能力の限界
ウタカタの放った斬撃が光の精霊に直撃する瞬間——。
——ガキィィィン!!
回転する盾が速度を増して、ウタカタの刀を弾いた。
直後、光の剣が上空に昇る。
光の精霊の頭上まで昇ると、切先が一斉にウタカタへと向いた。
「標的を捉えたって感じがしてならないねぇ」
光の剣はウタカタを串刺しにするように、ウタカタ目掛けて放たれた。
次々に連続でウタカタを襲う。
——ザクザクザクッ!
光の剣が硬い地下洞窟の地面に深く突き刺さる。
「喰らったらお終いだねぇ」
素早く走り抜けて光の剣をかわす。
しかし、光の精霊がウタカタへ距離を詰めて、ウタカタの移動先へと光の剣を振りかざす。
「まずいっ!闇沼眩まし」
ウタカタは自分の影の中に身を隠した。
『間一髪だったね。ところで、一つ聞いていいかな?何だい?その、闇沼眩ましって』
影の中に潜り安全を確保したことを確認すると、常闇がウタカタに質問した。
「あぁ、今のかい?影に潜って逃げるこの技に名前をつけたんだよ。いいだろ?闇沼眩まし」
『まぁ、君の好きにしたらいいよ。それより、さっきの攻撃。剣を放ちながら君の逃げ道を誘導し、先回りしてタイミングを合わせて近接を仕掛けてきた。結構厄介だよ』
「まぁ、でも、精霊さんの影から出て奇襲を決められれば、まだやりようはある。盾に弾かれちゃったからねぇ。今度は威力を上げないとだ」
ウタカタの刀がバチバチと鋭い音を立てて放電した。
さらに、風と炎を纏う。
『もう一度やるんだね?』
「あぁ、今度は盾を貫く」
ウタカタは刀を水平に構える。
「影渡り!」
そして、再び光の精霊の影から姿を現す。
「無影刺突!」
背後から鋭い突きを繰り出す。
光の精霊は再び盾を素早く回転させた。
ウタカタの放った突きが盾に衝突。
盾は一瞬で貫かれ砕け散った。
そして、ウタカタの突きが光の精霊の肉体に深く突き刺さる。
『やった!?』
「あとはしらみつぶしに核を探すだけだねぇ」
ウタカタが刀を引き抜くと、光の剣が水平に展開された。
そして、素早く回転する。
「むっ!やってきたか」
後ろに飛び退き素早く距離を取るが、回転する光の剣がウタカタ目掛けて放たれる。
「闇沼眩まし!」
飛び退いた後、着地の硬直なくそのまま地面に吸い込まれるように、ウタカタの体が影の中に沈む。
光の剣はウタカタを捉えることなく、後方の壁面に深々と突き刺さった。
「今のは……やばかったねぇ。あと少し判断が遅かったら、影に着地する前に串刺しになってたところだよ」
『よく反応できたね。でも、今のは想定内の攻撃だったから対処できたにすぎない。もしこちらの想定を超える攻撃をしてこられたら、終わりだ』
「どうしようかねぇ。今のでかなり、気持ちとしては攻めにくくなっちゃったよぉ」
『死にかけたからね……。そうだ、それなら、安全に攻められるように拘束しようか。光の精霊の体を影で縛り付けるんだ』
「影で縛り付ける?」
『そう。奴自身の影が奴の体を縫うように突き刺さり、体を固定して動きを止めるんだ』
「何だかあまりにも非現実的だねぇ」
『それを言うなら、この回避手段だってそうさ』
「まぁ、そうだけど……とりあえずやってみるか。影渡り」
ウタカタは倒壊した神社の瓦礫の影から地上に戻る。
そして、地上の様子を伺い、光の精霊の姿を確認した。
「よし、あの影で動きを止めるんだねぇ。やってみようか」
ウタカタは目を閉じた。
光の精霊の影が縫うように肉体を突き刺して、精霊の動きを止める想像をした。
しかし、一向に光の精霊の影が肉体を突き刺すことはなかった。
『どうしたんだ、ウタカタ?もしかして、思い描けない?』
「いや、想像はできたんだけど、そんなんであの精霊さんの動きが止まるかと思ってねぇ」
『…………君はこれまで、精霊の力を借りることで、本来ならあり得ない現象を当たり前のように起こしてきた』
「……何だい、急に?」
『土を操ることも、炎を纏うことも、雷を放つことも、普通ならできるはずがない。だが君は、それができると信じて疑わなかった。精霊の力を借りているのだから、できて当然だとね』
ウタカタは黙って聞いていた。
『僕の力は概念を司る力だ。現実の理屈そのものを捻じ曲げる能力。現実の理りと矛盾する事象を想像し、それができて当たり前と思い信じること。それができなければ、僕の力は扱えない』
「……常識っていう壁で、自分で自分に限界を作ってしまってたようだねぇ」
『動きを止める技は失敗した、どうする?』
「一回の失敗で諦めるほど、俺は物分かりよくないんでねぇ」
『奴の攻撃をかわしながらやる気?危険だよ?』
「でも、戦いの中で動きを止められれば好機。やばくなったら影の中に逃げるさぁ」
ウタカタは、光の精霊に見えるように瓦礫の上に立った。
それに気づき、光の精霊の眼前に光が集まる。
『来るよっ!』
距離が開いているためか、今までの倍ほどの大きな光線を放った。
「はっ!?闇沼眩まし」
走って回避するのでは間に合わないと判断し、すぐさま影の中へ避難する。
「ふぅ、いきなり使わされるかぁ。なんだいあの規格外の光線」
安全を期して、ウタカタは光の精霊の影からは出ずに、近くの瓦礫の影から姿を現す。
地上に出ると、先ほど放った光線が通った道筋がわかるほどに、全てが消失していた。
地下洞窟の天井を突き破り、地上の地面ごと消し飛ばしていた。
ウタカタと光の精霊は、いつの間にか日の光の下に立っていた。
「暴走って言葉がぴったりなほどの暴れっぷりだねぇ」
『軽口を叩いている余裕はないよ。奴の破壊によって影を作る物がなくなってきた。全てなくなれば、自分か奴の影からしか出てこられなくなる。暴走しているとはいえ、詰むかもしれないぞ』
「突破するには、精霊さんの動きを止めてる間に決着をつけることだねぇ」
ウタカタはゆっくり目を閉じて立つ。
しばらくして、ゆっくりと開いた。
「自己暗示ってやつが、まさか本当に戦闘で役に立つ時が来るとは思わなかったよ」
ウタカタは精霊へと向かって走った。
『本当にできるの?』
「できる、できないじゃない。やらなきゃならないなら、やるだけさぁ」
ウタカタの目は真っ直ぐ精霊を捉えていた。
光の剣が間合いを詰めようとするウタカタを襲う。
宙に浮いた剣が操られたように斬りかかる。
ウタカタはこれを素早くかわし、距離を詰めていった。
しかし、距離が詰まると一斉に光の剣が精霊を中心に取り囲む。
そして、外側へと刃を向けて回転した。
「きたねぇっ!」
それを見て、一度距離を取るウタカタ。
光の剣は、ウタカタが距離をとったところを狙い澄ましたようにウタカタへと飛んでいった。
「まだだ、もっと引きつけないとねぇ」
何本も放たれる光の剣をかわしていき、光の精霊を囲う剣が減ったのを確認すると——。
「影渡り!」
ウタカタは素早く自分の影の中に入り、そしてすぐに光の精霊の影から姿を現した。
『速い!二つの技を連動させるなんて、もう感覚を掴んでものにしたのか』




