次なる封印の地へ
ウタカタは魔物を退治しながら、セツナに案内されるまま風の精霊が封印されている山を目指す。
「ちょっと聞きたいんだけどいいかい?なんでこうも山に精霊を封印するのかねぇ。辿り着くまで登頂しないといけないなんて、大変じゃないの」
ウタカタはセツナに疑問を投げかけつつぼやく。
それに対してセツナが答える。
「不遜な輩が精霊様の封印を解いたりしないように、簡単には踏み入ることのできない場所に封印されているんですよ。我慢してください!」
「その割には、今回随分と簡単に精霊さんの封印が解かれてるじゃないの。話と違うよー?」
至極真っ当な意見がウタカタによって突っ込まれる。
しかし、これに対してカチンときたセツナは、厳しい口調で言い返した。
「うだうだうるさいですよ!男の癖に!」
ウタカタの不躾な言葉が、セツナを怒らせてしまった。
すかさずウタカタは、セツナに謝罪をする。
「あぁ、悪かったよセツナ。何もそんなに怒らなくてもいいだろぉ?」
ウタカタは弱々しい声でそう言った。
目的地に近づくにつれて、次第に天候は荒れ始めた。
二人はあの黒い竜巻の暴風を、その身に感じる距離まで来た。
「ものすごい風圧だねぇ。これは巻き込まれたら、一巻の終わりってやつだねぇ」
ウタカタは山の麓で無精髭をさすりながら、黒い竜巻を眺めていた。
「少し遠回りになりますが、念の為、あの竜巻から遠ざかる道のりで進みましょう。今回登る山は、人が登れるように整備されていない断崖絶壁です、気をつけてくださいねウタカタさん」
元々断崖絶壁の山のため、安全な道など初めから存在しないが、セツナは竜巻を警戒して、比較的安全な道を選ぶ。
嵐の中を登頂し始め、魔物の数が増えてきた。
「風の魔物ってのは、結構早いんだねぇ。割と真面目に相手しないと、倒すのも一苦労だよ」
「倒せるなら、何の問題もないじゃないですか」
セツナがそう言うと、ウタカタは人差し指を立てて左右に振りながらこう言った。
「ちっちっちっ、わかってないねぇセツナ。一体一体真面目に相手してちゃあ身体が保たんのよ。意外と神経擦り減るんだよー、これが」
その言い方からは、とても真面目に戦っているとは思えなかった。
「困りましたねぇ、私にはどうすることもできません」
「適度に肩の力抜いて戦うしかないねぇ、どーも」
嵐の中での戦いということもあり、地面は雨でぬかるんできて、足へかかる負担も大きくなってきた。
加えて、竜巻の風圧が僅かだがウタカタの視界を奪い、動きをも鈍らせていた。
さらには、ここからはより厳しい斜面を登頂することになる。
山の斜面がじわじわとウタカタの体力を奪っていく。
魔物と戦うだけではなく、この劣悪な環境下での戦闘自体、ウタカタにかかる負荷は大きかった。
そして、麓にいた時よりも山を登るにつれて次々と魔物が現れるようになった。
「風の精霊さんが近いのかねぇ、随分と魔物が出てくるようになったよぉ!?」
ウタカタは斬撃を繰り出すが、風の魔物は素早くかわしてウタカタに風の刃を浴びせた。
「くっ、カマイタチみたいなもんかねぇ」
ウタカタの肌を、風の魔物が放った風の刃が鋭く斬りつける。
ウタカタの衣服が切れて、そこから切り傷が覗く。
その様子を見て、土の精霊がウタカタに話しかけた。
『ワシの力を使え、ウタカタよ』
それを聞き、ウタカタは気乗りしない様子で答えた。
「ふぅー、仕方ないねぇ。本当は、こういうのに頼りたくはなかったんだけどねえ!」
そう言い放つと、周囲の岩が宙に浮き、ウタカタの周りを取り囲む。
すると、ウタカタは岩の鎧を身に纏っていた。
「金剛鎧装!とでも、名付けようかねぇ」
風の魔物の風の刃による斬撃を、この岩の鎧が完全に防いだ。
「おぉ!凄いねぇこいつは、無傷だよ」
子供のようにウタカタが歓喜する。
難なく魔物を退治し、その鎧を纏い次々と魔物を退治して進む。
「精霊様の力は、やはりすごいですね!」
『当たり前じゃ、この程度造作もないわい』
しかし、しばらく登頂すると、ウタカタは息を切らしながら弱音を吐いた。
「はぁはぁ、魔物退治は……これでだいぶ楽になったけど……はぁ、あれだねぇ。……鎧が重くて、山登りが……ふぅ、しんどいねぇ、どうも。」
「ウタカタさん!我慢してください!」
「いや……こればっかりは、はぁはぁ……流石に、俺も人間だからねぇ」
そう言われ、先ほどキツく言い放ったセツナだったが、考えを改めた。
「確かに、1日で二つの山を登頂すること自体、かなり大変ですよね。少し休みましょうか」
セツナはウタカタの意見を聞き入れ、休憩を取ることを提案した。
「でも、早く精霊さんを止めないと……被害が拡大しちゃうからねぇ。ふぅー、辛くても……急ごうか」
ウタカタがそう言うと、今度はセツナの方が止めに入った。
「いえ、休憩しましょう。精霊様とこれから戦うんです、そんなへとへとの状態では困ります!」
「手厳しいねぇ、こりゃぁ。でもまぁ、お言葉に甘えちゃおうかな。土の精霊さんみたいに、また、核を見つけるまで、肉体を再生されちゃ堪んないからねぇ」
そう言うと、ウタカタとセツナは山の中腹で休憩を取った。
天候は大荒れで凄まじい嵐だった。
黒い竜巻は徐々にだが、確実に歩を進めていた。
その竜巻は近くの家を飲み込んだ。
飲み込まれた家はバラバラに破壊され、その破片が周囲へと撒き散らされている。
その惨状を見ながら取る休憩は、どこかバツの悪さを感じさせるものだった。
今まさに目の前で被害が出ている中、自分は休憩をしているという事実。
心と体を休める休憩を居心地の悪いものへと変える、あまりにも残酷な現実だった。
天から『休憩をしている場合ではない』とでも言われているような、そんな気さえする。
ウタカタはその光景を見て、堪えきれずに声をかける。
「セツナ……」
セツナはウタカタの想いをわかってのことか、ウタカタが何かを言う前に答えた。
「ウタカタさん、今は自分のことだけ考えてください。私たちにできることは、この世界にとってはちっぽけなことかもしれません。全てを守ることは、残念ながらできないのです。だからこそ、一番大切なことだけは、守らないといけない」
セツナは、目の前で竜巻に飲み込まれる民家を犠牲として受け入れている。
自分の力では守りきれないものとして、割り切って考えていた。
これは非情なのではなく、自分の無力さを自覚してのことだ。
「強い娘だねぇ、君は」
「強くなんて、ありませんよ。私には……何もできません」
涙を流しながら、セツナが自分の非力さを嘆く。
ウタカタは続けて言った。
「いや、それがわかっていて、それでも自分にできることを全力でやろうとしてる。十分強い娘だよ、君は」
そう言うと、ウタカタは立ち上がった。
「さぁ行こうか、休憩は十分取ったよ」
その様子を見て、セツナが問う。
「無理してませんか?ウタカタさん……」
それを受けてウタカタは、冗談めかして笑いながら答えた。
「ははっ、無理しなきゃやってられないよ、こんなこと」




