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慈愛の魔王。〜全ての生き物に慈愛を神への反逆〜  作者: 盆ちゃん


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25話 緊急大陸会議でチェックメイト

25話 緊急大陸会議でチェックメイト


聖都エルシオン。神聖ルミナス教国とヴェスペル大公国の国境中央に位置し、長きにわたり『不可侵の聖域』として機能してきたこの美しき白亜の都市に、大陸全土から重鎮たちが集結していた。

 都市の中央にそびえ立つ大公会堂。その最も広大な円卓会議場には、静まり返った重苦しい空気が立ち込めていた。

 ヴェスペル大公国の大公エレオノーラ、獣人連合の代表ザルガ、魔術師ギルドの長など、反教国同盟に名を連ねる首脳陣がズラリと席に着いている。

 そして彼らの対面——上座に用意された最も豪奢な席に、教皇と異端審問局長、数名の枢機卿たちがふんぞり返って座っていた。

「……随分と物々しい雰囲気ではないか。我々神の代行者を招いておきながら、挨拶の一つもないとは、異端の輩は礼節も知らんと見える」

 教皇が鼻で笑い、ワイングラスを傾けながら傲慢に言い放つ。

「まあよい。貴様らが何を企んでいようと、ここは神の威光が届く聖都。我々教国が管理する絶対のテリトリーだ。おとなしく『魔王と通じた大罪』を認め、我が国に領土と賠償金を差し出すのであれば、慈悲深い私が祈りによって罪を軽くしてやろうではないか」

 教皇は本気でそう信じていた。

 偽装部隊が捕縛されようと、魔王が地上に出ようと、この会議の場で「ヴェスペルは悪魔に魂を売った」と声高に主張し、自国の息がかかったエルシオンの神聖騎士団で武力圧力をかければ、中立国の者たちは恐怖で自分に跪くはずだと。

 しかし、エレオノーラ大公は、そんなピエロを見るような極めて冷ややかな視線を教皇へと向けていた。

「——茶番はそこまでよ、狂信の老害」

 大公の低く、しかし氷のように冷たい一言が、会議場の空気を一変させた。

 教皇が激昂して立ち上がろうとした、その瞬間。

 円卓の中央に設置された巨大な装置から、数十個の『映像記録の魔水晶』が一斉に起動し、会議室の空中を埋め尽くすほどの巨大なホログラム映像を展開した。

「な、なんだこれは……ッ!?」

 そこに映し出されたのは、数日前の迷宮の入り口——『聖浄の業火』が放たれた瞬間の記録映像だった。

 教皇と局長は息を呑んだ。

 映像は、異端審問局長が最前線の味方兵士や周辺の村人を巻き込むことを承知の上で、ヒステリックに「撃て!」と叫ぶ醜悪な姿を克明に映し出している。

 さらに別の水晶からは、炎が迫る中、彼が自らの近衛兵すら置き去りにして馬車へ逃げ込む無様な逃亡劇が、全首脳陣の目の前で堂々と再生された。

「あ、あ、あああっ……! ち、違う! これは幻影だ! 悪魔の魔術による捏造だ!!」

 局長が椅子から転げ落ちんばかりに身を乗り出し、顔面を真っ青にして叫んだが、魔術師ギルドの長が冷酷にそれを一蹴する。

「捏造だと? 我々魔術師の最高峰の鑑定を舐めるな。魔力波長、音声の照合、すべてにおいて『無加工の真実』であるとギルドが保証済みだ」

「見苦しい言い訳は聞きたくないわ。……次よ」

 エレオノーラが指を鳴らすと、今度は『炎の中から無傷で現れた魔王軍』の映像が再生された。

 鬼神や炎狼といった神話級の魔物たちが、一切の殺意を持たず、武器だけを破壊して教国兵を無力化していく。そして、黒髪の少年——慈愛の魔王・天導零が、自らを焼き殺そうとした敵国の兵士の火傷を、神々しいまでの光で癒やしていく光景。

「「「おお……」」」

 会議場の中立国の首脳たちから、感嘆と畏敬のどよめきが漏れた。

 破壊の化身などではない。そこに映っているのは、間違いなく『本物の慈愛』を持った王の姿だった。

「こ、こんなもの……っ! 騙されるな! 奴らは人の心を操る悪魔だ! ヴェスペル大公国が魔物と結託して、この神聖な教国を陥れようとしているのだ!!」

 教皇が泡を食って叫ぶが、その声はもはや誰の心にも響かない。

 獣人連合のザルガが、ドカッと分厚い書類の束を円卓に投げ出した。

「まだ言うか、この老いぼれが。ならばこれはどう説明する? お前らが我が国境に放った『魔物の仮装をした教国兵』どもからの、自白調書と尋問記録の映像だ。……お前らが中立国を火の海にし、魔王のせいにして大陸の覇権を握ろうとしていたことなど、すでにすべて裏が取れているんだよ!」

 そこには、教国の部隊長が「すべて教皇猊下と局長の指示でした」と泣きながら自白する映像が映し出されていた。

 沈黙。

 圧倒的な、そして逃れようのない完璧な「証拠の数々」。

 開始からわずか数十分。時間にしてお茶を一杯飲むほどの時間すら経っていない冒頭で、教国側の罪状はこれ以上ないほど完膚なきまでに暴き立てられ、反論の余地は完全に粉砕されていた。

 まさに、呼吸すら許さない怒涛の先制攻撃(口撃)だった。

「き、休憩だッ! 一旦休憩を入れる!! 話の続きは……そ、そう! 神に祈りを捧げてからだ!!」

 完全にパニックに陥った教皇が、顔中から脂汗を流しながら立ち上がり、逃げるように会議室の扉へと向かおうとする。

 だが、エレオノーラ大公は冷たく言い放った。

「誰が休憩を許可したのかしら? 貴方たちは今、世界の首脳陣を前に『神と民を冒涜した大罪人』として裁きの場に立っているのよ。一歩でもこの場から逃げ出せば、その瞬間に教国全土への宣戦布告とみなすわ」

「黙れ、異端の魔女めッ! 誰か、誰かおらんか!!」

 追い詰められた教皇は、ついに理性を失い、金切り声を上げて叫んだ。

 彼にとっての最後の、そして絶対の切り札。このエルシオンを警備している、教国の『神聖騎士団』と『異端審問官』の精鋭たちを呼び寄せたのだ。

「ここだ! ここに悪魔と通じた大逆賊どもがいる!! 神の名の元に、こいつらをすべて捕縛しろ!!」

 ガチャン、と重々しい音を立てて会議場の扉が開き、純白の鎧を身に纏った数十名の神聖騎士と、赤い法衣の異端審問官たちが雪崩れ込んできた。

 教皇と局長の顔に、歪んだ歓喜の色が浮かぶ。

 そうだ、ここは自分たちのテリトリーだ。暴力で中立国どもを黙らせてしまえば、証拠などいくらでも握りつぶせる。そう、彼らは信じていた。

「フハハハッ! 見たか、これが神の力だ! さあ、この無礼な異端者どもを即刻捕縛——」

 だが。

 教皇の狂った笑い声は、途中で不自然に途切れた。

「……なっ?」

 会議場に突入してきた騎士たちは、大公国の首脳陣には目もくれず——その鋭い刃の切っ先を、すべて教皇と局長、そして腐敗枢機卿たちの喉元へと突きつけていたのだ。

「な、何をしている貴様ら! 私は教皇だぞ! 剣を向ける相手が違うだろうが!!」

 怒鳴り散らす教皇に対し、神聖騎士団の隊長は、氷のように冷たく、圧倒的な『軽蔑』と『敵意』に満ちた目を向けた。

「我々は神に剣を捧げ、民を護る盾となることを誓った騎士です。……味方の命を背後から焼き払い、己の権力欲のために神の教えを歪めた『悪魔』に従う謂れなどありません」

 騎士の背後から、静かな足音を立てて一人の青年が進み出る。

 教国の中枢に潜り込み、大公国と通じていた若き司教、ルカであった。

「ル、ルカ司教……!? 貴様、なぜ大公国の陣営に……っ、まさか、お前が裏切ったというのか!?」

「裏切ったのは、あなた方の方です。教皇猊下」

 ルカは静かに、しかし断固とした口調で告げた。

「あなた方の醜悪な真実は、すでにこのエルシオンの全司祭、全騎士に共有されています。ここにいる誰もが、あなた方の狂信の犠牲となった迷宮の入り口の同胞たちのために……そして、真の慈愛を示した天導零殿の行動に感銘を受け、自らの意志で『真の信仰』を取り戻すことを選びました」

 その言葉を聞いた瞬間、教皇の頭の中で、張り詰めていた最後の糸がプツリと切れる音がした。

 中立国はおろか、自国の民をも完全に敵に回していた。

 自らが絶対の安全地帯だと信じ、嬉々としてやってきたこの場所は……大公国とルカ司教が周到に準備した、『逃げ場のない完璧な処刑台』であったのだ。

 自分たちを守る剣は一本もなく、向けられるのは無数の敵意と蔑みの視線のみ。

「あ、ああ……あぁぁぁっ……!」

 教皇はその場にへたり込み、両手で頭を抱えてうわ言のように呻き始めた。異端審問局長に至っては、騎士の剣先を突きつけられ、ついに恐怖で失禁して床に崩れ落ちた。

 たった数十分。

 休憩などという時間稼ぎすら許されず、教国が何百年と築き上げてきた絶対的な権威と欺瞞は、エレオノーラ大公とルカ司教の完璧な連携によって、音を立てて完全崩壊した。

 盤面はすでに、どう足掻いても覆しようのない『チェックメイト』を迎えていたのである。


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