お父様との連携
その夜、影のまま現れたジョナサンは、ダリアの仕事の話を聞くと、怒りと驚きでバラけた。
集まって形を戻した後、彼はダリアに、護身術を教えると言い出した。ありがたいけど、とても間に合いそうにない。
「ありがとう。夕方に父に手紙を出して、助けを求めたの。だから何か手を打ってくれると思うわ。お父様は頼りになるもの」
「十七年後のラリーか。会ってみたいなあ」
「手紙を書けばいいわ。代筆するわよ」
ふと見ると、ジョナサンがペンを握ろうと頑張っていた。全く握れないようだ。
モノクロなだけで、後は普通の人間に見えるのに、実態は霧や雲のようなもの? まあ、驚くとバラけるのだから、きっとそうね。
「やっぱり駄目か。口述は気恥ずかしいのだけど、そうも言ってられないか」
ジョナサンは照れながら口述した。
「やあ、ラリー。久しぶり。と言っても僕には1週間もたっていないのだけどね。僕はリディアをアリスと間違えてしまったよ。よく似ている。僕にしたら、アリスの妹にしか思えない」
「ジョナサン。クックが運ぶのはこの小さい紙なの。今までので一枚終わってしまったわ」
「そう言われてもなあ。短くしたら、やあラリー、リディアはアリスに似ているね、かな」
ケイトが寄って来てた。
「それじゃあ返答は、そうだね、よ。なんというか中身がなさすぎ。元の文で良いと思うわよ」
ダリアが交ざってきた。
「私が外出するときに、手紙を渡せないかしら。そうしたらいくらでも書けるわよ」
それだ、とケイトが叫んだ。
「馬車の通る道に立っていて貰って、手紙を目の前で落とすのよ。いいと思わない?」
明日の朝、クックが来てくれれば、連絡できる。私は明日クックに持たせる手紙を用意した。
クックは鳩なので、夜には動けないのがネックだ。私はここを出たら、伝書猫の訓練を初めようと思う。
それからジョナサンの口述筆記に取りかかった。ジョナサンにとって、父は同じ十九歳の若者のようだ。書いている私には違和感がすごいけど、この手紙を受け取った父は笑うのだろうか。泣くのだろうか。
四枚に及ぶ長編になった手紙をきれいに折りたたみ、ダリアに渡した。他の人の手に渡ったとしても、問題のない内容なので、ダリアにもそう言って、安心させておいた。
「私、頑張るわ。お父様の外見を教えて」
「金髪で私と同じ緑の目で、背はジョナサンと同じくらい。三十六歳だけど三十歳くらいに見えるかも。少し痩せたしね。洒落者で目立つわ」
ワーオ、イケてるオジサマねと、またケイトが淑女らしからぬ声を上げた。ジョナサンはニヤニヤしている。
「オジサンになったラリーか。駄目だ、想像できないよ。会えたら面白いのに」
「できるかもしれないわよ。ジョナサンの生態をもっと調べましょう。きっと方法があると思うの」
ケイトが任せてと手を挙げる。調査や実験は大好物だと言い、早速調べる項目をまとめ始めた。ジョナサンにも、色々と聞き取りをしている。
それが終わった後、ジョナサンは礼儀正しく挨拶をして、どこかへ帰っていった。
翌朝目覚めて窓を開けると、クックがすぐにやってきた。手紙と飴を外してあげて、まずは手紙を読んだ。
「今日、お父様が男爵家を訪問するって。ダリアに会えるのを楽しみにしている、だって」
それなら直接手紙を渡せる。
男爵にダリアの件で抗議をして、諌めてくれるはず。
「ダリア、もう大丈夫よ。ジョナサンのことも、色々相談できる」
私達三人は手をつないで跳ね回った。
夕方になって戻ってきたダリアは、雰囲気が変わっていた。なんだか大人っぽいし、色っぽい。
首尾を聞きたくて、部屋で待ちわびていた私とケイトは、思わず二人で身を寄せ合って、後ずさってしまった。
勇気のあるケイトが、ゴクリとツバを飲み込んでから尋ねた。
「何かあった?」
「男爵家でハント伯爵様と一緒にお茶をいただいたわ。すごく楽しかった」
ダリアの目が熱い。私とケイトは互いの服を掴んで、目で語り合った。
これは、何? まさか、恋? まさかねえ。だって私たちの父親の年齢のオジサンよ。
「まさかとは思うけど、父が何か失礼な事を言ったりした?」
ダリアが私の手を握りしめた。
「いいえ、とても優しい目で私を見つめて、大丈夫だよって言ってくださったわ。あんなに愛のこもった優しい目を向けられたのは初めてよ」
ピンときた。
お父様はいつも私にそういう目を向ける。友人や、その他の女性たちから、あんなに熱い目で見られたら、一瞬で恋に落ちる、とよく言われる。
私自身は生まれてからずっと、その視線を向けられているので、何も感じない。
お父様はダリアを通して私を見ているのだろう。だから同じような目を向けてしまっているのかもしれない。これは父に厳重注意だわ。絶対に駄目。
「私、いつも欲に歪んだ目ばかり見ているの。それが無い、純粋な愛のこもった目は初めてよ」
あ、やっぱり。それは娘への愛だからね。欲は入ってないのよ。
でも誤解は解いておかなくては。
「お父様は私に向かって、いつもそういう視線を向けるの。私の友達だから、同じように見ているのだと思うわ」
ダリアはピタッと動きを止めた。そしてゆっくりとこちらを振り向いた。その目が潤んでいる。
「私、リディアの代わりなのね」
嫌だわ。なんだか三角関係の修羅場みたい。慌ててケイトを振り返ると、目をキラキラさせてこっちを眺めている。完全に観客状態だ。
私がジェスチャーで、助けて、と合図すると、ケイトが助けに来てくれた。
「ところでさ、男爵家であったこと聞かせてよ」
ケイトがモヤモヤの展開をバッサリと切った。
そうよね、それを聞きたくて、待っていたのだもの。ダリア、正気に戻って! 私は手を組んで祈りながらダリアが口を開くのを待った。ダリアはキョトンとしていたが、ゆっくりと話し始めた。
「男爵邸に着いたら、いつもより屋敷が騒がしくて、使用人達にも緊張が見られたわ。私はいつもの奥様の私室ではなく、サロンに通されたの。そこに伯爵様がいたのよ」
ダリアは思い出したのか、嬉しそうに微笑んだ。
「勿論、男爵夫妻も同席されていて、会話していたわ。男爵が私を紹介すると、きちんと挨拶してくださって、それから、今後は君が来る時には、私も同席させてもらうよ、と仰ったの」
ケイトが手を叩いて、やったわね、と叫んだ。これで、修道院の待遇に関しても、ジョナサンに関しても、お父様からの助けを期待できる。
「私、週に3回も伯爵様と会えるのだわ」
またダリアがピンク色のモヤを振りまき始めた。即座にケイトが、それで、と軌道修正し話を戻した。
「男爵家に、マリーという侍女を連れてきていたけど、リディアの専属の侍女ですってね。リディアのこと、すごく心配していたわ。これからは、奥様のお相手が終わったあと、伯爵様と二人で話す時間を、取ることになったの。勿論マリーが同席するわよ」
ホー、男爵家を使い倒すつもりね、と言ってケイトが感心している。
お父様ったら、また強引な手を使ったのでしょうね。でも、これでダリアは守れる。




