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修道院パラダイス  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第四章 ジョナサンとクロスの謎

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お父様との連携2


「それで手紙は渡せた?」


「伯爵様とマリーと三人になってからすぐに渡したわよ。すぐに目を通して、それからジョナサンのことを聞かれたわ。私が見たジョナサンの容姿について話したら、本当にジョナサンなんだな、と仰って呆然とされていたわよ」


 お父様の気持ちは、ものすごく複雑だろう。私が代筆したものは、十七年前の十九歳の若者からの手紙だ。

 そこには、数日前に相談した時には、もう一人で忍び込むことに決めていたとか、一緒に飲んだエールがうまかったとか、十七年前のリアルタイムの思いが綴られている。それが今、幽霊らしき本人の口から語られ、自分の娘が代筆しているのだ。


「リディアはベラ・グレイという名を知っている? ジョナサンから何か聞かれていない?」


 私はグレイという家名に引っかかったが、ベラという名には聞き覚えがなかったので、首を振った。


「そう。ベラの事をジョナサンに話すタイミングは、リディアに任せると、伯爵様は仰っていたわ。これ預かった手紙よ」


 ダリアから渡された手紙は、あらかじめ用意されたらしき三枚と、その場で走り書きした一枚の四枚だった。


 先に走り書きの方を読んでみた。


『驚いた。本当に驚いたよ。ジョナサンと話ができるなんて、考えもしなかった。

その昔、彼はベラ・グレイという令嬢を攫って逃げようと、修道院に忍び込んだ。だから彼女の消息が一番の気がかりなはずだ。手紙に書いておいたが、それを読ませて大丈夫かの判断を、リディアに託す。

どうか迷える我が友の心を、鎮めてやってくれ。

PS。鎮まったからといって、私に会わずに行くな、と念を押すこと』


 私はその手紙を、隣に座って静かにしている二人に渡した。


「二人も読んで」


「いいの?」


「ええ。協力して欲しいし、意見も聞きたい。1人では心細いのよ」


 それから私は、ぎっしりと字で埋まった三枚の手紙を読み始めた。


 一枚目は、ジョナサンの手紙への返信。お父様も当時の事を思い出しながら書いているようで、内容も表現も、幾分か若者っぽいのが微笑ましい。それなのに鼻の奥がツンとした。


 二枚目は私へのラブレターだ。これをダリアに読ませていいものか、まずはそれで悩んだ。私は心を鬼にして、ダリアに読ませることにした。勘違いのまま恋心を育てたら、不幸になる。


 三枚目は、ベラの話だった。

 冒頭に、『これをジョナサンが読んでも大丈夫か判断してくれ』と書かれていた。


 そこにはベラが、修道院を出た後のことが書かれていた。

 彼女はグレイ侯爵家を後ろ足で蹴飛ばして、国からも、貴族の世界からも逃げ出した。今は隣国で、修道女として暮らしている。


 私は唸った。

 彼女はジョナサン以外に嫁ぐ事を、拒否したのね。なんて激しい思い。物語のような恋。そして試練と別離。それも永遠の。

 そう思うとドキドキする。私は残りの手紙を二人に渡し、窓を開けて外の緑をぼんやりと眺めた。


 しばらくすると、二人が私の両横に立った。私と同じように胸が詰まっているようだ。


「ジョナサンがこういう顛末で幽霊になったとは思わなかった。すごく気楽そうなんだもの」


 ケイトが窓枠にもたれて、ぼそっと言った。

 私もだった。若くて死んでいるのだから、何か事件か事故など、悲劇的な事があったのだろう。でも明るくて紳士のジョナサンからは、悲劇の匂いが全くしない。


「死んだ時の事を、覚えていないからかもね」


 なんとなくしんみりして、3人で外を眺めた。夕焼けでオレンジ色に染まっていた空が、次第に薄墨色に染め替えられていく。

 ジョナサンに色が付いたらいいな。私は唐突にそんな事を考えた。


「あのね、修道院に忍び込んで騒ぎにならないって、おかしいと思わない?」


 ダリアの言葉が、ぼんやりしていた私の耳に届いた。


「忍び込んだところを見つかったら、大騒ぎになるはずよ。しかもその場で殺されたなんて、一大事件よね。それなのに全く情報がなかったのはおかしいわ」


「そうだよね。しかも修道院の夜間警備って緩いよね。見つかる可能性のほうが少ない気がする」


 夜間警備は、外部棟の宿舎に泊まっている兵が、定時に見回りをするだけだそうだ。その時間を避ければ、侵入するのは簡単かも。うら若き乙女と修道女しかいないのに、ちょっと不用心じゃないかしら。


「そういえば、ケイトは脱走した時、誰に捕まったの。警備の兵は少ないのだから、簡単に逃げられそうなのに」


「それがね。塀に取りついて登り始めたのだけど、うまく登れなくて、もたもたしているうちに捕まったみたい。なんか変なのよね。私は木登りも、塀の乗り越えも、大得意なのに」


「捕まったみたいって何?」


「空腹で気を失ったみたいなんだ。それで見回りの兵に捕まったってわけ」


「どの辺りの塀を試したの?」


「礼拝堂の裏手。あそこ人目につかなそうじゃない。それで、側の木や塀のツタを伝って登ったんだけど、なんか全然上に行けないんだ。変だなって思ったけど、焦っていたしお腹も空いていたから、そのせいじゃないかな」


 今度昼間に試してみようかしら。私も塀の乗り越えには自信がある。男の子の遊びは、ロイと一緒に一通り経験している。


「私、こっそり登ってみる。塀を登るの得意なの」


 リディアが言うと、ケイトもリベンジすると言い出した。そして窓から見える塀を物色し始めた。


「話を戻していい? ジョナサンが修道院に入り込んだとは思えないんだけど。警備兵が、侵入者を殺してしまったとしても、隠す必要はないのよ。おかしいじゃない」


 ダリアは脱線せずに考えていたようだ。

 ケイトが元気よくクルッと振り向いた。


「それなら修道院に来る前に、亡くなったのじゃないかしら」


「でも実際にジョナサンは、幽霊の姿で修道院にいるのよ。きっとここで死んだんだわ」


「確かに色々と辻褄が合わないよね。よーし、これは推理のしがいがあるな。ジョナサンが来たら、さっそく尋問に取り掛かろう」


 ジョナサンに恋人のその後を伝えるか、相談するはずだったのに、だいぶズレてしまった。


「夕食の時間に遅れちゃう」


 ケイトが言い出すと、ダリアが忘れていたわ、とポケットから紙包を取り出した。包の中には、カヌレが三個とチョコレートボンボンが六個入っていた。


「クックよりたくさん運べるわよ。私、偉いでしょ」


 クックを褒めちぎっているのと同じノリで、今日はダリアを褒めた。ダリアは照れくさそうだったけど、満更でもなさそうだ。そうして、三人で笑いながら、食堂に向かった。

 夕食は相変わらず質素だったけど、あの独房での四日間を経た今では、本気で感謝していただける。

 煮すぎたキャベツも、ゆでただけのジャガイモも、少しだけのポークソテーも、しみじみ美味しかった。

 夕食を終えた後は、部屋に戻るのがすごく楽しみだった。おやつがあるし、ジョナサンと話が出来る。

 ケイトとダリアも同じ気持ちのようだ。ケイトがこっそりと言った。


「何となく、毎日が生き生きとしてきた気がする。楽しいよ」


 私もだわ。この生活が楽しくなってきた。


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― 新着の感想 ―
続きが気になって、なんだか読んでいてワクワクしてきます。 過酷な環境にいる彼女ら彼らですが悲壮感が少ないからでしょうか。 お父様の精神がとっても心配ですが手紙のやり取りが出来るようになっただけでも少し…
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