報告されたのだ。

 大公国の暗躍により、教国が標的としていた迷宮周辺の村人の八割が事前に避難を終えていたこと。

 土地に残った二割の民や弱者たちも、大公国から派遣された精鋭魔術師と地下シェルターによって、禁呪『聖浄の業火』から無傷で守り抜かれたこと。

 そして何より、禁呪の炎から現れた魔王軍が、教国の兵士を誰一人殺さず、傷ついた者たちに慈愛の治癒を施したこと。

「信じられん……禁呪の直撃から民草を完全保護し、あまつさえ数万の敵軍を無血で制圧したというのか」

 魔術師ギルドの長が、震える手で髭を撫でながら感嘆の息を漏らす。

「ガハハハッ! まさに痛快! 教国の老いぼれどもが自滅していく様は、最高の見世物だったぜ。天導零殿の慈愛と、大公閣下の知略……我ら獣人連合、改めて深く敬意を表する!」

 獣人代表のザルガが、円卓の向かいに立つ三体の使者(ドッペル、ファント、シャドウ)と、ホログラム越しに参加しているレイに向かって豪快に笑いかけた。

 もはや、この会議場に教国を擁護する者は一人もいない。

 全員が、新たな時代の英雄たちに絶対の信頼を寄せていた。

『皆さんにそう言っていただけて、俺も……俺の大切な家族(魔物)たちも、心から嬉しいです。これでやっと、誰も傷つかずに平和に暮らせるんですね』

 ホログラム越しのレイが、安堵の笑みを浮かべて深く頭を下げる。

「ええ、その通りよ零。……でも、私たちの仕事は『巨悪を倒して終わり』ではないわ。これから、この大陸の新たな秩序ルールを決めなければならない」

 エレオノーラ大公が立ち上がり、円卓の中央に大陸の巨大な立体地図ホログラムを展開した。

 そして彼女は、会議場にいる全員の想像を絶する、驚天動地の『戦後処理』を提案し始めたのだ。

「第一の議題よ。今回、教国によって不当に『聖浄の業火』が放たれ、焼け野原と化してしまった迷宮周辺の土地……および、奈落の迷宮そのものについて」

 大公の白魚のような指が、地図上の迷宮エリアを指し示す。

「私はこの土地を教国から完全に切り離し、天導零殿を王とする新たな独立国家……『慈愛の魔王国(仮称)』の絶対領土として承認することを提案するわ」

「「「なっ……!?」」」

 円卓が大きくどよめいた。迷宮とその周辺を、まるごと魔王の国として国際社会に認めるというのだ。

「さらに、この新たな国には、元々あの周辺に住んでいて家を焼かれた村人たちを迎え入れてもらうわ。彼らはすでに、自分たちを焼いた教国ではなく、真実を教えてくれた魔王殿を崇拝している。そして……我が国や他国で行き場を失っているスラムの住人や、不当な差別を受けている亜人などの『民草』も、希望する者はすべて魔王国で受け入れてほしいの」

『ええっ!? お、俺が王様になるんですか!? しかも、人間も亜人も魔物も一緒に住む国に!?』

 驚いて目を丸くするレイに対し、エレオノーラは優しく微笑んだ。

「貴方の陣営の力なら、焼け野原の開拓など数日で終わるでしょう? 貴方の無限の慈愛と、神話級の魔物たちが護る国なら……行き場を失った弱者たちにとって、そこは世界で最も安全で、最も温かい『楽園』になるはずよ」

 レイの使者であるドッペルが、恭しく胸に手を当てて一礼する。

マスター。我々配下にとっても、人間たちと共に国を興すことは、主の望む『平和な対話』の究極の形かと存じます。我々の力、すべて国造りのために捧げましょう」

『……わかった。俺にできるか分からないけど……やってみるよ! みんなが笑顔で暮らせる、最高の国を作ってみせる!』

 レイの力強い宣言に、ザルガをはじめとする首脳陣から割れんばかりの拍手が巻き起こった。

「素晴らしい! では第二の議題よ。今回の教国による自国民への禁呪攻撃、および他国への不当な侵略未遂の『賠償』について」

 エレオノーラの指先がスッと動き、広大な神聖ルミナス教国の領土の「半分以上」が、赤く染め上げられた。

「戦費、慰謝料、そして今後の危険排除の観点から、神聖ルミナス教国の領土の過半数を接収します。この接収した広大な土地は、我がヴェスペル大公国が独占するのではなく……今回、反教国同盟として団結してくれた中立国、商業連盟、獣人連合の皆様で『均等に分割・統治』するものとします」

「「「おおおおおっ!!!」」」

 今度は、会議室の屋根が吹き飛ぶほどの歓声が上がった。

 教国の肥沃な大地と資源が、公平に分配される。これにより、教国の軍事力は永遠に削がれ、同時に中立国たちの国力は底上げされ、大陸のパワーバランスは完全に安定するのだ。

 強欲に独り占めせず、同盟国に最大の利益を還元するエレオノーラの采配に、各国の代表たちは感動すら覚えていた。

「そして最後、第三の議題よ。領土を半分失い、腐敗幹部が一掃された『残りの教国』をどう立て直すかについて」

 エレオノーラは、壁際で静かに控えていた一人の青年を、円卓の側へと呼び寄せた。

 教国内部から命懸けのリークを行い、聖騎士たちを真の信仰へと導いた若き英雄、ルカ司教だ。

「特例中の特例となるけれど。今回の教国の浄化において、誰よりも人命を救うために奔走し、本物の良心を示した彼……ルカ司教を、神聖ルミナス教国の『新たな教皇』として任命する発議を行いたいわ」

「「「ぜ、前代未聞だ……!!」」」

 魔術師ギルドの長が目を剥いた。

「一介の若き司教が、枢機卿の階梯すら飛び越えて一気に教皇の座につくなど……教国の数百年にも及ぶ歴史上、一度としてあり得ない事態だぞ!」

「ガハハハハッ! 何を今更常識に囚われているんだ、ギルド長!」

 ザルガが腹を抱えて大笑いした。

「前代未聞? 大いに結構じゃないか! 魔王が人間を救って国を創り、中立国が教国の領土を分かち合う! この数日間で起きたことのすべてが『前代未聞』だ! 腐りきった伝統などクソ食らえだ。ルカ殿の命懸けの行動がなければ、我々は今頃炎に包まれていたかもしれないんだぞ!」

「ザルガ代表の言う通りです。伝統よりも、真の信仰と民を想う心こそが、新たな教国のトップに相応しい」

 他の中立国の代表たちも、次々と力強く頷き、賛同の意を示した。

「私のような若輩者が、教皇など……」

 恐縮して身をすくめるルカに対し、エレオノーラはふっと立ち上がり、彼の肩にそっと手を置いた。

「貴方が動かなければ、何万という命が消えていたのよ。胸を張りなさい、ルカ新教皇。貴方と、貴方を信じた若き聖騎士たちなら、必ず『本来あるべき、民に寄り添う教国』を再建できるわ。……私や、慈愛の魔王殿が、全力でサポートするから」

『ええ! ルカさんのおかげで教国の罠から助かったんです。これからは隣国同士、一緒に頑張りましょう!』

 ホログラム越しのレイも、満面の笑みでエールを送る。

 その温かい言葉の数々に、ルカの目から大粒の涙がこぼれ落ちた。彼は深く、深く頭を下げ、新たな教国を背負う重責と覚悟を胸に刻んだ。

 ——こうして。

 大陸全土を巻き込む巨大な断罪劇は、すべての膿を出し切り、完璧な形での『大団円』を迎えた。

 レイの『慈愛の魔王国』の建国。

 領土の公平な分配による、強固な平和同盟の確立。

 そして、ルカ新教皇による教国の浄化と再建。

 会議場は、かつてないほどの希望に満ちた熱気と、割れんばかりの万雷の拍手に包まれた。

 神の気まぐれな計算違いによって最下層に落とされた孤独な少年は、持ち前の優しさで最強の家族を集め、地上の賢君と手を結び……ついには、世界そのものの在り方を、誰も悲しまない最高に優しい形へと作り変えてしまったのである。


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