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修道院パラダイス  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第四章 ジョナサンとクロスの謎

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お父様との連携


 その夜、影のまま現れたジョナサンは、ダリアの仕事の話を聞くと、怒りと驚きでバラけた。

 集まって形を戻した後、彼はダリアに、護身術を教えると言い出した。ありがたいけど、とても間に合いそうにない。


「ありがとう。夕方に父に手紙を出して、助けを求めたの。だから何か手を打ってくれると思うわ。お父様は頼りになるもの」


「十七年後のラリーか。会ってみたいなあ」


「手紙を書けばいいわ。代筆するわよ」


 ふと見ると、ジョナサンがペンを握ろうと頑張っていた。全く握れないようだ。


 モノクロなだけで、後は普通の人間に見えるのに、実態は霧や雲のようなもの? まあ、驚くとバラけるのだから、きっとそうね。


「やっぱり駄目か。口述は気恥ずかしいのだけど、そうも言ってられないか」


 ジョナサンは照れながら口述した。


「やあ、ラリー。久しぶり。と言っても僕には1週間もたっていないのだけどね。僕はリディアをアリスと間違えてしまったよ。よく似ている。僕にしたら、アリスの妹にしか思えない」


「ジョナサン。クックが運ぶのはこの小さい紙なの。今までので一枚終わってしまったわ」


「そう言われてもなあ。短くしたら、やあラリー、リディアはアリスに似ているね、かな」


 ケイトが寄って来てた。


「それじゃあ返答は、そうだね、よ。なんというか中身がなさすぎ。元の文で良いと思うわよ」


 ダリアが交ざってきた。


「私が外出するときに、手紙を渡せないかしら。そうしたらいくらでも書けるわよ」


 それだ、とケイトが叫んだ。


「馬車の通る道に立っていて貰って、手紙を目の前で落とすのよ。いいと思わない?」


 明日の朝、クックが来てくれれば、連絡できる。私は明日クックに持たせる手紙を用意した。

 クックは鳩なので、夜には動けないのがネックだ。私はここを出たら、伝書猫の訓練を初めようと思う。


 それからジョナサンの口述筆記に取りかかった。ジョナサンにとって、父は同じ十九歳の若者のようだ。書いている私には違和感がすごいけど、この手紙を受け取った父は笑うのだろうか。泣くのだろうか。


 四枚に及ぶ長編になった手紙をきれいに折りたたみ、ダリアに渡した。他の人の手に渡ったとしても、問題のない内容なので、ダリアにもそう言って、安心させておいた。


「私、頑張るわ。お父様の外見を教えて」


「金髪で私と同じ緑の目で、背はジョナサンと同じくらい。三十六歳だけど三十歳くらいに見えるかも。少し痩せたしね。洒落者で目立つわ」


 ワーオ、イケてるオジサマねと、またケイトが淑女らしからぬ声を上げた。ジョナサンはニヤニヤしている。


「オジサンになったラリーか。駄目だ、想像できないよ。会えたら面白いのに」


「できるかもしれないわよ。ジョナサンの生態をもっと調べましょう。きっと方法があると思うの」


 ケイトが任せてと手を挙げる。調査や実験は大好物だと言い、早速調べる項目をまとめ始めた。ジョナサンにも、色々と聞き取りをしている。

 それが終わった後、ジョナサンは礼儀正しく挨拶をして、どこかへ帰っていった。



 翌朝目覚めて窓を開けると、クックがすぐにやってきた。手紙と飴を外してあげて、まずは手紙を読んだ。


「今日、お父様が男爵家を訪問するって。ダリアに会えるのを楽しみにしている、だって」


 それなら直接手紙を渡せる。

 男爵にダリアの件で抗議をして、諌めてくれるはず。


「ダリア、もう大丈夫よ。ジョナサンのことも、色々相談できる」


 私達三人は手をつないで跳ね回った。



 夕方になって戻ってきたダリアは、雰囲気が変わっていた。なんだか大人っぽいし、色っぽい。

 首尾を聞きたくて、部屋で待ちわびていた私とケイトは、思わず二人で身を寄せ合って、後ずさってしまった。


 勇気のあるケイトが、ゴクリとツバを飲み込んでから尋ねた。


「何かあった?」


「男爵家でハント伯爵様と一緒にお茶をいただいたわ。すごく楽しかった」


 ダリアの目が熱い。私とケイトは互いの服を掴んで、目で語り合った。

 これは、何? まさか、恋? まさかねえ。だって私たちの父親の年齢のオジサンよ。


「まさかとは思うけど、父が何か失礼な事を言ったりした?」


 ダリアが私の手を握りしめた。


「いいえ、とても優しい目で私を見つめて、大丈夫だよって言ってくださったわ。あんなに愛のこもった優しい目を向けられたのは初めてよ」


 ピンときた。

 お父様はいつも私にそういう目を向ける。友人や、その他の女性たちから、あんなに熱い目で見られたら、一瞬で恋に落ちる、とよく言われる。

 私自身は生まれてからずっと、その視線を向けられているので、何も感じない。


 お父様はダリアを通して私を見ているのだろう。だから同じような目を向けてしまっているのかもしれない。これは父に厳重注意だわ。絶対に駄目。


「私、いつも欲に歪んだ目ばかり見ているの。それが無い、純粋な愛のこもった目は初めてよ」


 あ、やっぱり。それは娘への愛だからね。欲は入ってないのよ。

 でも誤解は解いておかなくては。


「お父様は私に向かって、いつもそういう視線を向けるの。私の友達だから、同じように見ているのだと思うわ」


 ダリアはピタッと動きを止めた。そしてゆっくりとこちらを振り向いた。その目が潤んでいる。


「私、リディアの代わりなのね」


 嫌だわ。なんだか三角関係の修羅場みたい。慌ててケイトを振り返ると、目をキラキラさせてこっちを眺めている。完全に観客状態だ。


 私がジェスチャーで、助けて、と合図すると、ケイトが助けに来てくれた。


「ところでさ、男爵家であったこと聞かせてよ」


 ケイトがモヤモヤの展開をバッサリと切った。

 そうよね、それを聞きたくて、待っていたのだもの。ダリア、正気に戻って! 私は手を組んで祈りながらダリアが口を開くのを待った。ダリアはキョトンとしていたが、ゆっくりと話し始めた。


「男爵邸に着いたら、いつもより屋敷が騒がしくて、使用人達にも緊張が見られたわ。私はいつもの奥様の私室ではなく、サロンに通されたの。そこに伯爵様がいたのよ」


 ダリアは思い出したのか、嬉しそうに微笑んだ。


「勿論、男爵夫妻も同席されていて、会話していたわ。男爵が私を紹介すると、きちんと挨拶してくださって、それから、今後は君が来る時には、私も同席させてもらうよ、と仰ったの」


 ケイトが手を叩いて、やったわね、と叫んだ。これで、修道院の待遇に関しても、ジョナサンに関しても、お父様からの助けを期待できる。


「私、週に3回も伯爵様と会えるのだわ」


 またダリアがピンク色のモヤを振りまき始めた。即座にケイトが、それで、と軌道修正し話を戻した。


「男爵家に、マリーという侍女を連れてきていたけど、リディアの専属の侍女ですってね。リディアのこと、すごく心配していたわ。これからは、奥様のお相手が終わったあと、伯爵様と二人で話す時間を、取ることになったの。勿論マリーが同席するわよ」


 ホー、男爵家を使い倒すつもりね、と言ってケイトが感心している。

 お父様ったら、また強引な手を使ったのでしょうね。でも、これでダリアは守れる。


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